15話 ルーラと魔物狩り②
ボアはまだ意識があったようで、油断しているルーラに向かって、大きな前脚のヒヅメでルーラを踏み付けようとした。
「っわ!」
それをギリギリのところでルーラは回避する。
「むー。せっかくワンパンでやっつけたと思ったのにー」
ボアは再び立ち上がり、ルーラを襲おうとした。
「そんなら、何発でも食らわしてやるですッ! てーいッ」
ルーラも応戦する。
ボアの攻撃はルーラには当たらないが、ルーラの重い一撃を何発と入れていてもボアへの致命打とはならない。
「くっそー、こいつ、希少種だけあってちょっとタフですッ!」
私でもわかる。ルーラでも苦戦しているという事が。
その証拠にボアの動きは鈍くならないが、ルーラは次第に息切れし始めている。
どうしましょう。どうしましょう。このままじゃルーラが……。
何か、打開策は……私がそう思っていると。
「むー! 【空間転移】さえちゃんと使えるなら、こんなヤツーッ!」
と、ルーラが悔しそうに叫ぶ。
そのルーラの言葉を聞いて、私はピーンと名案が思い浮かんだ。
「……でもこれをやるには」
私は震えていた。
私の考えた作戦が上手くいくなら、きっとボアは一撃で倒せるはず。
でも……怖い。
「いったッ!」
と思っていると、ルーラが初めてボアの一撃をもらってしまっていた。
「ルーラッ! 大丈夫!?」
「あたたた……平気です姉様! ちょっとヤツの角が足を掠めたくらいですからーッ」
グッと親指で余裕さを見せつけるルーラだが、このままではいつルーラがやられてしまうかわからない。
「……覚悟を、決めましたわ!」
私は意を決して、ルーラのもとへと走り出した。
「え!? 姉様こっち来ちゃ危ないですッ!」
私はルーラの警告など無視し、上着の袖を捲り、胸元を少しはだけさせ、歩きやすいように履いてきた短めのスカートも大きく捲し上げ、
「ルーラ! 今すぐ私に抱きつきなさいッ!」
そう叫ぶ。
「姉様!? なんか格好がハレンチです!?」
「いいからッ!」
「よくわからないですけど、はーいッ!」
と言って、ルーラが私に飛びついてきた。
そして私は同時に【魔力提供】を発動。ありったけの魔力をルーラへと送り込む。
「ふわぁあ……な、なんだか身体があったかいです……」
ルーラがとろんとした目になっている。魔力が一気に流れ込んだからだろう。
「ルーラ! 今日だけは私の許可で【空間転移】を使いなさいッ! ボアに向けてッ!」
「え!? で、でもルーフェン兄様に怒られてしまうです……それにまだ魔力コントロールも不安定だからどうなるか……」
「大丈夫ですわッ! 今の貴女ならできますの! だからボアを空高く転移させるんですわッ!」
そうこうしているうちにジャイアントボアが私たちへと迫り来る。
「よくわからないけど、姉様が良いって言うんじゃルーラやりますッ!」
そう言ってルーラは右手をジャイアントボアの方に向け、
「飛んでけぇ! 【空間転移】ッ!」
魔法をぶつけた。
それは見事にジャイアントボアを捕らえ、ジャイアントボアは一瞬でその場からパッと消え去る。
「よくやりましたわ! さあ、ルーラ、離れますわよッ!」
「はい! でもちゃんとできてるかなぁ……」
「大丈夫ですわ。今の貴女なら、魔力コントロールも正確に行えているはずですもの」
「そう、なんですか?」
「いいから早く離れますわよ」
「はーい」
ルーラは私を抱えたまま、ピョンピョン、と離れた高台まで登る。
しばらくして――。
ドォォオオオオーーーンッ!! っと、遥か上空から落下してきたジャイアントボアはその衝撃で地面を大きく凹ませ、そして絶命していた。
「やったです! 本当にうまくいきましたッ!」
私はふぅ、と息を吐く。
なんとか作戦は上手くいったようだった。
「うーん、でも、なんでこんな綺麗に上手くいったんですか? ルーラ、まだそんなにこの魔法練習できてないですのに」
「それはね」
私は笑って、
「家族の絆パワー、ですわよ」
とだけ言った。
●○●○●
あのジャイアントボアはルーラが言う通り希少種らしく、凶暴な魔物だった為、ギルドからの緊急クエストとして急遽張り出されていた依頼だったらしい。
討伐完了した事をカラム村のギルドに伝えると、莫大な報奨金をもらう事ができた。
ギルドのお金は世界共通のギルド連盟からの運営資金で賄われている為、このお金はアルカード領から捻出されているわけではないので、私たちは遠慮なくそれを受け取った。
「こ、こんなに貰ってしまっていいんですの!?」
「はいッ! だって今回、姉様が一緒に見てくださっていたんですから、お金は姉様のものです! それに、姉様から本当に不思議なパワーを貰いましたし!」
「でもこんなに私が貰っては、貴女の分が……」
「ルーラは新しい鎧とか買えれば充分なので、金貨五枚もあればお釣りが来るですッ! そのお金で姉様は新しいお洋服と、明日のデートの準備をするですよッ!」
「え? ル、ルーラ、貴女、知っていたんですの!?」
「はい! だって姉様ったら、帰ってきてからずっと目が恋する乙女でしたから! それになんか、日めくりカレンダーにも明日に赤い二重丸つけてありましたから、多分デートなんだなぁとルーラは予見したのです!」
ルーラったら、抜けてるように見えて、案外よく見ているんですわね……。
「……あ、ありがとうルーラ。実は本当にお金に困っていましたの」
「知ってるです! ルーラも兄様にお金あげちゃったので!」
「あら? そうだったんですのね」
「それもあって、このクエスト受注したです! よーし、早速ルーラは防具を新調してくるです! 姉様は明日に備えてちゃんと準備してくださいーッ!」
と言って、ルーラは走り去っていった。
本当にアルカードの家族はみんな優しい。
ルーフェンもルーラもあんなに大きくなっても昔とちっとも変わらないままで。
こうして私のお金の問題は解決された。
後は頑張ってお洋服を準備して、メイクもメイドさんたちにやってもらって、明日に備えるだけですわ。
明日のパレードは一体どんな素敵な日になるんだろう、と私は微かな不安を抱きつつも、大きく夢を膨らませるのだった。