第1話 【帰還】
「お疲れさまでした。」
運転手が車を止める。
カードリーダーにカードを翳し、扉が自動的に開く。
埃が一切なく、誰もいない静かな廊下を歩いていく。
ふと足を止め、壁に手を当てる。
そして、何かを探すように探り、少し力を入れ、壁を押し込む。
すると、モーターの駆動音がし、壁がスライドしていく。
そして、壁が完全に収納されたと同時に何かが飛んできた。
「たかし~!!お帰りー!」
私は動じず、身体を少しずらす。
綺麗に飛んできた何かは、素通りし、反対側の壁に激突する。
「ぐはぁ」
という声を無視をし、ため息をつく。
そして、すぐに顔を戻し、敬礼をする。
「α1任務より帰還いたしました。」
そして、部屋の中の全員が一糸乱れぬ動作で敬礼し
≪B1帰還を確認いたしました。お疲れさまです。≫
と答え、それぞれの業務に戻っていく。
今いるここは自分たちのチームの指令室である。
ここでは街や前線の様子、軍本部の指令の解析を行ったりしている。
モニターには今、戦場でどのチームが戦っているのかが詳しく映っている。
そんな近未来的な場所で指示が行き交ったり、雑談をしている者もいる。
そんな中大柄な男性とメガネをかけた男性、先ほど壁に激突した女性が近づいてくる。
「おう!お疲れ!名村。今回も完璧だな!」
この大柄の男は金堂 健一筋肉をやたらと自慢してくる脳筋だ。
なぜこんな変態馬鹿が軍に残っているのか不思議なくらいである。
「今回のターゲットを暗殺したことで、また帝国は戦争を停滞させることだろう。」
このメガネは任務の指揮を担当している風間 健也だ。
頭脳明晰、と言ってもこのチームの中の話だが、世界には彼よりも優秀な人材はいるだろう。
しかし、私はこの男は任務の上で最も優秀な者だと評価している。
「そんなことより~!たかし疲れたでしょー?お姉さんが癒してあ・げ・る!」
さっきから抱き着いて来た姉貴面しているこの女は門崎 恵梨香という。
俺と同じ暗殺実行部隊の一員で今時珍しい刀使いだ。
そして、暗殺実行部隊とは、文字通り暗殺を行う集団だ。
時には奇襲、時には毒殺、時には狙撃等。ここにいる全員が暗殺のエキスパートなのだ。
ターゲットは指揮官や功績を上げた兵士など、戦争にとって重要な役割を持つ者ばかりだ。
彼らを名前で呼ぶ事はほとんどない。のだが、このチームだけはなぜかベースでは名前で呼んでいる。
特にこの女はなぜか下の名前で呼んでくる。もちろん血なんか繋がってないし、親族でもない。
とりあえず、怒りを鎮め、ニッコリとほほ笑み、彼女に一言。
「あなたはもう少し軍人の意識を持った方がいいと思いますよ。」
「た、たかし君の負のオーラが隠しきれてないよ・・・」
なぜだろうかこんなにも怒りを鎮め笑顔をしているのに。
「いつもの事だが、やはり門崎の弄る時は感情を隠しきれてないな」
金堂がそんなことを言うが、そこまで隠しきれていないだろうか?もう少し訓練が必要だな。
「まぁなんにせよ、銃の手入れでもして来い。今回の任務で1週間ほど待機だからな。」
「風間がそういうのなら、従うしかないな。」
と言い、入ってきた場所とは別の所に向かう。
自動ドアに近づき、手を当てる。
ドアがスライドし、また埃一切ない廊下が見える。
先程とは違く、一定間隔を開け、両側にドアがある。
ここは居住区である。
それぞれ自分の部屋があるが、ほぼ一直線なので、遠くになればその分移動が面倒くさくなる。
その為、対策がされている。
「何処に向かわれますか?」
と聞いてくるのはバイクの形をした移動手段だ。乗る場所には5人くらい乗れるベンチが設置されている
機械のモニターに触れると、テンキーが出てくるので、自分の部屋の番号を打ち込む。
「15号室ですねご案内します。」
自分がベンチに乗ると少しずつ加速し、自動的に部屋まで運んでくれる。
「15号室に到着しました。」
2、3分ほどで部屋に付き、ベンチを下りる。
少しすると、機械が戻っていく。出るときに呼べば自動的に来てくれる仕組みだ。
とりあえず部屋に入って一息つこう。
第1話になります。
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