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青とオレンジの記憶  作者: 春山 灘
13/20

綾の元カレ【莉子視点】

インターホンを押して少し待つと、綾の部屋のドアがゆっくりと開いた。


綾の様子がどこかおかしいのは気のせいだろうか。


「……莉子?」

「やっと本格的に描く気になったから取りに来た。せっかく貰ったのに忘れて帰ってごめんね」

「……なんで、ここに……?」

「え? さっきラインしたじゃん。……って、なんかお酒くさい。もしかして飲んでた?」


そう問いかけた直後、お酒くさい綾が突然抱きついて来た。


胸元で息を荒げている綾の背中をさすりながら部屋に上がると、コタツの上とカーペットに合計4本のビール缶が転がっていた。


これはたしか、クリスマス会の時に私が買って来たもの。余ったからって綾の冷蔵庫に突っ込んでおいたのが間違いだった。


「……この量はマズいね。っていうか何かあったの? 綾がこれだけお酒飲む時ってイヤなことがあった時だよね?」


私に抱きついたまま無言で動かなくなった綾の頭を撫で、身体を支えながらコタツの横に腰を下ろす。


「話せないこと?」

「私、元カレに……」

「えっ? ……元カレ?」


急に綾の口から出た『元カレ』の言葉に、一瞬頭が真っ白になった。


綾はそれから、これまでの彼との出来事をポツポツと話し始めた。


知らない番号から電話がかかって来て、出てみたら元カレだった。

あんまり懐かしくて普通に会話してしまった。

そしたら最近就職を決めた彼に結婚前提で復縁を迫られた。

何回か電話するうちに彼が会いたいって言い出してOKしてしまった。

OKしたことを後悔して頭が爆発しそうになってお酒に逃げた。


綾の要領を得ない話を要約するとこんな感じだ。


結婚前提という言葉。

そしてお酒を飲み過ぎた綾。


状況から察するに、綾は彼からの申し出に心が揺らぎつつ、私のことを考えて悩んでいるんだろう。


降って湧いたような話に胸が痛む。

さすがの私もショックを隠せなかった。


「うーん……。正直、ツラいな」

「うん……」

「まぁ、急に連絡来たんなら仕方ないよね。でもOKしちゃったか……」

「ごめん……莉子。本当、ごめん……」

「まぁね。綾のことだから、今恋人いるってちゃんと伝えてくれたんだろうけどさ」

「伝えたよ……。伝えたけど……」


綾は今にも泣き出しそうな細い声でそう言い、私の身体をギュッと抱きしめた。


本来、交際相手がこんなことを言い出したら、怒って責め立ててもいいのかも知れない。


でも、私にはそれができなかった。

綾を自分に縛ってしまうことに引け目があるからだ。


「彼のこと、好き?」

「……好きか嫌いかで言ったら……好きだよ。久しぶりに話せて嬉しかったし……」

「う……、ホント素直だなぁ。で、綾はどうしたいの?」

「ん……莉子といたい」

「だよね」

「でも……、人の気持ちなんて、どう変わるか分かんないから……」


それまでは抑えられていた感情が急に爆発した。


それでも綾は迷いなく私を選んでくれると信じてたから、綾の口からこんな言葉が出たことが信じられなかった。


「ねぇ、私のこと好きなんだよね? やめてよ綾、そんな冗談……」

「莉子が好きだよ……。でも……」

「でも、なに?」

「……不安なんだよ。まだ付き合ってすぐだから、どうなるか分かんないって……」

「そう言われたの?」

「うん……」


綾はたぶん、口には出さないけど迷ってる。

私たちは男女関係と違っていろいろ制限がある。


もちろん綾自身もそうだけど、私だっていつ結婚を望むことになるかなんて分からない。


たぶん綾はそれが不安なんだろう。

男女でも心変わりなんていくらでもあるんだから、私たちみたいな不安定な関係なら尚更だ。


「そっか……。元カレも綾のことよく分かってるね。悔しいけど」

「ん……?」

「綾って純粋だからさ、すぐ相手の言葉に影響されちゃうでしょ?」

「そう……かな?」


もちろんそれだけじゃないんだろう。

綾がここまで悩むのは、彼への純粋な想いも少なからずあるからだ。


「彼のことも少しは好きなんだよね?」

「……うん」

「そっか。分かった」

「でも莉子が好きなんだよ、私は……」

「それとさ、私もバカじゃないから分かってるよ。体裁大事だからね。真面目な綾がそういうこと考えない訳ないもん。分かってたよ……」


急に涙が溢れ出して止まらなくなった。


綾の心が揺れているのは明白だ。

それは正直ショックだし、今さら連絡してきた元カレを憎いと思ってしまう。


だけど、本心を隠したまま私と付き合い続けて欲しかった訳じゃない。


綾の幸せは綾が決めることだ。

一生を添い遂げるには障害の多い私を選ぶよりも、将来を約束された彼を選んだ方が余計な苦労を背負わずに済む。


その程度のことはちゃんと考えてた。

考えた上で、私は綾のそばにいるつもりでいた。


だからって、同じことを綾に求める権利なんて私にはない。


「……まぁ、事情は分かったよ。今話しても覚えてるか分かんないけど、よく考えてから答え出して。それまでしばらく距離置こう」

「え……? 莉子……!?」

「いや、違うって。綾が納得するまで考えて欲しいの。後でライン送っとくから、酔いが冷めたらちゃんと読んで」



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