2023/1124 『子どもたちの逆襲』とのコラボ(作:カオス饅頭)
【文章】カオス饅頭 【イラスト】カオス饅頭
【コラボ先】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界、魔王城で子どもを守る保育士兼魔王 始めました。
作者:夢見真由利 様
ncode.syosetu.com/n0124gr/
【マリカ一行、五年前のオリオンへ】第七話
2023/1029 『子どもたちの逆襲』とのコラボ(作:カオス饅頭)https://ncode.syosetu.com/n5436hz/14/
の、続きとなります
◆
フェイはあっさり目が好きと言う事で塩ラーメン。
そしてマリカは何にしようかパラパラとメニューを捲っていると、あるしょうゆラーメンに目を惹かれる。
「あ、コレもあるんだ」
『しじみラーメン』と書かれていた。
ジャラジャラとしじみが乗った絵が、やたら写実的な事に、異世界らしさを感じる。ラーメンのメニューって牧歌的な絵の印象だ。
マリカが前世で地球に居た頃に食べてなんとなく美味しいと思った程度である。
しかしその『なんとなく』に出会い辛いのが、店ごとに微妙にメニューが違うラーメン屋というものだ。
この世界におけるしじみラーメンについても、シェフから解説が入る。
自動翻訳の結果なのかも知れないが、単なるラーメン屋のオヤジなのにシェフと呼ぶのも、また異世界らしいと言えば異世界らしい。
マリカからしてみれば、あのタオルはコック帽のような物なのだろうかという感想もなんとなく頭を過ぎった。
「『しじみラーメン』は我が領を代表するご当地ラーメンですね。大真珠湖で養殖された新鮮な大しじみを贅沢に乗せた逸品であります。
その名の通りアサリのように大きいので、身を取り出すのにそれ程苦労はしません」
大真珠湖はマリカ達も前回領都に来た時に少しだけ見た事がある。
ラッキーダスト侯爵領の中心にある観光スポットの大湖で、ボート遊びや釣り等を楽しむ事が出来る場所だ。
その一方で、大真珠湖には初代当主がしじみを使って秘密裏に人工真珠を作り、各地へ密売していたという商業的な歴史もあった。
品種改良によって大しじみになっていったのもその為だ。
王国は海神信仰の為、真珠は宗教的な価値があり、様々な儀式で用いられる。
なので人工真珠にはかなりの需要があるのだが、例えば日本人が鳥居を無下に出来ないように人工的に作り出すのは躊躇いが生じやすい。
しかし初代当主は勇者と言う名のチンピラなので、宗教のありがたみなど知った事ではなかったのである。
こうして『密売』という名の周知の事実によって、作成法が完全に確立されている現在もラッキーダスト侯爵家がシェアを独占し続けているという状態が続いているのだった。
尤も侯爵家は、この状態はそろそろ終わると考えている。
成金貴族の台頭や錬金術の発達など、権威や宗教を恐れない人間が増えて来たからだ。
なので真珠に頼らない経済基盤はとっくの昔の数代前に確立されており、もっと人工真珠が一般的になる時代になったら「かつて人工真珠を作る為に品種改良された大しじみ」と宣伝文句を付けて、歴史的価値を上乗せしようとさえ思っていたりする。
地球で言えば戦国時代で硝石を密造していた隠れ里の如くである。
「へい、おまち!」
と、話が逸れたところでラーメンがやって来た。
透明感のあるしょうゆスープの上には沢山の大しじみ、メンマ、ワカメ、そしてネギ。
マリカはレンゲで掬ったスープを舌で転がすと、しじみベースに鯛出汁で奥行を加えたスープの味がジワリと口に染み込んでくる。
醤油は味噌ベースの上澄みを使ったたまり醤油なので、かなり濃厚な旨味だった。
懐かしいような違うような。覚えるのはそんな感動。
「箸で身が取れるしじみって初めて見た。ホントに大きいね」
「だろ?手を拭う必要がないからお洒落な服でも安心だし、脂控えめでニンニクも使っていないから、デートでも食べられる。
ウチの領が観光地として栄えている影の立役者さ」
アセナはそう言って、味噌ラーメンをアダマスと分け合っていた。その姿は本当の姉弟のようである。
そういえば周りはどうなのかと見れば、はじめて食べる物に苦戦したり、しかし未知の味に感動したりと様々な物。
リオンとフェイに少し貰うと、チャーシューではなく塩漬け豚を使っている事に驚いたような納得したような。
醤油が無い上に、港町なのだから自然な事とも言える。
なんとなしにある日の地球、家族でラーメン屋に来た時を思い起こさせるものがあり、キュンと切なくなってきた。
地球では、『私』はどんな風に食べていたっけ?
「どうしたマリカ?」
「あ、いや。なんでもない」
「そうか。何か困ったことがあったら言えよ」
マリカの様子に違和感を覚えたリオンが現実に戻して来た。
そこでハッと気付けば、ラーメンが無くなっていた事に気付く。何時の間にか中身が無くなるのはラーメンあるあるなのだ。
「ん、替え玉やるか?」
「あ、いいです」
アセナに聞かれ、何故かそう答えていた。
さっきと同じ流れなんだなあと、ボウと眺めて小さなラーメンを食べるアダマスは思っていたという。
◆
船着き場。
蒸気船に乗ろうとするマリカ一行にアセナは手を振った。
手には、ラーメン屋で貰ったお土産のレシピ集『誰でも簡単!本格ラーメン』がある。日本語版だ。
「じゃあ、コレに乗っちまえば後は領都だ。
そこから領主館に行けば帰還装置で帰る事が出来る。
行先は元の世界でも良いし、地球でも良い。そこはマリカ次第だ。迷うんじゃねえぞ」
「大丈夫だよ、『二回目』だから」
はにかむようにマリカは、ニッと笑って慣れないピースサイン。
これ言っちゃうかと思うアセナだが、気にしない事にする。
何か意味深な台詞程度では選択肢が多すぎる。今のアダマスでは真実に辿り着けないだろう。
苦笑いを浮かべ、手と尻尾を振った。
「そうだな。じゃあ、『また今度』なっ!」
「うん。今度は会えると良いね」
汽笛が一吹き。外輪がゆっくりと回り川水を組み上げる。
こうして一隻の船は、異界の住人達を乗せて旅立って行ったのだった。