35話 お引越しです!
シュバルツ様のお屋敷で過ごし、彼の決意を聞いてから、数日が経った。
結局シュバルツ様のお屋敷で寝泊まりしていた時に、私たちはまだ大人の階段を登る事はなかったけれど、それでもたくさん、二人で愛を語り合った。
そしてシュバルツ様が注文してくださったドレスが届き、私はそれを持って、数日ぶりにアルカード領へと一度帰る。
シュバルツ様は私をアルカードのお屋敷までしっかりと送り届けると「申し訳ないがすぐに王都に戻る」と言って帰ってしまった。
けれど、それは仕方のない事。
何故なら彼はこれから英傑選に向けて下準備をしなければならないのだから。
別れ際にまた彼とキスをしていたのをルーフェンとルーラに見られて、しばらく揶揄われたりもした。
アルカードのお屋敷に帰ってきた私だが、またすぐに王都に戻るつもりである。
何故なら、彼に……シュバルツ様に少しでも長い時間、私の【魔力提供】を施してあげたいからだ。
その為には彼の傍にいてあげる事が必須。むしろ、可能な限り彼と触れ合っている事が理想的。
なので私は王都に住む決意をしたのである。
私は一度アルカードのお屋敷に戻ったあと、家族全員を集め、私が王都で暮らす事を伝えた。
お母様は酷く淋しそうに涙を流していたけれど、そうしたらルーラが、
「大丈夫です! 私も鍛錬を重ねて【空間転移】をもっともっと上手く扱えるようにするですッ! そうしたら、王都までも一瞬で行き来できるようになりますからッ!」
と、お母様に告げていた。
前から思っていた疑問で、ルーラは何故【空間転移】などという上位魔法を身につけたのかと尋ねたところ、遠くてもすぐ私の元へ行けるようにする為だったのだとか。
私がダリアス様のところへ嫁ぐ予定で王都に行ってしまった事を一番悲しんでいたのはルーラだと、ルーフェンとお母様がよく言っていた。
「それに、ルーラひとりがこの魔法使えれば、家族みんなが何かあってもすぐに助けられるしお迎えに行けると思ったんですッ」
と、言っていた。
これはおそらくお父様がダリアス様を庇って大怪我をした事からきている。
ルーラはアルカード家で一番家族思いだ。
誰かを失うのも嫌だ、だからルーラがすぐに駆けつけるんです、と言っていた。
本当に可愛い妹だ。
ただ、まだルーラの【空間転移】は未熟だし、転移距離もそれほど遠くまでは行けない。彼女の魔法で王都とアルカードを瞬時に行き来できるようになるまでにはまだまだ数年はかかるだろう。
だけど、私も期待している。
ルーラの魔法が私たち家族のみならず、辺境の田舎という色眼鏡で見られがちなアルカード領と王都を繋ぐ架け橋になってくれるかもしれないと。
そんなこんなで一度アルカードのお屋敷に戻った私は、すぐに引っ越しの準備を始める為に、荷物をまとめ始めた。
「で、姉様はどこに住むんだ?」
アルカードのお屋敷、私の部屋で引っ越しの準備を手伝ってくれているルーフェンが尋ねてきた。
「シュバルツ様のお屋敷ですわッ! 彼と彼のご両親に話したら、喜んで受け入れてくれましたの。その代わり、彼とは婚約関係を結びましたけれど」
私はご機嫌な声色でルーフェンの問いかけに応える。
「そうだったんだな。いやぁ、なんにしても展開が早いねえ。姉様って本当にモテるよな」
「な、何を言ってるんですのルーフェン! 私が一体、いつ、そんなにモテた事があるんですの?」
「何を言ってるはこっちのセリフだぜ。姉様は昔っから男どもに人気高かったじゃねえかよ。カラム村とかでもよ」
「カラム村って……あそこはお年を召した方ばかりではないですの……」
「んにゃ、たまに訪れる冒険者の奴らや行商人が、案外姉様の事をジロジロ見てたんだぜ? 口説こうとしていた奴もいたんだからな」
「またそうやってルーフェン、貴方は姉様を馬鹿にして揶揄っているんでしょう? もうそんな嘘には騙されませんわよ。だいたい私みたいなブスがモテるはずありませんもの」
「え……いや、マジだけど……」
「ルーフェン。貴方、前も似たような事を言って姉様を揶揄ったでしょう? 私は覚えているんですからね。それで私が浮かれたらまた馬鹿にするんでしょう? 全く、貴方もルーラと同じくまだまだお子様ですわ」
「……まあ、姉様がそう言うんじゃそれでいいか。今はシュバルツ殿もいるしな」
ルーフェンはなんだか妙に口籠もっている。
全く、そんなつまらない嘘にいつまでも引っ掛かる私ではありませんわよ。
「っつーかよ、姉様はブスじゃねえだろ」
「なんですのルーフェン? 今日はヤケにしつこいですわよ?」
「いや、まあ……なんつーか、俺やルーラは異次元空間で十年間過ごしてるから、俺たちは姉様に会えたのは実質、十年ぶりなわけだよ。だからルーラもこの前、凄い喜びようだったろ?」
言われてみれば確かにその通りだ。
「俺もよ、久しぶりに再会したとはいえ、姉様は変わってないだろうと思ったんだがよ、全然違ったわ」
「え? 私がですの?」
「ああ。リフィル姉様、僅かの間にすっかり可愛くなっちまってたよ。正直、俺ぁシュバルツ殿に姉様を取られるのが、ほんの少しだけ悔しいぐれぇさ」
「な、何を言ってるんですの! もう!」
と言って、私は近くにあったクッションをルーフェンへと投げ付ける。
「……なんてな。さて、こんなもんか」
「ええ、だいたい荷物はまとまりましたわ。ありがとう、ルーフェン」
「なぁに、お安い御用よ。それより、王都で暮らすんなら貴族間交流には気をつけろよ? リフィル姉様、ダリアスの元婚約者ってだけでおそらく知名度は高そうだからな」
「そうですわね。気をつけますわ」
「じゃ、向こうに行ったらシュバルツ兄様によろしく言っといてくれ」
「に、兄様って! ルーフェンったら、もう!」
「ははは。なんかあったらすぐ連絡してくれよ。俺もルーラもすぐ駆けつけるからな」
「ええ、本当にありがとう、ルーフェン」
こうして、私はその日だけアルカードのお屋敷に一泊し、翌日の早朝には再び王都へと発ったのであった。




