2023/1015 『子どもたちの逆襲』とのコラボ(作:カオス饅頭)
【文章】カオス饅頭
【コラボ先】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界、魔王城で子どもを守る保育士兼魔王 始めました。
作者:夢見真由利 様
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【マリカ一行、五年前のオリオンへ】第三話
2023/1012 『子どもたちの逆襲』とのコラボ(作:カオス饅頭)https://ncode.syosetu.com/n5436hz/10/
の、続きとなります
◆
子供五人ご一行は外に出る事になった。
だが一方でリオン。そしてフェイは同じ想いを胸に秘めていた。
──アセナ、なんて呼べばいいんだ?
自分達は正体不明な異世界からの来訪者であり、目の前のケモ耳少女は権力者のお目付け役というデリケートな立場。
しかしどう見ても下町に居るような悪ガキにしか見えないし、フランク過ぎる態度で接する気は満々である。
一昔前のリオンならどのような大人間に対しても呼び捨てにしていたものだが、マリカと共に生きるにあたって『都勤め』をする機会が多くなっていたせいか、そういう思考回路が身についていたのだった。
しかしそこへ助け舟が現れる。
二人の間に居たマリカが、問題の爆弾に向かって衝角アタックで突撃していった。
それは保育士としてのマニュアルに従った呼び方であるが、それ故に自然に出てきてインパクトの強い一撃と化す。
「アセナ『ちゃん』。その耳ってどう繋がっているの?」
「……ちゃん?」
「うん。駄目だったかな?」
「いや、良いけど。まあ、今までそう呼ばれた事は無くってな。
耳の付け根が横顔から頭まで伸びているな」
言葉だけ抜き出すと平然としているように見える。しかしそれは『仕事』だからだ。
内心のアセナは破裂しそうなくらいに動揺し、四肢をブンブン振り回して大声を上げそうなのをなんとか堪えて尻尾をブンブン振って態度を誤魔化していた。
尚、元地球人のマリカには犬は興奮すると尻尾を振る事はバレているが、それでも平然な振りをする。
衝角アタックと共に我に続け。乗るしかないこのビッグウェーブに。
リオンとフェイも話を広げる。
「へえ、遠くまで聞こえそうで便利そうだな。アセナ『ちゃん』」
「海や人込みだと情報量が多くて大変ではないでしょうか。アセナ『ちゃん』」
「んなっ!」
何時の間にやら包囲網。
今度こそ本当に焦りを見せるが子供社会で定着した呼び名を覆す事は難しき。普段のアセナなら殴って変えさせるが生憎公務。
立場に縛られているのはアセナも同様なのである。
ズンと落ち込むと、小さなアダマスが無言で肩を叩いた。
口を開く勇気があるのなら「ドンマイ」と言っているに違いない。
◆
街中の自然石の石畳を歩きながら向かっているのは中央広場だった。本日は『イベント』が行われるからだ。
近年は経済の発展と伝統派貴族の没落によって、力ある商人が成金貴族として台頭してきた訳だが、それは夢見る若者達に活気を与える副次作用も与えていた。
つまりは「本気を出せば、俺だって貴族になれるかも」というやつだ。
その活気を利用し、音楽や一発芸など玉石混交。様々な芸のコンテストを行うイベントが行われるのである。
芸が成金貴族に直接繋がるかといえばそうでもないのだが、印刷業が発展し情報化の進んだこの社会において注目の人間となれば取り立てられる事はよくあるのだ。
いわゆるインフルエンサー。
余談であるが五年後のアセナは、正にそういう人物のテンプレとなる。
異民族の出身から冒険者として成り上がり、侯爵直営の新聞社の社長になって、次期侯爵の婚約者なスーパーシンデレラストーリーだ。
尚、あくまで一般人の眼から見た物に過ぎず、そもそも出世する前から妾として準貴族の地位に居た事など裏側の様々な社会的事情は除外する物とする。
「よし。それじゃアダマス。折角だし、これから向かうイベントを説明してやってくれ」
「……!あ、ひゃい……」
それはしどろもどろな態度だった。
まるで先生に名指しで発表するよう言われたクラスの喋らない子であるが、今のアダマスは実際にその通りなので同じ反応をする。
彼は妙に長い前髪で眼を隠し、見える口元は引き攣っていた。
「ええとね……これはですね……」
声はボソボソと聞き取り辛かった。
枝分かれが多く脱線が多く何を言いたいか微妙に解り辛い、結論が出ない説明だった。
自信が無いので、本当に自分の言っている事は十分な説明であるか不安なのである。
落ち着け、コイツは将来『あの』アダマスになるんだ。
自分にそう言い聞かせ続け、リオンはジッと説明を聞く。フェイは退屈に欠伸が出そうになるが、アダマスは気にしない。
何故なら目を合わせられないので顔をよく見てないからで、それ故に将来、顔を詳しく覚える事もないのだった。
一方でマリカは経験からこういった子供と接する事も多々あり、ウンウン頷き脱線も拾って受け止めていた。
話の冗長さに合わせるように、イベントを見に行く人達が周りを横切っていくが、それでも心の背丈に合わせて話を聞く。
しかし『ある人物』が自分達を横切った時、仰天してしまう。
「……え?『お姉様』っ!?」
バッと声を張り上げ、後ろを振り向いた。
大きな声に驚きアダマスは説明を辞めて、アセナの後ろに隠れてしまう。
ミスを後悔しつつ、それでも横切った人物に向かって走り出した。先ほどの呼び名では反応しなかったからだ。
髪型など多少違うところがあるが、その姿は紛れもなく、まだこの時代においてアダマスが出会っていない筈の『シャルロット・フォン・ラッキーダスト』だった。
11歳の、会った時そのままの姿だった。
「お姉様っ!」
前に回り込んで話しかけてしまう。
普段はやらない事だが、絶対会えないと思っていた人物と言うだけあって気が動転していた。
目の前の『少女』は一旦足を止め、シャルと同じアーモンド型の眼でジッとマリカを『観察』する。
少女は後ろに振り向き、抑揚のない機械的な声で言った。
「アナタ。『お姉様』とは呼ばれた記憶はありません。私の呼ばれ方として追加して宜しいかしら」
「いや、只の人違いだ。今まで通りで良い」
botのような喋り方だと、マリカはなんとなく思った。
人工知能に役割を持った口調を外付けしただけ。
故に、目の前に居る少女は『お姉様』ではないと一瞬で理解出来た。寧ろ生理的に受付ないまであった。
少女と話していた男は、白衣の袖から覗かせる褐色の手せ彼女とマリカの間を遮る。
「確かに幼くはあるが、私の『妻』は箱入りでな。
外に知り合いなど居ない。故に小娘、お前の友達とは別人である」
そういえばと、マリカに思い出す記憶がある。
シャルがアダマスと一緒にマリカの住む魔王城に来た時、城の女子達に向かって義兄で婚約者であるアダマスとの恋バナを、とても楽しく話していた。
女子とはそういうジャンルで盛り上がれるものなので、話すネタには尽きなかった。
そう、アダマスは『義理』の兄なのだ。
思えば『実家』に対しての話題は、不自然なほどに避けていた。
自分を含め、マリカは実家からの虐待経験を持つ子供達を魔王城で預かる事が多い。
じんわりと不快感が滲み出て来て、思った事をつい口に出してしまう。
「アナタ、お名前は?」
「私か?私は【バルザック・フォン・フランケンシュタイン】。
そして此方は妻の【ガラテア・フォン・フランケンシュタイン】。
異世界人とはいえ態度には気をつけたまえよ。私はこの国の貴族なのだからね」
その口からは、シャルと同じ。しかしガラテアには無い八重歯を覗かせていた。
眼鏡の奥の重く冷たい目がマリカを見下していて、それを隠すつもりも無かった。