41話 想定外の襲撃
――第二試練は私たちの食事休憩が終わって、少し経ってから始まった。
三人一組で組まされるチームは完全ランダムではあったが、幸いシュバルツ様はダリアス様とは別チームのようで、私はホッとしていた。
時はすでに夕刻を回ろうとしている。
第二試練であるバトルロワイヤルを行なう場所は王都から少し南方面へ離れた、見晴らしの良い平原地帯から鬱蒼と木々の繁る森林地帯に掛けての広範囲。
戦闘における様々なケースを考慮しても戦い抜ける技量とチームワークを重んじる為に、魔物も多いそのエリアが試練のステージであった。
そこに選手たちはチームごとに集められ、試練が始められた。
私たち一般人のギャラリーは、さすがに魔物が出るかもしれない外をうろつくわけにもいかず、この結果は英傑選を開催している陛下直属の騎士様たちからの報告が訪れるのを待つ事となった。
「大丈夫でしょうか……シュバルツ様……」
私とルーフェンとルーラの三人は、大衆食堂内にて彼の結果を待っていた。
多くの選手の家族たちは皆、この王都大正門入り口付近の大衆食堂で帰りを待っているようだ。
「何言ってんだ姉様。シュバルツ兄様はあのマンティコアさえもぶっ倒しちまうような奴なんだぜ? なんの心配もいらねえだろ」
「それはそうなのですけれど……」
私も理屈ではわかっているけれど、何故かずっと不安が拭えない。
ダリアス様やセシリアたちが何かをする、とかそういう事ではなくて、何かもっと別の大きな影の気配を感じている。
そんな私の不安はすぐに現実のものとなる。
「皆様ッ! 大変でございますッ!!」
王国騎士の一人が血相を変えて、慌ただしく食堂の入口から飛び込んできたのである。
「この王都内に凶悪な魔物の侵入を許してしまいましたッ! 付近には魔物らが彷徨いており大変危険です! ただちに避難されてくださいッ!」
凶悪な魔物って、まさか!?
「おい、あんた!」
私が思うのと同時にルーフェンが報告に来た騎士様に詰め寄る。
「そいつぁまさかマンティコアか!? もしそうだったら……」
「マ、マンティコア!? い、いえそこまで凶悪な魔物ではありません。侵入してきたのはエルガルムたちです!」
エルガルムはこの辺りによく生息している魔狼族の魔物だ。
マンティコアに比べればてんで小物ではあるが、それでも上位魔法がほとんど扱えない平民や一般人からすれば相当な脅威である。
「エルガルムか……しかしなんだって王都なんかに侵入された!? 衛兵はどうした!?」
「それが今日は英傑選の為に、ベテラン兵士たちは皆、試練会場の方へ出向いてしまい、大正門前の衛兵たちはまだ見習いばかりでして……」
「なんだよそりゃあ……だが、そうにしたって、普通魔物が人間の密集している都にわざわざ入ってくるなんざありえねえだろ!?」
ルーフェンの言う通り、野生の魔物は人里付近では警戒心が強く、人の多い場所には本能的に近寄る事はほぼない。だからこそ衛兵の配備も油断していたのだろう。
「わ、わかりませんッ! 突如、南の森林地帯から現れたエルガルムたちは、真っ直ぐにこの王都へと目掛けてきたのです!」
「っち! どういう事なんだよ、クソッタレ。とりあえず姉様はフレスベルグの屋敷に戻って避難しろ! 俺やルーラはエルガルム討伐に協力する!」
しかし私はそのルーフェンの提案には大きく首を横に振り、
「嫌です! 私も共に戦いますわッ!」
と声をあげる。
「馬鹿姉様! 遊びじゃねえんだ! 戦闘経験も戦闘魔法もねえ姉様が出る幕じゃねえ!」
「そんな事はありませんわ! 私にもできる事がありますのッ!」
そう、私の【魔力提供】がある。
今はシュバルツ様が近くにいないので、それを別の対象に行えるのである。
「何ができるって言うんだ!? 殺されちまうぞ!!」
「できます! 私にだってルーフェンに力を……ッ」
ドクンッ。
と、これまでよりも一際大きな鼓動が全身に響き渡り、世界が暗転した。
しまった。
私はまた禁忌を……。
世界が歪む。苦しい。息が詰まる。
不味い、こんな時に意識を失うわけには……。
「……ぉい! おい!? 姉様!? どうした!?」
「ル、ルーフェン……?」
「なんだよ……驚かせやがって。急に返事しなくなったと思ったら目がうつろになってボーッとしてどうしたんだよ? パニックにでもなったか?」
「いえ、違いますの……」
良かった。今日はまだそこまで大きな制約を受けてない。
でも一体どうすればルーフェンへと、簡潔に伝えられるのだろう。
「うわぁぁぁぁーーッ!! エ、エルガルムが、エルガルムが来たぁーーーッ!!」
私が思い悩んでいると、食堂の入り口からガタガタッ! と大きな物音と絶叫が響き渡る。
報告に来た騎士様や私たち、大食堂にいた全員がそちらを見て、驚愕とした。
「「グゥルルルルル……」」
そこに佇んでいたのは、四匹のエルガルム。
「皆様は食堂の隅へ! ここは私がッ!」
そう言って報告に来た騎士様はひとり果敢にもエルガルムの群れへと剣を振りかざし、突撃する。
「やめろ! ひとりで無茶するんじゃ……ッ!」
ルーフェンが引き止めようとするも、騎士様は無我夢中でエルガルムへと立ち向かってしまう。
「でぇやあぁぁぁぁーッ!」
騎士様が剣でエルガルムを斬り裂こうとした、が。
「な、何!?」
ガギィッ! と、その剣の刃を、エルガルムは鋭く大きな牙を剥き出しにしながら強靭なその顎で咥え込んでしまった。
「逃げろ馬鹿野郎ッ!」
ルーフェンが叫ぶと同時に。
「「グルァーーッ!!」」
剣を咥えていない残りのエルガルムたちが一斉に騎士様へと襲いかかり、
「う、うわぁ! ぐっ、く! は、離れ……ギィやぁぁアァァーーーッ!!」
その鋭い爪と牙の餌食となり、あっという間に倒されてしまう。
私たち大食堂にいた者たちはその凄惨な様子を見て、ただただ顔を青ざめさせた。
「こ、殺される……」
誰かが呟く。それと同時に、
「いやぁーーーッ! 助けてぇええーーーッ!!」
多くの人々が阿鼻叫喚となる。
「クソッタレめが! 俺がやる!」
「ルーフェン兄様! ルーラもお手伝いしますッ!」
「あっ、二人ともッ!」
そう言ってルーフェンとルーラは、私たちを庇うようにエルガルムらの前へと立ち塞がる。
「ルーラ、こいつぁすばしっこい! 背後に回られないように気をつけろッ!」
「大丈夫です兄様! ルーラ、エルガルムは何度も倒した事ありますからッ!」
「ここで戦ったら被害が増える。俺が風魔法で外へ追い出すからお前はそうしたら追撃しろッ!」
「了解ですッ!」
そう言ったルーフェンが魔法を発動させる為に両手に魔力を集めさせると、騎士様を食い散らかしていたエルガルムたちがその魔力に気付き、ルーフェンの方に向き直した。
「いくぞッ! 吹き飛びやがれ、【エアロブラスト】ッ!」
ルーフェンが両手から魔法を発動。
彼の想定通り強烈な突風がエルガルムたちが大食堂の外へとまとめて吹き飛ばされた。
「よし、行けルーラッ! 俺も魔力を練り直して追撃するッ!」
「はいッ! おりゃぁぁあああーーッ!」
そう言って、ルーラが飛び出していき、ルーフェンも魔力を一度沈めた。
「姉様はここで皆と待っててくれ! 下手に動くと危ねえからな!」
「ちょ、ルーフェン!?」
そう言ってルーフェンと走り出して行ってしまった。
私も手伝いたい。
私には力があるのにッ!
私だってルーフェンたちを助けられるのにッ!
「私だって……何もしないのは嫌ですわッ!」
いてもたってもいられなくなった私は、ルーフェンたちの後を追うように、大食堂から飛び出して行った。




