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雪のふる日に  作者: ねこ
最高の誕生日
2/7

贈り物


「お、雪さん。今日もきれいだね!」


「おじさん、こんにちは。」


朝食の後片付けを無事に済ませ、雪は市場へ買い出しに来ていた。


人目を引く容姿だが、父が旅行先で一目惚れし連れて帰ってきた、母、マリアが人懐こい性格だったおかげで、幼い頃から、この町ではあまり差別を受けたことがない。


外にいる時が、雪の楽しい時間だった。


「花嫁修業がんばってる雪さんに、今日は渡したいものがあるんだよ。」


雪は、家で虐げられていることを誰にも言っていない。

幼い頃から可愛がってくれている、この市場のおじさんにも。


中流階級とはいえ、名のある藤宮家が、前妻の娘をいびっているなんて知れたら、父の顔に泥を塗ることになる。


それに、幸か不幸か、正子たちの外面は大変良い。

まさか家の中で、言葉の暴力、時には力の暴力を振るっているなんて誰も思わないだろう。


「はい!西洋の梨だ。たまにしか手に入らないんだよ。」


「!ありがとうございます!」


(嬉しい、唯一の誕生日の贈り物だわ)


実は、今日は雪の18歳の誕生日だ。

当然祝ってくれる者などいない。


偶然の贈り物に、自然と頬がゆるんだ。


「あとで大事にいただきます。お野菜もいくつかくださいな。」


「いつもありがとうね。」


野菜や魚などを市場で買い込み、雪はもらった果物だけ、大事に着物の袖に入れた。


家につき、まずは買ったものを保管場所へ入れる。


「おやつにお部屋で食べようかしら。」


一人言。

嬉しくて、つい無意識に言葉に出した。


これが、まずかった。


「あら、何をお食べになるの?」


(いつからいたの…!)


優子が、雪を笑顔で見つめる。


「ねえ、何だかご機嫌よね?何かいただいたの?」


「いいえ。りんごを買ってきたんです。」


嘘ではなかった。

だが、こういう時の女の勘が厄介なことを、雪は知っていた。


「嘘おっしゃい。」


すっと雪に近付いてきたかと思うと、優子は雪の着物の袖に手を入れた。


「やめてくださいっ…。」


「やっぱり。」


優子は、西洋の梨を雪の目の前に突きつけた。


「…返してください。」


「隠した罰よ。こっそり食べようだなんて、意地汚いもの。家族でしょう?こういうものは、分け合わないとよね。ああそうだ、これ洗っておいてね。」


パサッと雪に洗濯物を投げつけ、優子は台所を出た。


「…なにが優子よ。優しさのカケラもないじゃないの。」


小さな声で、悪態をつく。

いつもならこのくらい、何でもなかった。


でも、今日は誕生日だ。

何年も誰にも祝ってもらってなかったところに、もらった大事な贈り物。


じわりと、雪の目に涙がにじんだ。


「ふん…。最っ高の誕生日だわ。」


強がりでいった精一杯の皮肉は、雪本人にも聞こえないくらい、小さな声だった。


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