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『6時』

「予知についてもう一度詳しく教えろ」

早朝6時、俺は黒川紗耶香を呼び出していた。

「朝から呼び出しておいてその命令口調の言い草は何なんですの。あなたには礼儀というものを教えて差し上げたいですわ」

反駁しながらも、綺麗なブロンドヘアをたなびかせていた。その整えられた黄金の髪からはご丁寧にシャンプーのようないい香りもしてくる。

「お前、そう言いながらも身支度ばっちりじゃん。何時におきているんだよ」

「普段から、5時には起床して仕事をしていますわ」

「お前って、起床後すぐに朝シャンするタイプなの?」

「自分の肉体を清らかにしておくのは乙女としては当然のこと。あなたみたいな人の心を分からない詐欺師には分からない気持ちでしょうけど」

「さいですか」

詐欺師の俺に向かって人の心が分からないっていうのも意味が分からないが、もう面倒な性格なのは把握済みなので一先ずスルーする。

「な、な、なんなんですの。そのおざなりな態度は。この私が朝早くから身支度を整えて、目の健康を気遣って普段は朝はメガネなところを、こうしてコンタクトまでしてきてあげましたのに」

「へ?俺のためにいつも以上に支度してくれたの?それはサンキューな」

「ち、違いますわ。今のは失言。じゃなくて、嘘ですわ嘘。あなたみたいな朴念仁みたいな殿方をからかうための嘘ですわ」

陶磁のような白色の肌をほんのりピンク色に染めて早口でまくし立てる。

「わかったよ。それで、本題に移っていいか」

さすがに可哀想になって本題に移ってやる。いくら何でもこんなにもわかりやすく自爆されるとからかいがいもない。特に彼女は俺に恋をしているとかではなく、男と会うときは綺麗にするもの、という固定観念を持っている。その固定観念の鎖につながれている節があるから、一層からかいがいもない。

「ええ。そうしましょう。それで何を知りたいのかしら?」

「予知ってのはどういうもんなんだ?それと雪野の能力について分かっていることを洗いざらい教えてくれ」

俺は自分なりの観察によって、初めからある程度確信していた推測を確かめるための質問をする

「はぁ。今更そんなことを言っていますの。先が思いやられますわね。まぁいいですわ。まず予知についてですが、予知というのは高位能力者になればなるほど、正確に他者のことまで予言ができますわ。低能力者だと自分のこと、それも差し迫った危険のみになりますわ」


「じゃあ、低能力者でも自分の命にかかわるものだったりする事については、予言できるってことか?」

「ええ、そうですわ。自分に危害を加えるようなことはなんでも。地震などの命にかかわることはもちろんのこと、セクハラや奴隷勝負など命にかかわらず自身の危害となるようなことも予言できるといわれていますわ」

「何で、地震については神知しか予言できなかったことがあるんだ?」

「それは、”能力は干渉”してしまうからですわ」

「”能力の干渉”?」

「ええ。私みたいな風の能力者同士が同じ空間を風で支配しようとします。そうすると、高位の能力者のみがその空間を把握できますの。多少威力と精度は落ちますが、そこまで大きくは威力は落とさずに能力を発動できますわ」

そこで、俺は単純な疑問を口を挟んだ。

「ちなみに、多系統の能力だとどうなるんだ?例えば、火と風の能力が同時に発動されるとどうなる?」

「何も起きなかったり威力が増大しますわ。基本的には高位の能力が勝つみたいですけれど。陰陽五行説のように、風は火を助くなどがあるみたいですわ」

「なるほどね」

俺は納得の相槌をうつ。

じゃあ、話を戻しますわね。そう前置きをして、再び黒川紗耶香は予言についての説明に入る。

「予言でも同じように、高位の能力者のみがその予知について予言できます。そのため、地震のような場合だと雪野さんのみが予知できるということになりますわ」

「この話を聞いていると、西校舎の人間が『うちの校舎にも予知能力者がいる』みたいなことを言っていたのと矛盾する気がするんだが」

少し考えてから俺は疑問を口にする。

「予知能力は特殊と聞いていますわ。よほど圧倒的な差がない限り多かれ少なかれ大きな事柄、地震のような事柄ならば予知ができると聞いていますわ」

そこで、紗耶香は言葉を切った。難しい顔をして口を真一文字に結んだ後に口を開く。

「だからこそ、この島内で彼女は圧倒的な予知能力を有しているということになります。恐らく今の彼女には私は勝てませんわ。それくらいに圧倒的な能力です」

「なるほどね。まぁ負けを認めた奴はいくらやっても勝てないかもな。俺は正直、どっちが勝ってもおかしくないって思うけどね」

俺は本心からそういう。

「からかっていますの。彼我の距離くらいは私は把握しているつもりですわ。その上で、勝てないといっていますの」

「能力自体ならな」

「誰もがあなたみたいに能力差を、覆せるわけではないですの。その証拠に一段階能力が変わるだけでおおよそ9割9分が高位能力者の方が勝つと言われていますの。それにたまたま一回勝利できただけで調子に乗るのもいいかげんにしてください。」

「ふーん。あっそ」

俺は興味なさげに呟く

「おざなりな返事をして私のことをおちょくっていますの?」

小さなつぶやきに少しの苛立ちを交えた紗耶香の綺麗な声がする。

「ちげーよ。だって、それって俺以外の能力者が能力以外も無能であったための結果だろ?」

「それはそうですけど、無根拠な自信ですこと」

紗耶香は少し冷めた軽蔑の視線を向けてくる。

「じゃあ、聞くけど、そのデータとやらで俺がお前に勝つ確率って何%だったんだ?」

「0%ですわ」

悔し気に彼女は声を絞り出す。

「そういうこと」

「わかりましたわ。あなたは多少は勝つ確率もあるかもしれません。けれど、私はあなたとは違います。孟子の語っていた王道以外は歩むことができませんわ。そして、私も傲岸不遜かもしれませんが、この島内でも、10本の指に入ると自負するほどの実力はあるつもりです。やはり、私が勝つ確率は0%ですわ」


「あっそ。新雪の巫女だって同じ人間だぜ?一度、負けたくらいで負け犬根性になっちまって何も考えない犬っころ以下になっちまった奴に俺は興味ねーよ」

俺は本気でこいつはあの新雪の巫女に勝てると確信していた。

人間としての強度が違うのだ。心の強さと、自分の理想を実現するための努力を俺は知っていた。

「何で、そんなに私にあなたまでも期待するんですの」

生徒会長としての期待を背負い、ファンクラブも唯一ない女の子はライトグリーンの瞳に涙をためていた。

だが、俺はそれを慰めることはしない。その必要はないと思った。

「お前が、生徒会長として色々なものを背負いながら勝ってきたことを知っている。お前ならできるよ」

この生徒会長が実は能力者として完璧ではないことを俺は奏君や他の情報網から推測していた。

だけど、同時に紗耶香は雪野に勝つことを確信していた。

だから、俺はおどけたように笑いかける。

「まぁ、成長しないと無理かもだけど。絶対無敗の俺が居るから、成長する時間はたっぷりあるぜ」

紗耶香は、少しだけ大きく翠玉の瞳を見開いた後、震えるように言葉を口にする。

「あなたなんかの助けがなくても私が、誰かに負けるわけありませんわ。私は、生徒会長。絶対の強者ですから」

俺はその言葉を聞きながら、人差し指と中指と薬指をこめかみにあてて自分を再び騙す。




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