1-9 夜更かしの影響と親友の恋路
「はぁ……。それで朝になるまで調べてたから寝不足ってこと?」
「はい……。まぁ簡単に言うとそんな感じです……」
昼休み。
俺は天乃に怒られていた。いや、正確には呆れられていた。
彼女に目の前で呆れられるというのはなかなかにくるものがあるな。
「私昨日言ったよね?そんなに張り切らなくていいよって」
「はい、そう言ってました」
「朝、東條君の顔を見たときは本当にビックリしたんだからね!」
「ホント申し訳ないです……」
俺だってそんなに意気込んで調べていたつもりはないのだ。
オススメの場所などを調べていたら、自分の知らない場所なんかが沢山あって面白くなってつい時間が経つのを忘れてしまったのだ。
「今日はちゃんと早く寝ること!わかった?」
「はい……。今日は早くに寝ます……」
なんだろう。
母親に怒られているような気分だ…。
「それで、どこか良さそうな場所はあったの?」
天乃が訪ねてくるが正直昨日はどんなところがいいのかで悩みすぎて全くデートプランなど考えられなかった。
「それがこれっていうのが考えつかなかったんだ。だから簡単なプランをいくつか考えてその中から天乃に選んでもらおうと思ったんだ」
「そのプランっていうのはこれから考えるの?」
「今日帰ってから考えようと思ってる」
「わかった。ただし、調べるのに夢中になり過ぎないこと!いいね?」
念を押して気をつけるように言われてしまった。
こればかりは昨夜の俺の行動がいけなかったので粛々と受け止めるしかない。
昼休みも終わり午後の授業が始まる。
五時限目の授業は数学だ。
俺は思いっきり文系タイプなので数学の授業は訳がわからない。
おまけに今日の寝不足も合わさって、まともに教師の言っていることが頭に入ってこない。
ノートには既に大量のミミズが発生している。
何とか耐えなければと思っていたのだが気がついた時には既に授業は終わっていた。
「随分と気持ちよさそうに寝てたな」
「ホント気がついたら授業が終わってるなんて思いもしなかったよ……」
「五限目だけならまだわかるけどそのまま六限目終わるまで寝続けるとはな」
藤ヶ谷が揶揄うような笑顔で俺に話しかけてくる。
そう、あのまま俺は五時限目の数学の授業だけでなく、その後の六時限目の授業でも寝てしまっていたのだ。
それも五時限目の数学からそのまま寝続けていたのだ。
起きた時には周囲の状況を理解するのに時間がかかってしまった。
まさか休み時間になっている事にすら気づかずに寝続けるとは我ながらに未だに信じられない。
「夜更かしするからだよ?ちゃんと寝ないとまた今日みたいになっちゃうからね」
「天乃さんの言う通りだな。俺もあんま夜更かしとかしないように気をつけなきゃな」
そして俺は本日二度目の天乃に怒られるという彼氏としてあまり褒められたものではないイベントを経験していた。
「これからは気をつけるよ」
「約束だからね?」
なんだか自分が小さな子供のように感じてしまう……。
その時、教室のドアが勢いよく開いた。
「あっ!健斗兄ぃここに居た!」
「凪沙⁉︎どうしたんだよ、教室まで来るなんて?」
教室に入ってきたのは俺らの一つ歳下で藤ヶ谷の幼馴染である如月凪沙だった。
「あの子、藤ヶ谷君の彼女さん?」
如月さんの事を知らない天乃が俺に尋ねてくる。
確かに何も知らない人が見たら彼氏彼女の関係に見えるよな。
「あの子は藤ヶ谷の幼馴染で如月さんって子だよ。ちなみに俺らと同じ学校の一年生なんだよ」
「そうだったんだ。私はてっきり藤ヶ谷君の彼女さんかと思ったよ」
天乃の言葉に二人が付き合う日もそう遠くないのかもなと思った。
朝、藤ヶ谷から聞いた話では如月さんは藤ヶ谷の事好きっぽいしデートに誘ったりとアピールしているっぽいからな。
「それで凪沙、わざわざ教室まで来て何の用だったんだよ?」
「別に?特に用なんてないよ。久々に一緒に帰りたいなって思っただけ」
別に何でもないことのように如月さんが答える。
「はぁ?そんな理由でわざわざ教室まで来たのかよ……。てか何でお前と帰らなきゃいけないんだよ?」
藤ヶ谷は彼女からのアピールに全く気づいてなさそうだな。
藤ヶ谷の答えを聞いた如月さんの顔が一瞬で恐ろしいものになる。
「理由なんて別になくてもいいじゃん!
一緒に帰りたいって思ったんだもん。てか健斗兄ぃに拒否権とかないから!」
すごいグイグイとアピールしてくるな。
ただそれでも気がつかない藤ヶ谷にはこれでも足りないくらいなのだろう。
「じゃあ藤ヶ谷、俺らはもう帰るから。
ちゃんと如月さんのこと送っていってやれよ」
「なんだよ、もう帰るのかよ?」
さりげなく藤ヶ谷と二人きりで帰れるようにしてアシストする。
如月さんの方を見ると藤ヶ谷の後ろの方で手を合わせて感謝の意を送ってくる。
やはり彼女の想いは藤ヶ谷に向いているようだ。
「今日も帰ってやることがあるからな。今日は夜更かしもできないし。天乃、帰ろうか」
「うん。じゃあ藤ヶ谷君、また明日ね」
俺と如月さんのやりとりを見ていた天乃も俺たちの意図を察して話を合わせてくれる。
こうして俺は帰宅したのだが帰ってから複数のデートプランを考えるのに苦労するのだった。