五話「母親への思い」
扉から現れたのは私の母親だった。私の体はそのまま母親に向けて行こうとするが両手両足が動かない。誰かに止められている。藤崎さんではなさそうだ。なぜなら、彼は苦しそうにベッドの上でもがいているから。そう思い、私は両手両足を見る。そこには小さな女の子ような手が無数にある。
「もう、やめようよ、こんなことは」
私がここに入院し始めてから一日目に聞いた女の子の声が弱々しくも透き通る声で聞こえて来る。後ろを振り返るとそこには少女がいた。
「俺は辻井令。お前みたいに逃げ回ってなどいない」
「ごめんなさい、令……心理」
私の胸あたりに激痛が走る。そしてそこから何かが垂れるのを感じる。恐る恐るそこを見ると、私の胸にどこかの除霊師からもらったのだろうロープ状の御札を握り手の部分に巻き付けたそのナイフが私の心臓を刺していた。
「私も後を追うから……だからもうやめて」
「その言葉聞き飽きた……あぁ」
私の視界には何も見えなかった。私は死んだ。よく思えば父親がいない家族の中で自分のことを憎む母親。その母親が怪我した私の時にだけ良き母親を演じ切る。最低な家族だったな。




