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17話 王都への林道

「うわあぁー……」


 私は初めてみる王都の装いに、思わず声をあげた。


 まだ遠目ではあるが、馬車の中から見える王都は華やかに彩られ、カラフルな風船が飛び交い、見たこともない看板や大きな幟があちこちに飾られ、大勢の人の行き来がよく窺える。


 これがパレード!


「リフィルさん。もう少しで着く。あと少し辛抱してくれるかい?」


「はい! 全然大丈夫ですわッ」


 シュバルツ様は馬車を引きながらそう言った。


 てっきりシュバルツ様のお家の従者の方が馬車を引くのかと思っていたので、王都までの道中は馬車の中でシュバルツ様と二人きりかと思ったが、そうではなかった。


 でもそれで少しホッとしていた。


 デート前からすでに心臓バクバクだったのに、馬車の中で何時間も一緒にいたら、私の頭がどうにかなってしまいそうでしたもの。


 おかげで私は少しだけクールダウンする事ができた。


「あとはこの林道を抜ければ王都は目の前……」


 シュバルツ様がそう言った直後。


 ヒヒヒーッンッ! と、馬車馬が唸りをあげる。と、同時にガタガタっと馬車が大きく揺さぶられた。


「な、何事ですの!?」


 私が声を上げると、


「すまないリフィルさん! 怪我はないか!?」


「ええ、私は大丈夫ですわ。それよりシュバルツ様、一体何が……」


「リフィルさんは出てきちゃ駄目だ。馬車の中で待っていてくれッ!」


 そう言って、シュバルツ様が御者の座椅子から飛び降りるような音がした。


 何があったのかと私はそっと、馬車の扉を開いてみる。


 すると。


「え? な、なんですのあの方たちは!?」


 馬車の進行方向でシュバルツ様は十数人の男たちと対峙しているのである。


 私は耳を澄ませてみた。


「よーぉ。この前は世話になったなぁ」


 聞き覚えのあるダミ声。


 まさかアレは……。


「また貴様か。まさか生きていたとはな」


 シュバルツ様が声色をきつくする。


「てめぇのおかげで死にかけたぜ。ざけやがって……伯爵の令息だかなんだか知らねえが、この前はよくもやってくれたなあ? 今日はキッチリ礼を返してやるぜ」


 間違いない、あのダミ声男はこの前私を襲った賊だ。


「用件はそれだけか?」


 シュバルツ様は言いながら腰に帯刀していたやや細身のロングソードを抜刀し、構える。


「いいや、違えな。後ろの馬車の中の女もだ。そいつにも用があるなあ。なあ、みんな!?」


「「おおーーーッ!」」


 ダミ声の男の周りにいる大勢の仲間たちが下卑た歓声をあげる。


「……はっきり聞くが、貴様らのボスはダリアスか?」


 シュバルツ様が問いかけるも、


「ダリアスぅ? 誰だぁそりゃあ? 知らねえなあ!」


 ダミ声の男ははまともに答える気はなさそうだ。


「仕方がない。ならば力づくでも吐かせるとしよう」


 シュバルツ様が戦闘態勢に入っている。


 けれどどう見てもあの人数相手にシュバルツ様一人で太刀打ちできるはずがない。


「シュバルツ様ッ!」


 私が馬車の中から声を荒げるが、


「リフィルさん! 出てくるな!」


 シュバルツ様はそう言って私を静止させた。


「おーおー。相変わらずお熱いねえ? ま、今日はこの前みたいな奇跡は起こらねえだろうがなあ?」


 ダミ声の男は妙に自信たっぷりに構えている。


「行くぜてめぇら! あのキザ男をぶっ殺せッ!!」


「「おおッー!」」


 ダミ声男の合図と同時に大勢の野盗たちがシュバルツ様へと襲い掛かる。


「……っく! っふ! はぁッ!!」


 襲い来る敵からの猛攻をシュバルツ様はなんとか後退しつつ剣で凌ぐも、あれではすぐにやられてしまうッ。


 どうしたらいいの!?


「ひゃっはーッ! 後ろがガラ空きだ、()ったぜぇ!」


「【サンダーボルトッ!】」


 シュバルツ様は魔法で背後の敵にカウンターを喰らわす。


「ギャァアーッ!!」


 背後から迫っていた野盗の一人はその魔法で倒れた。


 が、しかし。


「オラオラ! てめぇの相手はまだまだいるぜ!」


「ぐ、くっ!」


 シュバルツ様の左右からは、止むことなく次々に賊が襲いかかる。


 シュバルツ様のサンダーボルトは上位魔法だけあって連発が利かない。一発打てばしばらくのリキャストタイムが必要。


 それに隙も大きいから大人数相手に不用意に放つのは危険でもある。


 どうしましょう……このままでは本当にシュバルツ様がやられてしまう……。


 こうなったら、また私の魔力を注ぐしかない。でも、敵が多すぎてそんな暇があるかわからないし、下手をすれば足手まといになってしまいそう。


 せっかくのデートの日になんでこんな……。


「っうぐ!? しまっ……!」


 次第に押され始めたシュバルツ様が、太もも付近をやや深めに斬られてしまい、態勢を崩してしまう。


 絶体絶命。


「シュバルツ様ぁーッ!!」


 私はいてもたってもいられず泣き叫ぶように馬車から飛び降りた、その時。


「「ぎゃあああああああああーーーーーーッッ!!」」


 突如、数人の野盗たちの叫び声が轟く。


 シュバルツ様の周りにいた、何人かの野盗はあちこちを切り刻まれるような傷跡を残して、その場に倒れ込んでいた。


「な、なんだ!?」


 ダミ声の男が辺りを見回した。


「あっぶねー。間一髪ってとこだったか」


 そう言って、木々の隙間からその姿を現したのは、なんとルーフェンであった。


「ルーフェン!? あ、貴方、どうしてここに……!?」


「あー、リフィル姉様、説明は後だ。とりあえずコイツら片付けちまうからよ。そうっすよね、シュバルツ殿?」


 ルーフェンは跪いていたシュバルツ様に手を差し伸べ、そう言った。


「だ、誰かは知らぬが助かった」


 シュバルツ様はルーフェンの手を取り、よろけながらも立ち上がる。


「俺はルーフェン。リフィル姉様の弟っす」


「お、弟? 確かにリフィルさんには歳の離れた弟がいるとは聞いていたが、キミはどうみても……」


「あーシュバルツ殿。面倒な説明は後でするんで、とりあえずこの有象無象を片づけちまいましょう」



 そう言って、ルーフェンとシュバルツ様は共に再び戦闘態勢を整えるのだった。




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