SCPガールズトーク
「「「「「かんぱーい!!!!!」」」」」
カコン、とグラスの心地よい音が鳴り響きます。
ねこです。よろしくおねがいします。
今日はレストランはお休みを頂きました。そして、今、とある居酒屋の個室で「女子会」を開催しています。
「みなさん、今日は集まってくれて嬉しいです」
ねこは素直に感謝の気持ちを述べました。
「せっかく誘ってくれたんですもの……来ない訳にはいきませんわ!」
彼女は「ユカ」さん。以前ねこの勘違いで間接的にご迷惑をおかけしたのですが、ねこがSCPについて勉強してからは良い関係を築けています。
「はい……わたしも誘ってもらえてとても嬉しかったので……。1時間前に着いてしまいました……」
大人しそうな彼女は「つばさ」ちゃんです。財団では「翼人」と呼ばれています。
「それにしても、まさか私と同じような方々でこんなにも可愛らしい女性が沢山いたとは知りませんでした。先生もまだまだですね」
そう話すのは田中先生です。メガネが似合う素敵な大人の女性です。
「なんだかこうして会ってみると、古くからの友人のような気がします」
ニコニコと話しているのは「サキュバス」さん。この方にも以前失礼なイメージを抱いてご迷惑おかけしましたが、今では友人のひとりです。
今夜はねこを含めてこの5人でガールズトークをします。よろしくおねがいします。
なお、この居酒屋は「日本生類創研」の理論・超技術提供の元、「如月工務店」と「東弊重工」の全力の建築術を合わせて出来た、歴史に残る傑作だそうで、私達のような異常存在がこの世界で、安全な状態で人間の姿を保つことができるようになっているらしく、財団が多額の報酬を上記三社に払って建ててもらったらしいです。
「それで?わたくし達を誘ったのは何か理由がおありでして?」
「……とりあえずまずは食べましょう。せっかく美味しいお酒と料理を提供して貰えるのですから」
「ふふ、何か隠していますね?先生にはわかりますよ」
「い、いえ……隠しているというか」
さすが先生です。鋭いですね。
「あ、あの……わたしなんかが……力になれるかは分かりませんが……」
「私もできる限りご協力しますよ」
「つばささん……サキュバスさん……ありがとうございます……」
良い友人を持ってねこは幸せです。
ですが……
「そ、その……ねこ的には非常に口に出しにくいというか……」
「……そこまで言うのなら、少しお酒を飲んだ後にしましょう。お酒の力を借りてなら話せますか?……まあ、先生はあまりお酒を勧めたくないのですが」
「あら、それはいい考えですわ!きぶんがよくなればいろいろとお話してくださるでしょう?」
「そう……ですね……せっかくですから……みんなで飲みましょう……?」
「……私カトリック信仰してる設定捨ててもいいですかね」
サキュバスさんが何やら第四の壁を突破しそうな事を言っているので余計なことになる前にみんなで楽しみましょう……。
--------時間経過---------
「それにしても、ここの料理はとても美味しいですね。先生びっくりしました」
「そうですわねえ……もぐっ……庶民の味ですが……んむっ……この焼鳥なんかも美味しいですわ……」
「……あの、サキュバスさん……それ……ずっと気になっていたんですが……その飲み物……もしかして……男性の精」
「ヨーグルトサワーです!!こんなところでそんなもの飲むわけないでしょう!?いや、私は飲む生き物ですけれど!!こんなところで!!」
「……」
「ほ、ほらあ!ねこさんえっちなのはいけないと思いますってタイプですから!引いちゃったじゃないですか!」
「……えっと……ごめん……なさい……?」
「つばささん、以外とおちゃめですのね」
「あ、あはは……(先生もそうかもしれないと思っていたなんて言えませんね……)」
「……いえ、違うのです。むしろその話題はいいきっかけですね」
「……きっかけ、ですの?」
「はい、みなさんに……今日はみなさんに聞きたいことがあってお呼びしました」
ねこは意を決します。恥ずかしいですが、こんなにも素敵な友人達です。きっと力になってくれるでしょう。
話す前にぐびっとビールを1口飲んで深呼吸します。
「実は、相談があるのです」
「「「「相談?」」」」
「はい、あの……」
「好きな人ともっと仲を深めるにはどうしたらいいでしょうか……!!」
「「「「!?」」」」
「あらあらあらあら」
「まあまあまあまあ」
「わあ……わあ……」
「ふぇぇぇぇぇ……」
「なんですかその反応は」
ニヤニヤしないでください。ねこビーム当てますよ。
「好きな人、ですの?それって……」
「ユカさんと私が……なぜかねこさんに謝罪された例の……?」
このおふたりには失礼な事をしたと思い謝罪をした際に事情もある程度話しているので若干知っているのです。
「先生にも聞かせてください!ど、どんな人なんですか!?」
「あの……わ……わたしも……気になるなぁって……」
対して田中先生もつばささんは身を乗り出してねこに話を催促してきます。
「え、えっと……彼は……」
そしてねこは話を始めました。
彼との出会い。彼の好きなところ。彼が好きだと言ってくれるところ。彼としたこと。彼としてみたいこと。そして……
「彼はとても優しいですから……ねこはもっと関係を進めたいのです……」
ねこの素直な気持ちを。
「……そうですわねえ……聞く限り、その『彼』はかなり貴女を大事してますわね。それ故に大胆な行動には出ないのでしょう」
「はい、恐らくは。嬉しいことですが。というか、大胆な事をしてくれなくても良いのです。手を繋いだりハグをしたり……ねこはそういう事もしてみたいのです」
だって、大好きですから。
「……ハグ……いいですよね……ハグ……わたしも好きです……えへへ……」
つばささんはとある大学生の方に保護されてからずっとその方を慕っているそうです。
「つばささんはどうやってその……そういう事をしましたか……?ハグとか……」
「……わたしは……最初はただただ怖くて飛びついてしがみついただけでした…でもあの人にくっついていると安心できるんです……それに、あの人……私がハグすると……少しだけえっちな顔になるのが可愛くて……今ではお願いしたら、ハグさせてくれますよ……」
「なるほど……」
つまり、どんなシチュエーションでもいいから1度ハグしてしまえば、あとは恥ずかしくもなくなるということでしょう。
「そうですわねえ……わたくしはどちらかと言えば、男性から熱く求められるタイプですわ……なのでわたくしから言えることは、彼の好奇心をくすぐる『誘惑』が必要ですわね」
「……誘惑、ですか」
彼から手を繋いだり触れたくなるような、そんな仕草や服装……ということでしょうか……?
「先生は不純なことはダメだと思いますが、今回のように純愛の場合は応援しますよ。先生は時間が必要だと思います。仲を深めるには1歩ずつ、ですよ」
時間……確かに、猫と仲良くなるには飼ってから時間をかけてゆっくりと触れ合うことが大事だと聞きます。
人間と(元)アノマリーに関しても同じでしょうか。
「私は……その……だ、男性は……」
「はい、サキュバスさんは男性へストレスを抱えていることを知っています。ですから、サキュバスさんは私と一緒に考えてくれるだけでも嬉しいのです」
「そ、そうですか……でも、ひとつ言えるのは……私は『私を求めすぎない』人には……あまり怖くないのですよ。私の異常性に逆らえるほどの強い『意思』を持ち、純粋に愛してくれる男性なら……素直に気持ちをぶつけても避けられないと思うんです。彼は、ねこさんの異常性を変えてしまうほどの『意志』の持ち主ですから、素直にこちらからおねだりしても、きっと受け入れてくれます」
……やはり、素直さですか……でも……ねこは恥ずかしいので……
「……愛って……何でしょうか……」
ねこは思わず哲学的なことを口にしてしまいます。
「ねこは……ねこは彼が好きです。だから、えっちなことはだめでも、少し触れ合うことぐらい、いいと思うんです。ですが彼が優しく私を包み込んでくれるのも好きなのです。決して傷つけず、優しくゆっくりと愛情を持って見守ってくれるのがたまらなく愛しいんです。ねこは……ねこは……」
ねこはどうしたいのでしょう。
「……いえ、みなさんありがとうございます。ゆっくりにはなりますが、ねこはいつかもっと歩み寄れるように、そして歩み寄ってもらえるように頑張りたいと思います。ですから……ですからまた相談することがあれば、よろしくおねがいします」
ねこがそういうと、みなさんはニコニコと優しく微笑んでくれました。
さて、難しい話はおしまいです。あとは食べて飲んで楽しみましょう。
「ところで」
「ユカさん、どうしました?」
「つばささんに聞きたいことがありますわ」
「え……わたし……ですか……?鳥ではないので……焼鳥は好きですよ……?」
「いえ、そういうことではなく……」
「……?」
「ぶっちゃけ、夜の方はどうなってますの?」
「……えっ」
「ちょっ、ちょっと!ユカさん!?せ、先生、こ、こういう食事の場でそういう、そういう話はいけないと思います!」
「あら、固いこと言わないでくださいな。この不思議な建物を出てしまえば、いつも通り何も無い平凡な生活に戻るのですから」
「そ、それはそうですが……」
「わ、私は!私は何も聞いていません!あー!あー!」
サキュバスさんは耳を塞いでしまいました。
ですが、そんなサキュバスさんにもユカさんは容赦なく投げかけます。
「あら、サキュバスさん、貴女もですわ!先程、ガツガツこない男性なら許してもいいとおっしゃいましたが、実際そういう経験がおありでして?」
「あー!あー!きーこーえーなーいー!」
「みなさん口が堅いですこと……」
そりゃそんなこと恥ずかしくてなかなか言えませんよ。
「それで?つばささん?結局どうなんですの?」
「で、ですから!先生はそういうことは------」
こうして賑やかな夜はふけていくのでした。