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2023/1029 『子どもたちの逆襲』とのコラボ(作:カオス饅頭)

【文章】カオス饅頭

【コラボ先】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界、魔王城で子どもを守る保育士兼魔王 始めました。

作者:夢見真由利 様

ncode.syosetu.com/n0124gr/

【マリカ一行、五年前のオリオンへ】第六話


2023/1029 『子どもたちの逆襲』とのコラボ(作:カオス饅頭)https://ncode.syosetu.com/n5436hz/13/

の、続きとなります



 領都と旧都を結ぶ船着き場。

 向こうの世界ではまだ実用化されていない蒸気船が二隻並んで、その内の一隻が風向きを無視し人を運んでいく。

 もう一隻は休ませているのだ。


 ピコピコ=リンリン王国の蒸気船事情について前回魔王城に来た『アダマス』から聞いてはいたが、実際に一般人に使われている形を見てみると具体的な未来像がスルリと頭に入って、異世界からの来訪者達は思わずじっくり眺めたくなる。

 しかし一方でマリカは、蒸気船も大切なのだがアセナの視線の先が気になって仕方なかった。

 それは余りにも見慣れた光景だったのだから。


 『開拓麺』


 そのように達筆で書かれた大看板が、屋敷の様に大きな店に掲げられていた。

 出入口には、かつて労働者達が食事後に手をふく為に使っていた『のれん』が掛かっており、置かれたベンチには並んでいる客が座っている。

 『地球』のお昼のテレビでよく見る人気ラーメン店の光景だ。スマートフォンを持っていない事に違和感を覚える程だ。


 潮風に乗って来るのはお馴染みの豚を煮込むスープの香り。

 思わず男二人組もそちらへ関心が向く。


「美味いラーメン屋って色々考えていくと、やっぱ人気店に行きつくな。

この『開拓麺』は旧都開拓時代から労働者の中で親しまれ、現代においても旧都に到着したばかりで腹が減っていたり、逆にこれから領都に仕事に行くので腹を満たしておこうとするヤツらが食べている。

なので連日大量の客が押し寄せ、でっかい店をこさえても一時間は待つ」


 なにやら紙幣のような物を片手に、アセナは言う。

 その背中にはアダマスが隠れていた。ぴょこんと半分だけ顔を見せる。


「しかしウチは貴族も訪れる観光地なんで、それなりの権力と金があれば、並ばないで済む『特別室』へ行く事が出来る訳だ。

アダマスとご隠居様の権力を使って発行して頂いた」


 手に持っている紙幣が件の通行券という事らしい。

 ラッキーダスト家の紋章が印で押された豪華な意匠を施されていた。

 貴族の紋章の不正使用は犯罪なので、勿論店側にも紋章官の有資格者が居るという事になる。


「ほへ~……」


 思わずマリカは唸る。

 かつてラーメンブームによって、一部ではラーメンの地位を蕎麦程に引き上げようとする高級思考の職人が現れたが、悉く失敗している。

 どうしても権威が足りなくB級グルメを脱せなかったのである。


 しかしこの世界では、剣と魔術の時代から数世紀の歴史を持つ伝統料理。

 握り寿司が生まれたのは1800年前半。蕎麦が登場するのは1600年後半。

 故に足りなかった『権威』を得る事で、高級料理の地位も獲得してしまったのである。このような一般とは別の部屋を持つラーメン屋も珍しくなかったのだった。



 派手ではないが、よくよく見ると手の込んだ彫刻が成された木のテーブル。真鍮のような金属で脚が作られた丸い椅子。

 レトロと高級を混ぜた、薄暗めの不思議な空間だった。

 『ラーメンを心地よく食べられるが、貴族らしさを損なわない』というテーマ性で作られた部屋らしい。何処か古代ローマを思わせる。

 やや離れたところにはカウンターで区切られたキッチンがあった。

 少数しか入れない部屋なのにカウンターを作る意味なんてあるのだろうかという疑問にも、そこは様式美というしかない。


 アセナが慣れた動きでドカリと座り、コーティングした羊皮紙で作られ革のカバーを付けたメニューをマリカ達に渡す。

 幾つか解読した『異世界語』の内、『日本語』で書かれた物だ。

 実はアセナもラッキーダスト領に来て一年程度な上に、オリオンは臨時出張なのでそこまで慣れた方では無いのだが、そこは生まれついて族長の娘として生きてきた独特の慣れである。


「まあ、適当に頼めよ。詳しい内容はカウンターのオッサンが教えてくれるから」


 少しお高いイタリアンやフレンチ等のディナータイムでよくあるサービスだ。ラーメン屋でやるのは違和感があるが、郷に入っては郷に従え。


 マリカはパラパラと薄いメニューを開くと『しょうゆラーメン』『しおラーメン』『みそラーメン』『とんこつラーメン』と、成されているのはやたら見慣れたジャンル分け。狙ったように見慣れ過ぎて、思わずツッコミを入れそうになる。

 つけ麺もあれば、エスニックラーメンとかいうマイナーなジャンルもある。

 彼女を挟むように座るリオンとフェイは、若干日本語が読めるのでウンウン頷きながらウインドウショッピングを楽しむように話し合う。


「どんな風に選べば良いか解るか?」

「基本的には、濃い味か薄味かなあ」

「じゃあ濃い目でいくか。味付けってどんなのが良いんだろうな」

「ええとね、個人的には味噌と豚骨かなあ」

「味噌……ああ、エルディランドのアレか。豚骨は、豚の骨を煮込んで出汁を取る……か。面白そうだな、こっちにしよう。

しかし豚骨にしても色々種類があるんだな」


 これは地球でいうところの『クラシックとんこつラーメン』『東京とんこつラーメン』の違いになる訳だが、流石にラーメンオタクでもないマリカではそこまでは解らない。

 状況を察したアセナがカウンターに視線をやると、黒いTシャツを着て頭に白いタオルを巻いた男は答える。


「豚骨は此方の世界で最も歴史の深いラーメンでして、山で獲った猪の骨を煮込んで作ったスープがはじまりとされております。

しかし豚骨をそのまま煮込んだクラシックな形式では『獣臭さ』がありまして、其方を好むお客様もおりますが、少数派で当店のように限られた店で出される物になっております。

現在は豚骨を割って血抜き・あく抜きを行った豚骨出汁に店ごとに好みの出汁で奥行きのある独自の味わいにし、野菜を加えたライトな物が一般的になっておりまして、はじめての方にはそちらがお勧めとなっております」


 そして醤油ダレにする事で『家系ラーメン』となる。

 リオンとマリカは互いに感心したように頷き、現在この世界でメジャーとされている、特に珍しくない方のとんこつラーメンを選ぶのだった。

 そしてフェイとマリカはどするか、再びメニューへ視線を落とす。

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