全体の概観 後半
※前半の続きです
【表-2017】
【グラフ-2017】
2017年です。
この年にまたもや「転生」を抜いた単語が現れます。その単語はというのは、「俺」です。
それほど出現率は変わっていないので、「転生」が使われなくなったわけではありません。
「俺」という単語自体は一番最初のデータである2013年の頃からトップ10入りしていたのですが、一つ前の年の2016年から大きく順位をあげていました。
この「俺」が最も利用される単語となったのも「最強」と同様にタイトルが長くなっていったことが理由として考えられます。
恐らく「俺が〜になる/する」という説明口調のタイトルが多様化したのがこの時期なのかなと僕は予想しています。
また、「冒険」という単語がここで初のトップ10入りをしています。
これは単に冒険に行くという意味よりかは、除外単語として設定した「者」と組み合わせて「冒険者」というニュアンスで使われたのだと思われます。
以上のことから、この2016年〜2017年はどんな作品が強かったかというと、「異世界転生した俺が冒険者になってチート使って最強」です。
【表-2018】
【グラフ-2018】
2018年、ついにその日が訪れました。
これまでずっと王者として居座っていた「異世界」の玉座が陥落し、ついには「最強」が一位になりました。
この時の「異世界」の出現率13.3%というのは過去最低の数字です。
これには恐らくそもそも「異世界」という単語を使う必要がなくなったからだと思われます。
なろうの異世界ファンタジー小説の舞台といえば転生するしないにかかわらず、中世ヨーロッパ風の世界観だよねという共通認識が広まったため、「異世界」という単語はもはやそれほど読者の目を引くものではなくなったのでしょう。
あるいは、ジャンルの再編成の影響もあるかもしれませんね。
他には「おっさん」「娘」「追放」が初トップ10入りしています。
「おっさん」については全年を通じてここがピークなのですが「オッサン」「おじさん」などの表記揺れや「アラフォー」などの同義語を拾い切れていないため実質的な順位はもっと上だと思われます。
今大人気の「追放」もいわゆる成り上がりものとして作風自体は前々からあったのですが、「追放」を冠した作品が月間ランキング上位に現れるようになったのはどうやらこの時期のようです。
【表-2019】
【グラフ-2019】
2019年ですね。
2018年に順位を落とした「異世界」が再び1位に君臨し続けるということはなく、徐々にその順位を落としていきます。
その代わり順位を上げ続けているのは「俺」「最強」「悪役令嬢/令嬢」「婚約」です。
「悪役令嬢」自体の出現確率の変化は黎明期であった2015年とそれほど変わりませんが、「令嬢」という単語が目立ち始めます。
「異世界」の時と同様に、令嬢=悪役みたいなイメージがついたためわざわざつける必要が無くなったということでしょうか、「貴族の令嬢」などの別の表現に分かれていったようです。
そして地味に「チート」と「魔王」がひっそりと姿を消してしまいましたね。
【表-2020-2021】
【グラフ-2020-2021】
最後は2020年から2021年2月までです。この時期は重大な変化が3つもあります。
まず1つ目は、ついに「異世界」がランキングから姿を消しました。
なろうといえば「異世界」というイメージですが、この単語は今やタイトルには使われなくなっています。
ただ、それは舞台が異世界ではなくなったという訳ではありません。むしろまだまだ異世界が舞台の作品は現役です。
やはり異世界というのはもはや前提なんでしょうね。
あるいは、もしかしたら現地主人公が流行り始めているなどの可能性も考えられます。
2つ目の変化としては「追放」が大きく順位を上げたことが挙げられます。
その上昇度合いは過去一番と言ってもいいくらいで、一年以内にランク外の位置から1位に上り詰めたのはこの「追放」だけです。
ラング外から登場したのは2020年4月で、コロナが流行り始めて緊急事態宣言が発令された時期と重なっています。
もちろん、単なる偶然かもしれませんが果たして関係はあるのでしょうか……。
僕自身はこういう陰謀論がネタ的な意味で好きなのですが、もし仮に関係あるのだとしたら今後社会情勢が悪くなっていくに従って、その方向性は何であれ「理不尽な目にあった主人公がその苦しみから解放されるような作品」が今後も伸び続けるのではないかと予想しています。
例えばこのまま経済が悪くなっていくような社会情勢になってしまったら、『所属ギルドが倒産したけどユニークスキルで立て直してS級ギルドになりました』という作品が流行る、なんて冗談も笑えなくなってしまうかもしれませんね。
あと、4月にちらっと「幼馴染」ランクインしているのですが、調べたところ幼馴染ざまぁというジャンルが流行っているようですね。
3つ目は「婚約」「悪役令嬢/令嬢」「私」といった恋愛ジャンルの人気ワードが目立ってきているということです。
割合が増えている理由としては、そもそも最近恋愛ジャンル自体が激アツとなっていることが考えられます。
月間ランキングに乗っている作品数は2021年2月現在「恋愛>ファンタジー」です。
そして、最近上位に入り始めている単語として「聖女」「化」があります。
「聖女」に関しては安定的にトップ10入りし始めており、もしかしたら新ジャンルの芽がで始めているのかもしれません。これは期待できますね。
「化」については一体何化しているんでしょうか……。これについても気になるところなので調べておきます。
【年ごとの変遷】
最後に各年をざっと見てみます。
各年の1月の四半期ランキングから同様に分析した結果が以下のグラフです。
本当は1年ごとのグラフなので年間ランキングを取得したかったのですが、なろう小説ランキングAPIには年間ランキングがありませんでした。
※ここまでのグラフと色が異なっているので注意
これを見る限りここまで説明したことがいい感じにまとまったグラフになっていますね。このグラフが今後どうなっていくのかとても楽しみです。
【まとめ】
・「異世界/転生」は2013年頃にはすでに当たり前のように流行しており、その後もしばらくは最も人気なワードであったが、2016年頃には「転生」が、2018年後半には「異世界」が徐々に順位を落としていった。そして、今となっては「異世界」という単語はあまり使われていない。
・2014年に登場し始めた「乙女」「ゲーム」「悪役」、といった単語から派生した「悪役令嬢」という単語が月間ランキングにたくさん現れるようになったのは、2015年からであった。今では「婚約破棄」や単なる「令嬢」として様々な派生が生まれており、2021年2月現在最も流行しているジャンルの一つである。
・2016年頃以降、(おそらく)タイトルが長くなるにつれて「俺」「私」といった一人称の単語や「最強」という単語が頻出するようになった。
・「追放」という単語の初トップ10入りは2018年。だが急激にその勢いを増したのは2020年4月以降であり、これもまた2021年2月現在の最も流行しているジャンルの一つである。
・「おっさん」が流行り始めたのは2018年初頭。これについては表記揺れなどが多いため検証すべき点がまだ残っている。
・今後新たなトレンドになる可能性のある単語は「聖女」「化」。
次回はジャンル別に見ていきます。
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