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エピローグ

いつもより、糖分多めな仕上がりになってる、はず。

三学期ももうすぐ終わりを迎える、とある日の放課後。

自分たち以外、誰もいなくなった教室で仲良し三人組でのどかに過ごす。

思い思いに学食でテイクアウトした飲み物を片手に。

明子はブレンドコーヒー。

和子はロイヤルミルクティー。

私は、季節限定ストロベリーカフェラテ。


ふと、明子がそういえばと口を開く。


「正式に蔵人くんとお付き合いすることになったから」


和子と知ってたつーか、ついに言いやがったかと視線で会話をしながらも、おめでとうと祝福をする。

と、咳払いをわざとらしくしながら、今度は和子が口を開く。


「えと、私もエリヤと正式にお付き合いすることに、なり、ました」


照れ照れと話し出す和子。

明子とまだ付き合ってなかったのかとか、いやいやお前ら当の昔に両思いでしたよねと、つーか、今さら?と目で会話する。


「……何はともあれ、二人ともおめでとう」


色々とツッコみたいが、それらを呑み込んで祝福を述べる。

幸せならよしだもんね、なんか、その割にバタついてる気もするが、当人らの問題だしほっておこう。

今は自分のことでいっぱいいっぱいだし。


ガラリと教室の前の扉が開き、新川先生が顔を覗ける。

平常心平常心と心の中で唱える。

彼の姿がうっかり視界に入るだけで、最近ドキドキしてしまう。

くそう、この諸悪の根源め。


「よかった。ここにいたのか」


え。

もしかして、私のことさがし、


「春野、さっき渡しそびれた書類だ、受け取れ。悪いけど、これの提出も明後日までな」

「……提出書類が多すぎやしませんか」

「馬鹿いえ、来年度になったら月イチある実習の計画書やら報告書やらがもっとあるぞ」


うん、分かってた。分かってましたよ?

人目のあるとこで、私と堂々と接触なんてしませんよね!?


「どした、市居。つっぷしたりなんかして」

「なんでもないです」


ほっといてください。

二人きりだろうが、他人がいようが、未だにこの人との距離感がつかめてないのだ。

だって、どう接していいのか分からないんだもの。


「で、仲良し三人組が揃って茶話会か」

「茶話会とか、先生言い方が古いですね。ちょっとした報告会ですよ」

「あ? ついに春野と央守がそれぞれの彼氏と正式に付き合いだしたとかか?」


ぶはっと、和子と明子がそれぞれの飲み物を吹く。


「春野はともかく、央守はいつからなんだ? 職員室で賭けをやってるからとっとと正確な日付を吐きやがれ。絶対にバレンタインだよな? お前はなんだかんだでイベント事の日付を重視する女だもんな?」


明子が、ふるふると震えている。どうやら図星の様だ。

珍しい。明子がやり込められてるよ。


「先生方の視線がやけに熱かったのはそのせいですか。そうですね、バレンタインからですよ!? 賭けに大勝ちしたんなら一割くらいは私にくださいね!!」

「無理無理。使い道は決まってるから」


ぽすっと、先生が私の頭に手をのっける。



「こいつとの、デート資金だからな」



ぶふっと、今度は私が飲み物を吹き出す。


「待って、先生?! デート? 栞とデートするんですか??」

「ちょっと、どういうこと、それ!!?」


明子と和子が私に掴みかかる。

え、なうなの。なうで、バラしやがるんですか?

がしがしと、二人に揺さぶられながら先生もとい海斗さんを睨み付ける。


「親友二人が報告したんなら、お前もしなくちゃ、だろ?」

「いやいやいや、ばれないようにって言ってたじゃないですか!?」

「この二人くらいにはバラしとかないと、学校でお前に絡みにくくて俺が淋しいだろうが」


なっ?!


それじゃあ、今までとあんまし変わらねぇしとぼやかれて思わず頬が赤くなる。


「栞、いつの間にそういうことになってたの?」

「……えと、なんと説明すればよいのやら、」


つい先日なんです。

出会ったのも、付き合うような話になってるのも。

といってもいいものか。


「俺が高校ニ年生ん時に市居に会って、一目惚れしてようやく再会したんだよなー」

「海斗さんっ! ちょっと黙っててください!!」


やめて、これ以上ややこしくしないで。

確かにあなたにとっては数年前ですが、私にとってはつい最近なんだって!!


「「……海斗、さん」」


はっと、自分がうっかり先生呼びしなかったのに気付くも、もう遅い。

親友二人の目がギラギラしてる。


「……ちょっと事情が込み入っててるの。今度ゆっくり説明するからお待ちいただけると大変助かるかなーって」

「栞、あるがままを話せばいいんだよ?」

「大丈夫。もしも、違ってても横からもう一人の当人が訂正してくれるから」


横にいるからこそ、説明しにくいって気付けよ!?

いや、気付いてるよね、二人とも。

助けてと、海斗さんに視線を送ると、仕方ないと苦笑される。


「俺らはお前らと違って、今がいっちばんほやほやで初々しい時期なの。邪魔すんなよ。落ち着いたら事細かに説明させるから、今は見逃せよ」


ちょっと待て。その説明は、


「言質はとりましたからね!!」

「よっし。では、邪魔にならないように御前を失礼しますっ!」


どうなのかなーって思ってる間に、親友二人は風のように去った。


「……愉快な親友だな」

「……えぇ、本当に。自慢の親友ですよ」


棒読みする私に罪はないはずだ。


「さて、さすがにここに二人きりは不自然だな。移動すっぞ」





生徒指導室へ移動し、椅子に座ると目の前にティラミスと置かれる。


「もらいもんだ、食え」


冷めたカフェラテじゃ味気ないだろと、一緒に紅茶も出されて勧められるままにちょうだいする。

うん。美味しい。

機嫌よくティラミスを攻略してると、視線を感じたので、ふと顔を上げると、


「ん? どうした」


すごく優しい目でこちらを見てる海斗さんと思い切り目があって、慌ててティラミスに視線を戻す。


「……なんでも、ないです」


今のは反則でしょう。

なに、あの、顔。


「なんだ、顔、赤いぞ」


絶対に、分かっててきいてるし!!

むーんと唸る私を眺めつつ、海斗さんはかけてた眼鏡を机に置く。

そういえばと、疑問に思っていたことを口にする。


「昔はかけてなかったのに、視力落ちたんですか?」

「いーや、視線をごまかす為」

「え?」

「合格発表の時だったかな。うちに入学決まってほっとしてる誰かさんのこと見てたら、視線でばれますよって注意を学年主任から頂いたので、その対策」


ぽかんとする私の顔を見て、海斗さんがさらに微笑む。


「目の前に気になる子がいたら、どうしても目で追っわけちゃうだろ?」

「そう、だったんですか」

「そうそう。だから、目の前で栞ちゃんが幸せそうに笑ってたら、俺の顔も蕩けちゃうのよ」


ぐっと、今度はティラミスを喉に詰まらせる。こんなにやわらかい食べ物がなぜ、詰まる。


「それにさー、なんだか、最近やけに誰かさんから熱い眼差しもらっちゃうじゃん? もう、嬉しくて嬉しくて、口元ゆるみまくり」


かあっと、頬が赤くなる。

確かに、自分でも見過ぎじゃないかと思うくらい、見てましたとも。


「……だって、気になるし」

「うん。俺も、お前さんが入学してからずっとそんな感じだから、よく分かるよ」


にこにこと音がきこえてくるくらい、海斗さんの笑顔が眩しい。


「ほんと、こうして、俺の一言でころころ表情変えてくれるのとかも、すっげー嬉しいし」


なんて返事をしていいのか分からないのと、喉を潤すべく紅茶を飲んで間をもたす。

放課後にこうしてこっそりお茶をする度に、海斗さんは私の心をざわつかせる。

ちょっと前まで、幼馴染のことや親友二人のことでもやもやしてたのが嘘みたいに、私の心の中は海斗さんのことでいっぱいで、他のことを考えてる間もない。


「私も海斗さんのおかげで、毎日が、」

「ん?」

「……とても、充実してます」


そりゃよかったと、海斗さんが少し温くなった紅茶を飲み干す。

ちょっと冷めた飲み物を、一気に飲むのが好きだと知ったのは何回目の学内デートの時だろうか。

こんな感じで、ちょっとずつ彼のことを知っていく。


「栞」


ぼうっと、海斗さんのことを眺めていると、柔らかい声音で名前を呼ばれる。



「好きだよ」



届けられた、優しく甘い一言に、さらに頬に熱が集まってくる。

恥ずかしさよりも、嬉しさの方が勝ったので、私も彼に届けてみる。


「私も、海斗さんのこと、好きですよ」


彼のように、相手を蕩けさせるほど甘くなんていう芸当はまだまだできないので、今の精一杯の気持ちをこめて。






これにて栞の物語は完結となります。

お付き合いありがとうございました。

少しでも楽しんでいただけたのなら、幸いです。


後日、番外編として海斗視点の話をあげる予定です。

甘くなるか、コメディ寄りになるのかは、未定でございます。

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