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Cocoon 第1話:繭人病と解縛師

作者: 蒼蓮

――20XX年


20年前からこの世界には「繭人病」(コクーン)と呼ばれる病が発見された。

突発的な精神ショックによって引き起こされるその病はまるで昆虫の繭に見えることからそう呼ばれる。

そしてその病を治療するスペシャリストは「解縛師」と呼ばれていた…。

彼女、九条瑠璃とその相棒、遊星巡は日常の中に潜むその病と戦う――

「…今月の収支は…。」


とあるオフィスで女性が今月の収支をパソコンで記入していた。


「…ふう。」


女性がため息を吐くと…事務所のドアが開く。


「ただいま帰りました!」


「む?ああ…。お帰り。巡。」


巡と呼ばれる少年が女性に向かって笑顔で挨拶をする。


「…学校はどうだった?」


彼は小学5年生であり、学校から帰って来たのだ。


「楽しかったです!」


「そうか…。一旦、私も休憩するか。一緒におやつ食べよう。」


「はい!」


そして2人は住居の方に行き、おやつを食べる。



――私は九条瑠璃くじょうるり


どこにでもいるしがない女性だ。


職業は「解縛師」と呼ばれる職業についている。


「解縛師」とは…何か?…それはここ20年くらいで起きる一種の「病」のスペシャリストである。


そして私の助手…巡。本名は遊星巡と言うのだが…訳あって今は一緒に生活している。


今日は仕事もないので収支をまとめていたのだが…。


「…先生?」


「ん?」


「今日はお客さん来ないんですか?」


「ああ。…毎日来られても大変だろう?」


「確かに…。」


今は3時の休憩をしている。…今日は店じまいして美味しい物でも食べようかと考えていた時…。


…ピンポーン…


「…お客さんですかね?」


「そうかもしれないな。…巡はおやつを食べてくれ。」



「いらっしゃいませ。」


ドアを開けるとそこには…。


「あ、あの…ここでしょうか?「民間」の解縛師さんがいるのは…。」


「はい。解縛師は私ですが…。」


どうやら仕事の方である。


「私の夫を…助けてください!」


「…詳しく聞かせていただけますか?」


患者の奥さんであろう人が瑠璃に助けを求めてやってきた。



「なるほど、朝起きて、旦那さんの寝室に入ったら…ですか。」


「はい…。」


「…何か心当たりは?」


「その…最近、夫は大きな仕事で成果が出せなくて…。まだ手をつくしたわけではないのですが…。」


「その重責で…「繭」になってしまったと。」


「はい…。」


「繭」…それは数十年前、突如起こった一種の病である。


人が精神的なショックから、まるで昆虫の蛹のように「繭」のように閉じこもってしまう病であった。そ

の様子から「繭人病コクーン」という病名が付けられた。


「…その、主人はこのままだとどうすれば…。」


「…体の方が衰弱しますが…まだ初期症状なので今すぐに行けば…。」


「お願いします!お金は…!」


「成功報酬です。…念のために言っておきますが…高いですよ?」


「それでも構いません!」


「…わかりました。引き受けましょう。…少々こちらでお待ちを。」



「巡…。仕事のようだ。準備をしてくれ。」


「はい!先生!」


10歳の少年だが、彼は立派な助手だ。…繭人病は「精神」が関わる病のため、感受性の強い子供の発想は

時に治療の手助けになる。


「忘れ物はないか?」


「大丈夫です!」


そして私と巡は患者と共に車に乗り、患者の家に向かう。



「こちらのマンションですか?」


「はい…。」


「大きなマンション…。」


巡は高層マンションの上の方を見ている。


「巡。中に入る。」


「あ、はい!」



「念の為、確認しておきますが…中に入っても大丈夫ですか?」


「は、はい…。」


「わかりました。…巡。今回は私1人で大丈夫だ。…君は彼女に付き添ってくれ。」


「はい!」


そして私は寝室に入る。ベッドの上にある白い繭を見る。


(…確かに色に染まっていない。…初期症状なのは間違いないか。)


そして治療道具を手に取る。


「繭人病」の治療には普通の医者が使うような医療器具はほとんど使わない。


外側から糸をはがしても患者の意識は戻らないし、個人差もあるが1時間もすれば

再び元の繭に戻ってしまう。


「…解縛、開始。」


取り出した小型の機械…私達は「投影機」と呼んでいる代物で繭に光を当てる。


これによって患者の心境などを「1つの世界」として見る事ができる。



「――君!これがどれだけのことなのか…わかってるのか!?」


「申し訳ありません!」


「謝って済む問題じゃない!一歩間違えていたら私まで危ないじゃないか!」


「すみません…!」


「もういい!さっさと後始末しろ!」


上司らしき男性に叱責されている患者の姿。


(…原因は、仕事のミス…か?)


患者の妻もそう言っていたが先入観を持っては危険である。


「…勘弁してよ。」「部長の機嫌が悪いとこっちに飛び火してくるんだよな…。」


その周囲ではあからさまに陰口を言う同僚たちの姿…。


そして一旦、映像が途切れ、別の場面が再生される。


「…おかしい。見積もりは間違ってなかったし、必要な書類も全て確認したのに…。」


飲み屋の一角でそう呟く。


(…ん?)


「…はぁ。やってしまったことは仕方ないか。」


一旦席から立ち上がり、店内にあるトイレに向かう患者の姿。


(…流石に、そういったシーンは必要ないと願いたいのだが…。)


とはいえ、機械はあくまでも患者の「記憶」を映している。


…当然、そういう映像が流れてきたことも幾度もある。


「…ん?」


トイレに行こうとした患者が同じ店内の部屋の座敷席で止まる。


「…部長…?」


患者の視線が同じ会社の人物である上司に向く。…向こうは気づいていないようだ。


「昼間のあいつの姿ったらなかったなぁ!…ま、俺はスッキリしたけど。」


「本当ですね!でも、どうするんですか?この後?」


「そこは問題ない。抜いた資料を戻して俺がフォローしたって言えば先方も納得してくれる。」


「流石部長~!!かっこいい~!」


まるでどこぞのドラマのワンシーンのような描写が繰り広げられている。


部下の功績を横取りしようとする上司にその取り巻き。


(…やれやれ、原因はこれだな。)


そして患者の顔には裏切られたショックによって酔いも醒め切った表情になっている。



「…画像はここまで、か。」


投影機によって大体の状況を理解できた。


「…とりあえずは奥さんに報告しよう。」


そう言って一旦、寝室から出る。


「どうでしたか!?何かわかりましたか!?」


患者の妻が瑠璃にすがるような瞳で見る。


「ええ。…典型的な職場いじめ…という奴です。それが原因で突発的に発症してしまったと考えられま

す。」


「…いじめ…ですか。」


「…ええ。わかりやすく言うとパワハラですね。今回はばっちり記憶による映像があったのでこれを映して

診断書を書きます。…後、もし良ければ、その取引先の名前などを御主人から聞いてたりはしましたか?」


「えっと…確か三露商事とかなんとかって…。」


「そこまで聞ければ十分です。…そちらの方にも送っておきます。」


「え!?そんな事したら会社に被害が…。」


「…取引先の会社がまともであれば悪事を働いた人間を排除するでしょう。


それに彼自身、一度裏切られた企業に勤め続けたくはないでしょう。


――それとも、貴方はご主人にこのまま永遠に繭の中に引きこもっていろと?」


「そ、それは…。」


厳しい口調で患者の妻に伝える瑠璃。


「…先生。」


「…もし、ご主人の事を思うなら…転職することもお考えになってください。

どうしても踏ん切りがつかなければ…もう一度診察に参ります。」


そして瑠璃と巡はお辞儀をし、車に乗り込む。



「先生…いいんですか?あれで?」


助手席に座っている巡が瑠璃に聞く。


「何がだ?」


「…あの言い方だと先生がその…。」


「厳しい人間だと?」


「はい。」


信号で一旦車が止まる。…そして瑠璃は…。


「…人間、環境が変わる前って言うのは大きな痛みがある。…解縛師は繭を解く手伝いをすることはできるが…。患者自身が治したいと思わなければどうにもならない。そこは普通の医者にも通じる所はあるな。」


そして信号が青になり、車のアクセルを踏む。


「…彼の場合、いくらでも道を変えられる選択肢があったしな。そこまで重症ではないんだ。」


「そうなんですか…。」


「…ああ。奥さんが説得すればきっと治るさ。それより巡。今日は何を食べたい?」


「唐揚げとかどうですか?」


「そうするか。…じゃあどこか寄って帰るか。」


…数日後…


「…巡はまだ帰ってこないか。」


昼の1時。…彼もまだ小学校で授業中だ。だがそこでチャイムが鳴る。


「ん?…お客さんか。」


イスから立ち上がり、客を迎える。ドアを開けた先にいるのは…。


「…あ、あの…。」


「ああ…貴方は…。それにそちらは…。」


患者とその奥さん2人だった。



「…先日は助けていただいてありがとうございました。」


患者の妻が瑠璃にお礼を述べる。


「仕事ですから。…それで、その後はどうなりましたか?」


「…残念ながら取引はなくなってしまいました。…ですが、今回の一件で部長の悪事が公になって…。」


「…貴方はどうするんですか?」


「…ええ、今回の一件で、実はその…三露商事からスカウトされて…。」


「返事は?」


「もちろん、喜んで受けました。…実は昔から憧れていて…。」


そして仕事の報酬を受け取る。


「…新しい会社でも頑張ってください。」


「「ありがとうございました!」」


そう言って夫婦は帰っていく。そして同時に巡が帰ってきた。


「先生!」


「巡!…そうか。もうそんな時間か…。」


患者の詳細を聞いていたら結構な時間が経っていたようだ。


「さっき帰っていった人って…。」


「ああ、先日の患者だよ。…どうやら、今回は丸く収まったみたいだよ。」


「そうですか!よかった…!」


「…さ、今日は店じまいにして…と。」


「先生。もう少し働きましょうよ…。」


「…冗談だよ。冗談。」


解縛師の日常はこんなものだ。…別に特別な能力があるわけでもない。


巡に叱責されて、椅子に戻って作業をする瑠璃であった。


久しぶりに書きたくなったので投稿します。

続きを書くのかは…今後の気分次第となります。


もし気になる方がいればコメント等を送ってくだされば今後も書いていきたいです。



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