黄金の蝶
ふわりふわり、月の王国と夢の王国の境界線上を、黄金の蝶が一匹、飛んでいました。
この二つの王国の境目は曖昧でしたので、その蝶がどこから来たのか、どちらの王国のものだったのかは、誰にも分かりませんでした。
一人の王さまが、その様子を見ていました。王さまは何としてでも、その蝶が欲しいと思いました。どうしてそこまで手に入れたかったのかは分かりませんでしたが、とにかく手に入れなければならないと思いました。
王さまは戦争を繰り返し、どんどん自分の国を大きくしていきました。本当は蝶を探すために王国を広げていたのですが、それでは理由にならないと思ったので、国家と国民の繁栄のためであるということにされました。この王さまはとても野心家だといわれ、お妃さまはその王さまの野心を愛していました。たび重なる戦争に勝ち、ますます王国が広がっていくにつれ、いっそう愛するようになっていきました。
一方で、あの黄金の蝶は一向に見つかりません。この世界のほとんどを征服してしまうと、実は蝶は別の世界にいるのかもしれないと思うようになりました。そこで考えたのは、死の世界でした。天国にいるかもしれない、地獄にいるかもしれない、はたまた、そのどちらでもないところにいるかもしれない……そう考えた王さまは、罪のない兵隊と罪深い兵隊と、そのどちらでもない兵隊とを集めて、処刑することにしました。刑は執行されましたが、いつまで経っても、蝶を持ち帰る者は誰一人としていませんでした。お妃さまは訳が分からなくなり、失望し、王さまは気が狂ってしまったと思って、こっそりと城から逃げてしまいました。
王さまは孤独になっていきました。より正確にいえば、もともと孤独だったのですが、ようやくそのことに気づいたのです。そのとき、思い出のなかの蝶はなおも光り輝いているのでした。
それから、当然のように反乱が起き、王さまは捉えられ、今度は王さまが処刑されることになりました。牢獄の窓、漆黒の冷たい鉄の棒の合間からは、月が見えました。そして、黄金の蝶がひらりひらり、と舞っているのが見えました。そこではじめて、王さまは蝶が何者だったのかを理解しました。それは、この世界から永久に消えてしまった太陽の記憶の欠片であり、同時に、人間の生涯で永遠に失われるものの尊さだったのです。追い求めれば消えてしまうのに、ふとした瞬間、昔の記憶の傷跡から生まれる、あの光です。王さまは自分の人生について、ひどく後悔しましたが、それは王さまの使命だったのです。
王さまは最期に、
「もし、わたしも黄金の蝶になれたなら……。」
と言い残したのち、処刑されました。
ふわりふわり、今宵もまた黄金の蝶が飛んでいる様子を、一人の少年が見ていました。
1200字程度の幻想的で耽美な短編小説を書いております。よろしければ、他の作品ものぞいてみてください。




