2023/1016 『子どもたちの逆襲』とのコラボ(作:カオス饅頭)
【文章】カオス饅頭
【コラボ先】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界、魔王城で子どもを守る保育士兼魔王 始めました。
作者:夢見真由利 様
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【マリカ一行、五年前のオリオンへ】第四話
2023/1012 『子どもたちの逆襲』とのコラボ(作:カオス饅頭)https://ncode.syosetu.com/n5436hz/11/
の、続きとなります
◆
アダマスが7歳という事は、シャルは現在6歳。その年頃の子供を独りにして、両親は此処に居る。
貴族なので乳母やメイドに任せているので安心という可能性は十分に考えられるが、マリカが前世と今世で保育士を勤めていた勘が「この親は違う」と告げている。
ぎゅっと拳を握り、間違っていたらどうしようという不安に駆られながらも、ポツリと声を発した。
「……娘さんは、幸せですか?」
はじめは問いに対し、少し悩んだ。
何を言っているのか理解出来なかったからだ。
そして数秒して、やっと頷く。
「ん、ああ。そういえば居たな、そんなの。
昔は他貴族と会う際に話題に出されたのだが、興味のない事なので話題にならなくなっていたから、なんか聞かれるのが久しぶりだ。
ゴートのヤツはしつこく聞いてくるのだが。
子が幸せであるかなど、興味はないと言おう」
尚、ゴートとはアダマスの父の略称である。
学園都市の同級生なのだ。
それにしても人の親として衝撃の一言だった。
常に人と仲良くしようとしているシャルの姿を思い出しつつ目を仰天としていると、更にとんでもない言葉が続いていく。
歯に絹着せぬのは、彼が嘘を付くのが嫌いだという貴族に向いていない性格をしているから。
「凡人にとって何が幸せなのかなど考えるだけ無駄だ。
ただ、雇っているメイドの連中は差別主義でアイツを見下している傾向が高いとは感じたか」
「失礼ですが……そうしたメイド達に囲まれているなら、虐待等は御座いませんか?」
「よくは解らんが、何かしようとする娘を茶化し体罰を与えているのは見た事はあるし、世間ではきっと虐待なのだと思うぞ?
私は只『館の維持をしろ』と言っただけだしな」
「改善はしないので」
「面倒だ。あのメイドは他貴族からの借り物だしな。
興味のない物の為に他貴族と諍いを起こし、時間を割く事になんの利益があるのだというのだ。
タイムパフォーマンスが悪すぎる」
まるで駄目だこのオヤジ。
その気持ちと同時に、ドス黒い何かが腹の底から込み上げて来る。
思わず一喝しようとした瞬間には、既にリオンがギョロリとした目で睨み拳を放とうとしていた。
──パシッ
「はい、そこまで」
しかしその一撃は、アセナに阻止される事になる。
勇者として一級品の攻撃力を持つリオンであるが、怒りで大ぶりになった拳なら加速する前に手首を握れたのだ。
つまりは、目にも留まらぬ太刀筋の居合をする敵に対して、放つ前の柄尻を足などで踏むようにして抑え込む居合返しみたいな物だ。
リオンは握る手を引っこ抜こうとするが、純粋な腕力なら獣人であるアセナの方が上だ。
唇を尖らす苦い表情をしながら言う。
「ここまでだ。王国法により、異世界人の行動に対する責任はウチのご主人が全て受け持つ事になっている」
「……チッ。解ったよ」
「すまんな。気持ちは解るんだけどね」
舌打ちして肩の力を抜くと、アセナは黙って手を離した。
それこそ都勤めをするようになったこその発想とも言える。きっと前世だったなら、アセナと敵対してでもバルザックを殴りにいっただろう。
そんな様子にバルザックは当たり前だといった様子で、特に恐怖する感情すら抱かず、街の奥に消えていった。
これから学園都市時代の恩師に会いに行き、『妻』について学術的な議論があるのだ。彼にとっては、異世界人の憤りや娘なんかよりもずっと興味を引く事だったのだ。
一方でアダマスは終始アセナの後ろに隠れていて「なんか異世界人が怒った。説明が悪かったのかな」程度にしか思っていなかったので、特にバルザックとガラテア達を記憶に留める事はなかった。
今の彼に、先程のマリカ程の勇気があれば未来は多少変わっていたかも知れないが、無理な話といえるのだった。
別の話となるが、この五年後。
ガラテアは遺伝病によって死亡。
バルザックは全てを失ったかのように抜け殻となり、虐待されていたシャルは、成長したアダマスの義妹として猶子に出されて幸せな日々を送る事になる。
具体的にはショタパン!の第一章の話に繋がるのだった。
◆
マリカ達一行はもやもやした気持ちを振り払おうと、イベント会場に来ていた。
石畳を敷いた円形の広場は、弧に沿う形で様々な屋台が立ち並ぶ。
新聞紙に包んだフィッシュアンドチップス、平たい小麦生地をクルリとコーン状に巻いて焼いた伝統菓子の『ウーブリ』。
港町らしいもので言えば、新鮮な魚の串焼きなんかも売っている。現代の地球と違い種類はバラバラだが、中々大きい。
他にもアイスやレモネード等があり、マリカ達はお小遣いで好きな物を食べてイベントを見ていた。
定期船乗り場で歌っているというB級の吟遊詩人、銃の時代に入り骨董品となった伝統派槍術の演舞、同様に骨董品となった樽内の水を操り洗濯をする魔術。
他にも同好会によるダンスや学生漫才など学園祭を思い出させるものもあり、本当に芸を披露するイベントだと感じられる。
その中の一つに『ツバメ返し』やら『天空落し』などの技名が付いたダイナミックな湯切りを披露するラーメン屋が居た。態々ラーメン屋台を持ってきている。
それがマリカの琴線に触れた。
「アセナちゃん、ここの世界ってラーメンがあるの!?」
「ん、ああ。あるよ。
アタシも実はこの国に入って日は浅い方で詳しくは解らないが、数世紀前に魔王城周辺を開拓して昔の領都……つまりはこの旧都を開発する労働者達がよく食べていたらしい。
因みにあのラーメン屋のおっさんは、パフォーマンスは良いんだが、味は普通だ」
「……おすすめのラーメン屋さんってある?」
「幾つか知っているな。紹介してやろうか」
「うん!」
マリカは、久しぶりの慣れ親しんだ味に思いをはせて目を輝かせる。
耳をピクピク動かすアセナは、何処にしようかなお脳内のラーメンマップにアクセスしていると、突如運営側の席から声が上がった。
その大きな声に、つい耳と尻尾をピンと立ててしまう。
「大変だ!結構な時間を取っていた一組が突然出れなくなったって!」
「まじか。何があったんだ!?」
「『パンツを取られたら負け』というガチムチパンツレスリングをやろうとして、わいせつ物陳列罪でリハーサル中に憲兵に捕まったらしい!」
「バカじゃねーの!?」
突然の欠員に騒ぎ呆れる周囲。
大きな溜息をついてアセナは呆れた。
しかし呆れながらも権力者の犬として、いないなら自分が約10分の尺を埋めようかと考えていると、『転生者である異世界人』のマリカが目に入る。
「そうだ。マリカって、なんか一発芸とか持ってる?」
「リュートとか、手品とかなら……。あ、踊りも出来ます!」
「ん。決まりだな。美味いラーメン屋を教えてやる代わりになんか披露してくれない?
必要な道具とかは、特別じゃ無ければ運営で用意してくれるからさ」
アセナはマリカの手を引き、異世界人を小さな舞台に立たせることを決めたのだった。