幼馴染二人
本編6話。エピローグ。プラスおまけ話の構成を予定してます。
仲良しな親友いわく、
私の周りはどうも、設定的においしいらしい。
証言1。親友・春野和子。
「異性の幼馴染が一人だけいるならともかく、二人もいるとかマジでありえないって! しかも、家は両隣ですよ?!」
証言2。親友・央守明子。
「多少難はあるけど、見た目は標準をクリアーしてるし、学内でもそこそこ人気の物件。そんな二人と小学校上がる前からのお付き合いで、朝は仲良く三人でほぼ毎日登校でしょ?」
「おいしい設定だよねー」
「あの二人、めったに女子とは話をしないのにさ、栞とは普通に話すのが、また、こう…」
そこの二人。
私の話をしながらによによと笑うのは本当にやめてください。
つーか、それって誰かさんが懐かれてる年下の美少年もそんな感じでしたよね?
「「ねえねえ、そこに甘酸っぱい何かはないのかな?」」
キラキラした目で人を見つめるのは勘弁してください。
確かに私も同じ話題を明子に振った時に、似たような反応したけどさ。
私の回答は決まってるんだから。
「ないなー」
「「えー…」」
「残念そうに見ないで。めったにって、和子や明子とも普通に会話してるじゃない」
「それは用事があるからだよ」
「栞の友人だから、話してくれてるんだよ。栞という存在がなければ、彼らは私らとは進んで会話なんてしないね」
今日は特に話題がないのか、この二人、私と幼馴染二人をネタにする気満々ですね。
「私からすると明子も、和子も、十分にすごい設定だと思うよ?」
……勝ちたくないくらいに。
どう見積もっても、こいつらの人間関係には勝てる気がしないのだけど。
和子は、金髪イケメンを道で拾うわ、その人実は異世界の人間だとかいうし。
明子は、超絶ブラコンのお兄様の存在感だけでもすごかったのに、入学式の日に年下美少年を助けて思い切り懐かれてますよね?
「すごいのは、自覚してるっつーの」
そっか、自覚はしてるのか。安心したよ。
「私が言ってるのは、すごいじゃなくて、お、い、し、い、設定ってとこなのよ」
「そうそう。栞のは、おいしい設定なんだよ」
おいしいのか、あの、二人のと幼馴染な関係は。
「そうかなー?」
「「そうなんだって!!」」
「で、何の話で盛り上がってるの?」
噂をすればなんとやら、ご本人様の登場ですな。
「来たな、幼馴染その1」
「なんだよ。そのムカつく名称」
不機嫌面で佇む、幼馴染その1、浩太郎。
我が家の右隣に住んでいる。
見た目は普通だが、こいつには裏で囁かれている二つ名がある。
チケットの神様。
コンサートやイベント。どんなに高倍率の抽選チケットでも、コイツの手にかかれば必ず手配できる。
正規に申し込みをして、必ず当てるのだ。オークションなんかで、10万円くらいに跳ね上がるようなチケットをコイツは確実にとってくれるのだ。
しかも、そこそこのいい席を。
自分の名前でなく、誰かの申し込みの入力をちょっと手伝っただけで当選したとかいう話も聞く。
どんな魔法を使うのかは謎だが、コイツと幼馴染でよかったと思った回数は数えきれない。
「はい、これ」
自分でも申し込んだけども、落選したコンサートチケットを目の前に出される。
「え、嘘。とれたの?」
「俺に獲れないチケットってなかなかないよ?」
「わーい、ありがとう。ってことは浩太郎も一緒に来てくれるの?」
浩太郎名義の申し込みなので、チケットは私の分含め二枚あるのだろう。
「勿論。俺も一緒に行くし」
「でも、浩太郎の好きなアイドルちゃんのライブじゃないよ? いいの?」
そう、コイツがチケットをとる技術をあげたのは、自分の為だ。
女性アイドルグループに興味を持ち始めてから、コイツはコンサートや握手会などのファンの集いに行くようになった。
行くには、チケットがいると学習してからは、チケットを獲るという技術をあげた。
あげすぎたといっても言い過ぎではないと思う。
技術も、興味も。
浩太郎の部屋には、誰が見てもどん引いてしまうくらいのアイドルグッズがある。
今も、携帯のストラップには現在一番お気に入りのアイドルのストラップが光っている。
鞄の中にある文房具類も、見てるこっちが恥ずかしいくらいにアイドルまみれである。
「この会場、夜一人で帰すの心配だからな」
ここで、優しいと感動できないのが、長年お付き合いのある幼馴染だと思う。
「その見返りは?」
「どうしても、頭数のいる整理券配布に付き合って。コンサートと同じ日の午前中にあるから丁度いいだろ」
後ろで「「デートの誘い!!」」と、興奮してる明子と和子が少しうっとおしい。
顔は確かに標準以上だと思う、しかしアイドルオタクとしてのレベルが高すぎる。
年々バージョンアップする浩太郎の部屋に、終着点はあるのかすこぶる心配になる。
親友たちも、あの部屋を見たら、幻想も砕け散るだろう。
個人情報の漏えいなんて気にせずに、勝手に写真撮ってみせてやろうか。
早く、アイドルでなく、ちゃんとした彼女をつくれよと心から思う。
そして、今はいないもう一人の幼馴染もなかなかのオタクである。
浩太郎は、アイドル。
幼馴染その2こと志信は、アニメというか声優オタクだ。
志信は、その声優さんにハマると出演作品をほぼ網羅する。
アニメ、CD、ゲーム作品、出演作品全てを商品化されていたら集める。
過去作品で入手困難なプレミアものも、集める蒐集力なのだ。
どんなお宝も手に入れる志信を、人はトレジャーハンターと呼ぶ。
ネタではない。真実である。
そして、志信の部屋は、浩太郎よりもすさもじいものである。
はじめて某キャラの抱き枕を見た瞬間、部屋の扉を閉めたのが懐かしい思い出である。
しかも、その抱き枕のキャラの服が、なぜかビミョーに肌けていたのはつっこんだら負けだ。
救いはキャラクターグッズには、そこまでは手を出さない事、かな。
――出す時はすさまじいけどね。
「俺は帰るけど、お前はまだ残るの?」
ちらりと、親友たちに目を向ける。
何かキラキラした目でこちらを見ている二人を軽く睨み付けておく。
「残る」
このまま帰ったら、「「放課後デート!!」」とか妄想のネタにされそうだし。
帰り道が一緒なだけですからね。
「りょーかい。暗くならないうちに帰れよ。志信が飯作って待ってるからな」
「今日はバイトがないから、気合入れたの作るっていってたもんね」
「原点回帰がどーのとかって意味不明な事言ってたぞ、アイツ」
「……究極の肉じゃがを作るって息巻いてたやつじゃない?」
「なるほど。創作料理から日本食に戻ったわけか」
じゃあねと、浩太郎の背中を見送って、くるりと向きを変え親友たちに質問する。
「で、どこがおいしいって?」
「今の、やり取りがおいしかったでしょ?」
「つか、気付けよ、このおいしさに! なんで、晩飯作ってもらってんだよ!! 究極の肉じゃがって気になるんですけど」
絶対、変なフィルターがかかってると思う。
こんなやり取り日常茶飯事だし。
朝、一緒に登校したり、
入手困難なチケットや、商品手に入れたりする能力の恩恵受けたり、
晩ごはん作ってもらったり、
ん?
けっこう、おいしい……の、かな??
でも、あの二人が恋人とかは、想像できないんだよね……。
幼馴染ってだけで、満足というか、
何年も変わらない距離感を今さらどうにかしようなんて、そんな勇気を私たち3人ともが持ち得てないのが、そもそもダメなんだけどね。
ねえ、和子、明子。
恋ってどうしたら、できるんだろう?
明子が主役の「年下美少年になつかれました」、和子が主役の「イケメン拾いました」という小説もありますので、よかったらどうぞ。
今回の栞の話を含めて、それぞれ単品で楽しめる仕様です。