『焦燥』
黒川紗耶香視点
「さて、どうしましょうかね」
香川天彦には、ああいう風に自信満々に言ったが紗耶香には明確なプランがあるわけではなかった。
それでも、生徒会長として責任を持った行動をしなければいけない。
それに加えて生徒会長としてはもう一つの制約もあった。そのために自分だけでどこまでできるかしていいかを考える。
このゲームNPCとの会話が重要そうにみえて実はそれは事実ではないと紗耶香は考えていた。
何故ならば、それにしてはあまりにもNPCとの会話が単調だった。それに見た目に関しても全員ありふれた人たちだった。
(それに一体あの景色は何を意味するの?)
実は、紗耶香は先ほど香川天彦に会いに行った時に空を飛んだ際に偶然にも一つの気付きを得ていた。
(どうして、このゲームは日本本国を模しているのだろうか?)
そうなのだ。このゲームの中身は日本本国を模していた。
そして、もう一つ気になることがあった。どうして新雪の巫女は、これだけ早く宝の一つを見つけられることができたのか。
疑問は止まないが、早くしなければいけないという焦りが判断を鈍らせる。
知能に優れるといわれてきた紗耶香だからこそその絶体絶命度合を正確に認識してしまっていた。
もう一つ宝が奪われたら負ける状況。相方はいない。対戦相手は、この短時間で宝を入手している。きっと、3つの宝へのヒントを得てしまっている可能性も高いだろう。それに加えて、私には今制約が掛けられている。
それだでも、ピンチなのにそれだけでは終わらない。
紗耶香は、雪野とそのパートナーの能力も分からない。対して紗耶香の方は生徒会長として指導する時にも能力を使ってしまっており紗耶香の能力は公然の秘密となっている。雪野の方は紗耶香の能力を明らかに知っていると思って動くべきだった。
その上、前回の紗耶香と雪野の勝負では雪野は能力の使用を何故かしなかった。(紗耶香が気付いていないだけで実際は使用していたのかもしれないが何もその痕跡はなかった)
だから、紗耶香は雪野と対戦経験はあるものの神知の能力は全くわからなかった。予知系というのは今までの実績から明らかだが、それ以上は分からない。雪野は、地震の予知が強いが、台風の被害の予知などはしてくれない。しているのかもしれないが少なくとも生徒会には情報を提供してくれなかった。
以前に大きな台風があり被害や対策についてアドバイスを求めた際には「台風は科学で予想できるから必要ないやろ」と、いわれた。それもまた、事実だろうが予測に得手不得手はあるのかもしれない。だからこそ、前回の勝負ではうまく予知能力を使えなかったのかもしれない。
厳しい状況だった。明らかに追い込まれた状況だった。
そして、状況を把握し厳しい状況であることを認識すること自体が彼女をますますあせらせる。
彼女が冷や汗を先ほどから出していた。焦れば焦るほど思考の景色にますます靄がかかっていく。
宝のことや新雪の巫女の能力のことを理性的に考えようとしても不安が強すぎて、思考の波がすぐにあらぬ方向にいきまとまりをもたない。分析ではなく、負けたらどうするか、生徒会長を止めなくてはいけないが後任は誰がしてくれるか、奴隷となったらどんな扱いを受けるかなどといったことを考えて感情に支配されてしまう。
あと一つ見つけられたら終わりだ。次の宝が、雪野らどちらかの近くにあったら終わりだ。仮に近くになくてもパートナーの能力が移動系統ならばその時点でほぼ決着は着いてしまっている。残りは数分ほどだろう。
焦りは紗耶香のいつもの冷静な判断を曇らせる。
(今回は自分が頼られているのだ。私の奴隷と私に任せたあの生意気な主人のためにも負けるわけにはいかない。)
彼女は一人静かに決意する。




