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007.ジョン、白ヘビを従える

 俺は、シーエイプたちを瞬殺した白ヘビに睨まれて、内心相当テンパッていた。

 何しろこの白ヘビさん、俺よりデカかったシーエイプよりデカいのだ。2階……いや、3階建てに相当するんじゃないだろうか?

 そんなヤツに、目の前で見下ろされながら、シャー! って牙を剥かれて、怖がらないヤツは異常だと思う。


「さぁ、早く(わたし)と戦って、死ぬのだ」


 ふんすっと鼻息荒く、そう命令して来る白ヘビさん。

 いや、俺、ずっと両手上げてるじゃないか。キミと戦うなんて、無理だって。

 抗議の意味を込めて見上げてみるも、まったく意味を成さない。

 ……やっぱり世の中、何も言わなきゃ、分かってなんてもらえないよな。


「と、ところで、何で俺を殺したいんだ? 俺たち、初対面だよな?」


 俺は、とりあえず、殺気を向けて来る理由を尋ねてみることにした。

 結果死ぬことになるのは、自業自得的なところもあるから良いとしても、理由も分からずに死にたくはなかった。

 まぁ、とは言え、まず答えてはもらえないだろう、と思っていたのだが、白ヘビは意外にも、普通に答えてくれた。


「如何にも。だが、うぬら迷宮管理人(ダンジョン・マスター)は、放っておけば世界に哀しみを巻き散らす、悪しき存在だ。(わたし)も、かつて苦しめられた。故に、(わたし)はうぬを殺すのだ」


 話自体は、一応理解出来た。だが、反射的に疑問が零れる。

 すいませーん、声さーん。その辺の事情、まだ聞いてないんですけどー。

 内心で文句を言うと、まだ居たらしい声さんが、のんびり説明してくれた。


迷宮管理人(ダンジョン・マスター)自体には、善も悪もないよ。善悪的な物の見方で創られたワケじゃないからね。ただ、もし今が、ボクの予想通りの展開になってるなら……まぁ、相対的に見て、悪いマスターのが多くなってるかもねぇ』

「それって、もしかして、俺に普通の力じゃなくて、マスターとしての力をくれたことと、関係あります?」

『アハハ、やっぱ鋭いねぇ、キミ』


 声さん、なんか楽しそうっすね。

 俺は、そこに声さんの姿が見えていたら、きっとジトッとした視線を送っていたことだろう。

 今、それどころじゃないって言うのに、何かバンバンと重要設定垂れ流してくれちゃってませんか? ねぇ、ちょっと。


「ところで、白ヘビさんは、今創り出されたんじゃないのか? かつて苦しめられたって、どういうこと?」

「何だ、同情でもすれば見逃してもらえるとでも思うたか?」

「そう言うんじゃなくて、純粋な興味だよ」

「フン。まぁ、良い。(わたし)は! ……? (わたし)……は、」


 憎々しげに、力いっぱい説明してくれようとしていたその声が、尻すぼむ。

 やがて、弱々しく、「思い出せない」という呟きが聞こえた。


「……考えたくはないが、よもや(わたし)は、うぬによって創られた存在なのか?」


 ややあって、不安げな問いかけが降って来る。

 外見は、特撮物の敵キャラみたいだが、声はさっきの人型に見合う、愛らしい少女の声だ。

 だからなのか、どうにも力無い声だと、憐れみを誘うと言うか、イジめてるような気分になると言うか……ともかく、何だか辛い。

 どう答えたものか、と俺が迷っていると、横からメイが、アッサリと断定した。


「そうよ。貴方は、此方におわすマスター・ジョンの創りし者。眷族」

「な、何ィ!?」


 ガガーンと、激しくショックを受けたように口をあんぐりと開いた白ヘビさんは、しばらくそのまま固まった。

 そして、少ししてから、ゆるゆるとその場に倒れ込み、最終的に、人型へと戻って行った。……力が抜けると、人型になるんだろうか。


「な、何たることだ。よもやこの(わたし)が、憎き迷宮管理人(ダンジョン・マスター)の軍門に下るなど……」


 とっても悔しそうな様子のところ悪いが、俺は今、急いでいる。

 他の人を創るという手もあるが、出来るだけ早く村に戻りたい上、この白ヘビさんの強さは折り紙つき。

 あまり気は進まないが、白ヘビさんに手を貸して貰うのが一番ベストだと思う。

 怒りに触れたら殺されそう……というか、今まさに殺されそうだから、正直腰が引けているが、ここは正念場だ。


「君。良ければ、俺と取引しないか?」

「うぬらの口車には乗らぬぞ」

「もし協力してくれたら、眷族から解放しても良い」

「何!?」

ご主人様(マスター)、何を……?」


 メイが、若干責めるような語調で呟く。

 気持ちは分かる。これだけ強い子だ。上手く仲間に出来たら、心強いだろうし。


「俺、嫌がってる子を、無理矢理仲間にはしたくないから」

「!」


 白ヘビさんが、ヒュッと息をのみ込む音が聞こえた。

 女の子の見た目でも、その辺豪快なんだね。音、大きかったわ。

 少しふざけたことを考える俺に、メイが静かに唇を動かす。


「彼女の創造が、本来の流れとはかけ離れてしまった為に、エネルギーを著しく消耗しております。彼女を解放してしまえば、まともな眷族の無いまま、ひと月を過ごすことになり、大変危険でございます。お考え直しを提案申し上げますが……」

「え、俺もうエネルギー無いの?」


 本当に、全然チートじゃないじゃないか。

 ちょっと不安に思ったが、いやいや、男に二言はないのだ。

 俺は、白ヘビさんに向かって力強く頷いてみせる。


「俺は、家族にウソはつかない。約束するよ。協力してくれたら、解放する」

「……信じられぬな。それに、(わたし)たちは、家族では無い」

「複雑だろうけど、俺がお父さんで、メイがお母さんってのは変わらないし、家族で良いんじゃないか?」

「…………」


 納得出来ないって顔で睨まれる。

 今の姿だったら、幾ら睨まれても怖くないんだけどなー。

 俺は、苦笑気味に彼女に歩み寄ると、頭を下げた。


「俺には、助けたい人たちが居るんだ。でも、今の俺には、直接自分でどうにか出来る力が無い。だから……頼む。俺に、力を貸してください!」


 この正攻法で駄目だったら、本当にお手上げだ。

 頼むー、頼むー、と頭の中で、うるさいくらいに願い続ける。

 すると、少しの間を置いて、可愛い笑い声が響いた。


「……ふっ」

「?」

「ふっふっふ……」

「どうかし……」

「ふははは!!」

「た!?」


 驚いて顔を上げると、白ヘビさんが、ニンマリと、それはそれは悪そうな笑顔を浮かべている。

 何で急にご機嫌? 可愛いけど……マジで怖いんですが。

 困惑する俺に、白ヘビさんは胸を張って叫ぶ。


「面白い……面白いぞ、ジョンとやら! 力でねじ伏せず、自らの頭を下げるその心意気、気に入った。よし、ここは一つ、(わたし)がこの力を振るって進ぜようぞ!」

「えっ、本当か!?」


 マジでか、信じられん! 俺の説得が利いた?

 ……と言うか、迷宮管理人(ダンジョン・マスター)が頭を下げた、という事実が面白かったのかな。


「愉快愉快! 別の者とは言え、迷宮管理人(ダンジョン・マスター)が、(わたし)に頭を下げるとは!!」


 うん、そうっぽい。


「……お話がお済みでしたら、お名前を授けられますよう」

「名前?」

「はい。正式に、眷族化しなくてはなりません」

「それ、今回の件が片付いても解放出来ない奴じゃないの!?」


 メイが、しれっと提案して来るけど、それってアリなのか?

 思わず叫ぶ俺に、メイは緩く首を横に振った。あ、違うのね。


「いいえ。ご主人様(マスター)の意志があれば、可能です」

「そうなんだ。じゃあ、白ヘビさーん。一時的に、名前付けても大丈夫か?」

「名前、か。ならば、(わたし)に相応しき、優美な名を付けるのだ」


 ふふん、と鼻を鳴らす姿は、完全にただの小学生だ。

 こうして見ると、ウェンディ&マイケルと同じ年くらいなんだなぁ。

 いやいや、それよりも名前、だったな。


「……スネコってどう?」

「何だ、その貧相な名は! 断る!」

「プリティー☆スネコ」

「けったいな接頭語が付いただけのように聞こえるぞ。却下だ!」


 白ヘビさんは、スネコはイヤなようだ。

 何でだろうな? こんなに格好良くて可愛い響きなのに。


『……キミってさ、やっぱりネーミングセンス壊滅的だよね』

「声さんまで!!」


 ヒドイ!!


「メイ! スネコって良くないか!?」

ご主人様(マスター)の御心の侭に」


 メイに至っては、答えてすらくれなかった。何で!?

 ……でも、イヤがってる名前付ける訳にはいかないしなぁ。

 俺は、肩を落としながら声さんに問いかけた。


「声さーん。さっき、白ヘビさんの種族、なんて言ってましたっけ?」

『ホワイトナーガだね。ボクが封印された時代で、既に絶滅危惧種って言ってるくらいだったから、相当レアな筈だよ』


 ホワイトナーガ、か。

 ナーガって、確か地球で言うところの、ヘビの神様じゃなかったっけ?

 その辺の由来は、意識して付けると良いかもしれない。


「ナーガ……ナイ……ナウ……」

「……嫌な予感しかせぬ故、単純で良い。諦める」


 ……ねぇ、白ヘビさん。何で諦めるなんて言うのさ。

 俺の付ける名前、そんなにイヤ!?


「分かったよ。うーん、じゃあ、ナーラってどう?」

『ナーガだから、ナーラ。……うーん、シンプルだね』

「妙ちきりんな物より、余程良い。それでは、(わたし)は今からナーラだ。よろしく頼むぞ、ジョン」

「あ、ああ。よろしく」


 何か、素直に納得出来ないのは気のせいだろうか。


「それで、ジョンよ。(わたし)は何をしたら良いのだ?」

「あっちの方向に、村があって、さっきのサルたちに襲われてるんだ。今は、冒険者の人たちが応戦してくれてるけど、いつまで保つか分からない。ナーラには、そのサルたちの討伐をお願いしたい」

「何だ、先ほどのサルたちに残党が居るのか。些か拍子抜けるの」

「俺を追って来たのよりも、ずっと数が多いんだ。それに、乱戦になってる可能性もある。人間は、無傷で助けてあげて欲しいんだけど……どうだ?」


 ナーラは、気だるげに息を吐くと、パッと不敵な笑みを浮かべる。


「誰に聞いている? その程度のこと、朝飯前だ」


 頼もしい!!

 ナーラは、感銘を受ける俺に背を向けると、視線だけで俺を見た。


「それでは、行くか。ジョンよ。道案内は頼むぞ」

「ああ、任せろ!」

「言っておくが、(わたし)の背に乗ることは許可せぬからな」

「そこまで無理言えないし、分かってるよ。……じゃあ、メイは俺の背中な!」

「かしこまりました」

「……(わたし)の足に、ついて来れると本気で思うておるのか……?」


 呆れた様なナーラの視線を受けながら、俺はメイを背負う。

 そして、すぐに下ろした。


「ゴメン、やっぱ横抱きで良い!? 思ったより恥ずかしかった」

「かしこまりました」


 メイは、俺が最初に着てた服と対になってるような、ギリシャ神話っぽい、薄い布を巻きつけた様な格好だ。

 その状態で、俺の背中に抱きつかれると、とても落ち着かないことが分かった。

 横抱きも、普通に落ち着かないけど……背中より良いんじゃないかな!?


「……これも、恥ずかしいわ」

「重くはございませんでしょうか?」

「全っ然! 余裕!!」


 本当に、今こんなラブコメしてる場合じゃないのに、何やってるんだ俺は。バカだろうか。

 心頭滅却すれば火もまた涼し!

 今日の標語として、頭の中に一文を刻み込んだ俺は、深呼吸をして駆け出す。


「じゃあ、ナーラ! 振り切られないようについて来いよ!」

「ふん。それは(わたし)の台詞……って、思ったより早いな、うぬは!!」


 ドドド、という効果音、砂ぼこりと共に全速力で走る俺。

 少し驚いて出遅れてたけど、すぐに追いついて、並走し始めるナーラ。

 そして……俺はギリギリ、声さんの存在を思い出す。


「あ、声さんはどうします? ここでお別れします?」

『うーん、折角だし、キミたちの初陣だけ見届けてから行こうかな』

「そうですか。流れ弾に気を付けてくださいね」

「……しかし、先ほどから、この声とやらは何なのだ? 直接頭に語りかけて来ているような不気味さがあるのだが……」

「邪神だからな」

「邪神!?」

『違いますぅー。それは、ボクの敵側の人たちが勝手に言ってるだけですぅー』


 確かに、声さんはひょうきんな人だが、寧ろ、だからこそ邪神と呼ばれているようにさえ思う。

 きっと、変に人のことをからかった挙句、ウザがられて封印されたんだろうなぁ。


『ちょっと! それ、名誉棄損って言うんだよ知らないの!?』

「思想の自由を侵して来る人に言われたくないんですが」

『真面目なレスポンスはやめてよー!』

「……本当に、うぬらの知人たちは危険な目に遭っておるのか……?」


 あっ、何かナーラが疑いの眼差しを向けて来ている。

 普通そう思うよね、分かる分かる。

 知人が死にかけてる時に、こんなコントするような人なんて居ないもんね。

 ……ちょっと悲しくなって来た。流石に真面目に走ろう。


「ぬ。速くなったの」

「うおおお、待っててくださいね、ソコノ村ー!!」

『今更取り繕っても、人間性は隠しきれないよねー』

「誰のことかなー!!」

「足下にご注意くださいませ、ご主人様(マスター)

「うぬには負けぬぞ!」


 男1、女1、幼女1、謎の声1。

 傍目に見たら、楽しげにかけっこをしている、仲良し家族でしかないんだろうが、俺たちはこれから、絶賛ピンチ中の村を救いに行くのだ。

 俺は、ギュッと口元を引き結んで、行く先に目を凝らす。

 まだ見えないが、全速力で走れば、きっと、すぐにあの青い色が広がるだろう。

 シュゼさんたちなら、大丈夫だ。あの様子なら、半分くらいは減らせてるかもしれないくらいだ。

 いや、全然減らせてなくても、ナーラだったら大丈夫だ。全員助けられる。


 俺は、小さな震えを誤魔化すように、力強く砂を蹴った。


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