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改めて、私とあなた

――――毎年、二月の第一金曜日の放課後にこの学校の、そうだな、温室で待ち合わせしよう


それって、今日のことだよね。

彼がもしも、私よりも過去の人物だというのなら、今日もそこで私のことを待っているということで、


「栞。そんなに急いでどうしたの?」


廊下を怒られない程度に走っていたら、和子に声をかけられた。

ちょうどいい、確認をしてみよう。


「和子。ちょっと聞くんだけど、歴代の生徒会長でシスコンで有名だった人っている?」

「それって、明子のお兄さんのことでしょ。しかも、副会長が示し合せたかのようにブラコンだったていうやつ」


…………待って、待ってください。


明子にすっごいシスコンな変てこなお兄さんがいるのは知ってる。

生徒会長やってたのかよっ!? 色々とツッコみたいけど、ぐっと我慢する。それどころじゃないもん。


明子のお兄さん、年はいくつっていってたっけ。

でも、これで新川海斗という人物が私よりも過去に学生をやっていたっていうのは確定した。

てことは、新川海斗って、やっぱりあの、新川先生なの?


「知ってたらでいいんだけど、新川先生の現在地って分かる?」

「さっき、休憩がてら温室の点検に行くっていってたよ」

「……そっか。和子、ありがと」


短く和子にお礼を言い、約束の場所へと急ぐ。





今日に限って貼られている「進入禁止」の注意書きを一瞥し、意を決して扉を開ける。

思っていた通り、鍵はかかっていない。

後ろ手に扉を閉め、第三者に邪魔はされたくなくて、鍵を静かにかける。

逸る心音と反対に、ゆっくりと歩を進める。



――――では、栞ちゃん。また、いつかの二月にあんたに会えるのをめっちゃ楽しみにしとくからな



私にとってはついさっきだけど、彼にとっては数年後になる。

本当に楽しみにしていてくれてるのだろうか。

だって、そんな素振り今までなかったのに。


温室に中心に位置するベンチに座っている彼の姿を視界にとらえる。

向こうもこちらの存在に気付いたのか、手にしていた書類から目を上げ、こちらに視線を向けてくる。



「お疲れ様です。新川先生、ちょっときくんですけど、フルネームをおききしてもいいですか?」



制服姿の時はかけてなかった、メガネの奥の瞳が細められる。

そして、先生の傍らには、先ほど奪われたカーディガンがある。

先生にとっては、数年来手元においていたであろう、カーディガンが。


「ひどいな。一年生の時、副担任したんだぞ。名前くらい覚えていてくれもいいんじゃないか」

「教師の方の下のお名前まで把握してる生徒は、ほんの一握りだと思いますけど?」

「ま、そういうもんか」


先生はかけていたメガネを胸ポケットにおさめ、微笑みをさらに深くする。

メガネを外したその笑顔には、さっき別れた男子生徒の面影がある。



「どうも、新川海斗です。お前さんにとってはついさっきだろうけど、俺にとってはお久しぶりだな、栞ちゃん?」



っていうか、本人だから面影があって当然だよね。


「奪われたカーディガンを取り戻しにきました」

「おいおい。情緒のない返答だな。嘘でもいいから、俺に会いに来たとかいってくれないわけ?」


確かに、私はともかく先生にとっては何年も待ってくれたわけだ。


「お、お待たせしました?」

「そうそう。待ちましたよ。栞ちゃんがぴかぴかの一年生として、この学校に入学してから今日という日を首を長ーくして待ってましたよ」

「……一年生の頃、から」

「話に聞いてた通り、おいしい幼馴染と愉快な親友に囲まれてる栞ちゃんを見守ってましたよ」


うんうんと、新川先生が感慨深く語ってくる。


「立場上、陰からひっそり見てたけどさ、」

「なんですか」


「やっぱりお前さん、たまーに、淋しそうな顔してんなーて」


先生が立ち上がり、こちらにゆっくりと近づいてくる。


「あの時話をきいてて、そんな面白い奴らが先輩としていたら俺の情報網にひっかかてるから、記憶にないって時点でお前さんが未来の人物だっていうのは予想したんだ」

「え?」

「だから、待ち構える気はあったわけよ」


軽いことばの裏側に隠されていた思惑に目を見開く。


「えっと、本当に、なんでそこまで、」

「だってさ、淋しそうな顔が気になったし、気に入ったし、なんだかんだで忘れられなかったわけよ。それなら、俺の目の前にお前がもう一度現れてくれるのを待つしかないだろ?」


以前は手刀を受けた頭に、ぽすんと優しく手がおかれる。


「そんな淋しそうな顔、絶対に俺の隣ではさせないからさ、少し年を重ねて男に磨きがかかったお兄さんの彼女になってみない?」


以前の台詞にアレンジを加えらたことばを投げかけてくる。


「……教師と生徒という立場では色々とまずいですよね?」

「ん? ここの面接受ける時に、正々堂々約束の彼女と会うためにここの教師に志望したって校長と理事長には宣言してるから、問題なしよ? ついでに学年主任には、俺の待ち人がお前だって教えたし」


……なんですと?


「卒業するまでは、ばれないようにしなさいねって言われてるけど、付き合うなとは言われてないから」

「が、学年主任に言っちゃってるんですか?」

「うん。お前が入学してすぐに。いや、入学決まってすぐか。副担任に名乗り上げた時だわ、確か」


学年主任といえば、怒らせたらマジで恐ろしいと言われている現国のおじいちゃん先生のことですよね。

なんでかしらないけど、よく声をかけられてた気がしたのはコイツが原因か!?

声かけられる度に、私何かやらかしましたかって怯えてたんですけど?


「しっかし、市居も大胆だよな」


急に、名前呼びから切り替わって、真面目な顔をされる。


「まさか、温室の扉の鍵をかけるとは思わなかったよ。今、密室に二人きりって自覚ある?」

「え、誰かに邪魔されたらまずいかなって、鍵をしめただけ、」

「密室はまずいかなって、張り紙するだけにしといたんだよなー。俺がもしも襲い掛かったらどうすんの」


言われてはじめて、その可能性に思い当たり、一歩下がる。

が、逃げた分、距離を詰められる。

逃がさないと伸ばされた腕にびくついて、きゅっと目を閉じてしまう。


「ばーか、んなことしねえよ」


ぺしっと、今度こそ手刀をくらう。


「さすがに生徒と先生って身分では手は出さないので安心しとけ。でも、危機管理能力をもう少しあげとけと忠告はしとくな」

「……気をつけます」

「というわけで、卒業後には正々堂々と恋人として名乗りをあげるので、それまでは彼氏候補として予約を入れときたいんですけど、受け付けてもらえるかしら?」


と、手刀をかましてきた手を、目の前に差し出してくる。


「ほら、手を出しやがれ」

「え、私の意見とか、」

「ここにカーディガン取り戻しに来た時点で、お前さんの返答は決まってるだろ?」


私が差し出すよりも早く手をとられて、ぐいっと引き寄せられる。



「はい。つーかまえた」



満面の笑みを浮かべる新川先生に、つられて私も笑みを浮かべてしまう。

つかまえられたのか、自らつかまりに行ったのかよく分からないけども、こんなはじまり方もありかしらと苦笑する。



こうして、不思議なご縁で出会った彼と、私の新しい関係がはじまった。






エピローグを本日21時以降に投稿します。

その話で、完結となります。

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