7/拾う選択、捨てる選択
個人的には「タイトルが単語」なのが好きです。
でも目に止まって読まれやすいのは「タイトルが内容」ですよね。
……だから、いつも葛藤してます(笑)
●町はずれ/街道
とある日。
隣町での会合を終えて、帰路につくオオバ。
――突然、彼を乗せた馬車が停車する。
馬のいななきが妙に響く。
「……? どうした、何かあったのか?」
と、オオバが秘書に問う。
秘書は前方に空いた小窓から御者に同じ事を問う。
「も、申し訳ありません……冒険者が突然、前に飛び出してきまして……」
「冒険者?」
馬車の前に倒れこむ、傷ついた男。
そして、それを抱える慌てふためく男。
見間違う事はない。
彼らは、オオバの幼馴染である冒険者と宿店主だった。
「オオバかッ!? 助けてくれ!!」
すれた返り血まみれの宿店主が叫ぶ。
「レアモンスターを追っているうちに崖から落ちちまったんだ! そんで
朽ちた木を下敷きにしちまってっ!」
もう1人、冒険者の腹部から血が滴る。
乱雑に巻いた布が深紅に染まっている。
駆け寄り、腹部に手を置くオオバ。
同時に苦悶の表情を浮かべる冒険者。
――意外と傷が深そうだ。
昔取った杵柄か、かつての冒険での感覚で傷を診る。
オオバ、表情はあまりにもかたい。
状況があまり芳しくないからだ。
「とりあえずコイツらを馬車に! 早くッ!!」
オオバの指示で秘書や御者が、2人を馬車に乗せる。
秘書の顔は嫌悪のそれだったが、構う事もない。
全員を乗せた事を確認し、御者は馬車を走らせた。
×××× ×××× ××××
まず結論からいうと、怪我を負った冒険者が助かる見込みは少ない。
なぜなら思った以上に血を失っている事。
そして、彼らの町までは早くて数時間の道のりだ。
町に着く前に、出血多量で息を引き取りかねない。
今もなお、横になった冒険者の腹部から血が滴る。
顔色も段々と生気を失っている。
息も絶え絶え、とはこの事か。
「おい、頑張れよッ! 町に向かってるからな!」
「……うる、せぇな……耳元で、ぎゃんぎゃん騒ぐ、なよ……」
「執行部長。このままでは……」
「わかってる。わかってるよ」
――あまり良くない、この状況。
これを打破できるとすれば方法があればいい。
しかし、その方法もなくはない。
そう、ないわけではない。
アップデートされた”レベルの書”には経験値の払い戻し機能がある。
これまで用途もハッキリせず、使い道もなかった機能。
オオバの経験値を彼に譲渡する事で、彼のレベルを上げる。
そして、微量ながらもレベルが上がった際に発生する微回復。
それを繰り返し行えば、傷が癒えて体力も安定するのではないか。
コレを利用すれば冒険者を助ける事ができるかもしれない。
「………………」
もちろん代償は伴う。
文字通り、これまでネコババしてきた経験値を払い戻すのだ。
現在、オオバはレベル15。
もしかしたら、レベル10。
それ以下に戻ってしまうかもれない。
そうなると、今の地位や富も少なからず瓦解してしまいかねない。
――もし、たら、れば。
オオバ、仮定の推論が頭を駆け巡る。
これまで築いてきたモノ。
今から失ってしまうモノ。
その逡巡が、天秤となって揺れ動く。
「……おいオオバ……」
「あまり喋るな、傷に悪い」
「……町に帰ったらよ……また、飲みにいこうや……」
「はは、そうだな」
「お前との……飲み比べも、また……やりてぇ、しな……」
「ああ、またやろう」
ふと、オオバは欲にかられる。
『また』彼らと酒を交わしたい、と。
「――そうだな、考える事でもないな。オマエらあってのオレだ。レベル屋のオオバでも、執行部長のオオバでもない」
と、”レベルの書”を開き手をかざす。
「――オレは、しがない腐れ縁の4人組。その中のオオバで十分だ」
《オオバのレベルが14へ下がった》
《オオバは経験値400320を還元できた》
「よし、これで――」
《冒険者:ヘンズへ経験値を全て譲渡》
◆名前:ヘンズ(男)
◆レベル:8
◆経験値:400320/2000
◆体力:2/65
他人の経験値を奪う暇などない。
すぐさま祝詞を唱えるオオバ。
するとレベルが上がり、体力が少し回復する。
◆名前:ヘンズ(男)
◆レベル:8⇒9
◆経験値:0/4000
◆体力:4/65
それを繰り返す事、数回。
オオバはレベル9へと下がってしまった。
だが、そのかいもあり冒険者の負っていた傷が塞がった。
片や冒険者は、レベル14。
基礎能力も向上し、体力は半分以上回復した。
顔色や苦痛も和らいだ冒険者。
まるで嘘のような体験に目を丸くする。
そこでオオバと目が合う。
「おい、1つ貸しだからな。それに今度何か奢れよ、1番高い酒だ。それを一緒に飲み明かすぞ」
読了ありがとうございました。
今回も設定重視で進めてみましたが、
いかがでしたでしょうか?
やっぱりキャラクター性を表現するのって難しいですね……
日々の課題として、
今後も楽しく書いていきたいと思います。
もし、設定や内容でちょっとでもワクワクしてもらえたら
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