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1話 醜悪な侯爵令息がやってきた

 私ことリフィル・アルカードは辺境の地に小さな領地を持つ、田舎貴族の辺境伯の令嬢だった。


 辺境伯なんて高い爵位を持つ家系だとは言うものの、私の領地は王都から遠く離れた、開発もロクに進んでいない他国との境界付近の田舎。領地内はとても豊かな暮らしだとは言えなかった。


 ゆえに、私の父や母は自ら領地の畑仕事を手伝いに行ったり、商売人みたいな事をやったり、更には自ら森の動物狩りにも行ったりと、いつも小忙しく動き回っていた。


 そのせいか、我がアルカード家は領民には慕われており、領地は貧しいながらも割と平和にのんびりと過ごせていた。


 あの日までは――。




        ●○●○●




 今より一年とちょっと前。まだ私が13歳になったばかりで、ようやく魔法の扱いに慣れ始めてきた頃の事。


「うむ、今日は実に精が出るな。こんなところだろう」


 そう言って私のお父様であるフリック・アルカードは仕留めた何匹もの大型猪豚を、荷馬車へと乗せた。


「おとうさま、すごーい!」


「とーさま、つおーい!」


 そんなお父様の様子に目を輝かせて声をあげたのは、歳の離れた私の弟と妹。


「ふふふ、お前たちの父様は凄いだろう?」


 そう言ってお父様は弟たちにグッと親指を立てた。


「でも、やっぱりリフィルがいる時は特に調子が良い。魔力が冴え渡るんだ。お前には何か、不思議な力があるのかもなぁ」


 お父様は私の頭にぽんっと手を乗せて笑顔を見せる。


「えへへ。私ね、実は――」


 瞬間、呼吸が止まった。


 世界が白と黒のモノクロに切り替わる。


 ああ、そうだ忘れていた。


 私には言えない。これが誰にも伝えられない。そういう制約のもとに手に入れた力なのだから。そして、その制約の上にこの絶大な魔法はその威力を他者へと顕現させているのだから。


 怖い。この止められた世界にいるのは。


 嫌だ、嫌だ。


 そう思った直後、世界は元通りになる。


「ん? どうしたんだいリフィル?」


「……んーん、なんでもない。早くみんなでお母様のところに帰りましょう、お父様」


 不思議そうな顔をしていたお父様だが、私には人に言えない、いや、伝えることが絶対に不可能な『制約』がある。


 でも私はあえてそれを選んだ。


 私はこう見えて将来、素敵な旦那様に毎日愛を囁かれながら、晴れやかな都で、仲良く楽しく暮らしたいというありきたりな夢がある。


 私は自分が優れているとはちっとも思わないので、とにかくいつの日か結ばれるであろう旦那様にはとことんつくしてあげたいし、旦那様に喜んでもらいたいと日々思っていた。


 それは私のお父様とお母様の関係性を見て育ったからだろう。


 そしてそれは数日後に望まぬ形で実現する事になる。


 平和なアルカード領での変わらないのんびりとした暮らしは、突如訪れた人物によって壊された。


 この地に王都より、たくさんの兵士たちを連れてマクシムス家の嫡男(ちゃくなん)であるダリアス・マクシムス侯爵令息がやってきたのである。


「これは王様からの勅命であるッ! この領地からの年貢が適当であるかについての疑惑がもたれている! よって、私たちは数日間、調査の為に滞在させてもらう! 誠意あるもてなしをせよッ!」


 王都から侯爵様とその御子息がやってきたと聞いて、私もどんな方なのか、ぜひ見てみたいとお父様と共に村まで降りて来たのだが。


 そのように叫んでいたダリアス様を遠目で見て、私の夢見がちな想像とは違い、なんだか傲慢そうな彼を好きにはなれなかった。


 更に彼らは領内で横暴な態度を取るだけに飽き足らず、領地付近にある私たちにとって神聖な精霊の森と崇めるその場所で、意味もなく魔法の実験場だ! などと言いながら木々を燃やして遊ぶという愚行を働いていた。


 精霊の森は私たちアルカード領にとって唯一の、()()()()()()


 魔法というものは魔力の集まる場所に住み着く精霊たちと契約、交渉したのちに授けられるもの。


 なのでもしもこの森が焼き払われてしまったら、アルカード領民は魔法を覚える事ができなくなってしまう。(もの凄く遠くのマナスポットまで行けば不可能ではないが、非現実的だ)

 

 そんな愚行が繰り返されていたある日。


 その森の主である魔物がついに激怒し、ダリアス様を襲った。


 そこを偶然通りすがった私のお父様が彼を庇い、命からがら二人は逃げ延びたが、お父様はそのせいで大きな傷を負い満足に動けない体になってしまった。


 領民たちは優秀な領主であるフリックさんが動けなくなったらこの地はおしまいだ、と絶望していると、ダリアス様は悪びれる様子もなく、その責任を取ってやると言って私の事を婚約者にしてやろう、と恩着せがましく言ってきたのだ。


 ダリアス様がこの領地に着いた頃から凄くイヤらしい目で何度も私を見ていたのは途中から知っていたが、まさかこんな展開になるとは思いもよらなかった。


 私の両親は侯爵家へ嫁入りできるのならと、喜んでそれを受けてしまった。貧困なアルカード領が大富豪であるマクシムス家とパイプができるのは、願ったり叶ったりだったのである。


 その時、私はまだ齢13歳。ダリアス様は14歳だった。


 私は父より、お前が14歳になったら、花嫁修行を兼ねてマクシムス家がある都に住まわせてもらいなさいと言われ、動けない父の為にも仕方なく言う事を聞いた。




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