1-5 家での過ごし方
その後も天乃と二人で色々な店を見てまわり時刻は19時頃を示していた。
「そろそろ帰るか」
「そうだね。明日も授業あるしね」
そろそろ帰宅しようという俺の提案に天乃も頷く。
今日は天乃との距離がこれまでよりグッと縮まったような気がする。
俺自身、後半は天乃と二人で色々な店をまわるのを楽しんでいた。
今朝の憂鬱さからは考えられないことである。
天乃と真剣に向き合うと決めてから俺自身、考え方が前向きになっているのかもしれない。
「そういえば、天乃の家ってどっちの方向なんだ?」
「私はここからだと笹森市方向だけど歩いて20分くらいのところだからすぐなんだ」
笹森市は俺の住んでいる町の隣の市だ。
俺は家からの近さで高校を選んだので必然的に学校も俺の住んでいる町と同じ町だ。
「歩いて20分はそこそこ遠いんじゃねえか?日も長くなり始めてるとはいえ薄暗くはなってきてるしなんなら家まで送るぞ?」
今は5月だ。これからだんだんと気温も高くなり日が沈むのも遅くなってくるだろう。
それでも既に外は薄暗くなり始めている。
こんな時間に女子高生が、それも超のつく可愛い女の子が歩くのは危険だろう。
俺は別に多少家に帰るのが遅くなったところで構わないし天乃を家まで送ろうとした。
「ううん。人通りも多い道を通って帰るから大丈夫だよ。今日は付き合ってくれてありがとね!また今度二人でどこか遊びに行こうね!」
送ろうとしたのだが断られてしまった。
大丈夫だという天乃はどこか焦るような表情をしていた気がしたが気のせいだろう。
先程までとはうって変わって足早に帰ろうとする天乃に俺は大した疑問を持つこともなかったのだった。
「あま、天乃が大丈夫ってんならいいけど。じゃあ明日また学校でな!」
俺はそう言って天乃の後ろ姿を見送る。
「さて、俺も家に帰るかな」
「ただいま〜」
「お帰り、今日はどこかで遊んできたの?」
俺が家へ入ると母親が帰りが遅くなった理由を聞いてくる。
まぁ遅くなったといっても高校生ならこのくらいの時間に帰ってくるのは遅いとは言わないのかもしれないが……。
普段、帰宅部の俺は授業が終われば基本的にすぐに家に帰る。
だが、今日のようにたまにではあるが藤ヶ谷たちと遊びに行くこともある。
だから、母親も俺の帰りが遅い時点で遊びに行っているものだと考えたのだろう。
「ああ、放課後に誘われてな」
「このくらいの時間に帰るなら別に構わないけどもうちょっと遅くなる場合はちゃんと連絡しないよ?」
誰に誘われたのかと聞いてこないあたり今日も藤ヶ谷たち男友達と遊びに行ったと思われているようだ。
実際には学校一の美少女と言われる彼女とデートしていたわけだが言ったところで信じはしないだろう。
「わかってるよ。今日はもともとそんな遅くなるつもりもなかったから連絡しなかったんだ」
「分かってるならいいんだけどね」
遅くなるなら連絡しろというのは遊びに行く度に言われている。
それこそ耳にタコができるほどに聞いた。
まぁ実際、連絡なく帰りが遅くなれば親としては心配なのだろう。
他にも飯の用意をどうするかなどの問題についてもありそうだが。
「お風呂沸いてるから先に入っちゃいなさい。もうじきお父さんも帰ってくるだろうからさっさとね」
「はいよー」
とりあえず自分の部屋に行って荷物を置き制服を着替える。
父親が帰ってくると先に父親が風呂に入ってしまうだろうから急いで風呂の支度をして入る。
俺が風呂から出ると既に父親が帰ってきていてリビングで寛いでいた。
「父さん、帰ってたんだ。おかえり」
「おう巽、ただいま。風呂はもう入っていいのか?」
「ああ、待たせて悪かったな」
一言、二言の会話をして父親は風呂の方へ行ってしまう。
実際俺が一日の中で父親と会話する回数はそんなに多くない。
別に毛嫌いしているとかではなく単純に話す機会が少ないのだ。
朝の忙しい時間にゆっくりと話をする時間などないし、帰ってきても俺は先に飯を食って自分の部屋にいることが多い。
だからといって父親との仲が悪いかと聞かれれば答えは否である。
というよりも高校生の男子なら普通親との距離感などこんなものだろうと思っている。
この歳にもなって親にべったりなのはちょっと違う気がする…。
「今日の飯はなに?」
「今日はスーパーで鶏肉が安かったから唐揚げにしたわ」
「唐揚げかー、美味そうだな。
いただきまーす!」
俺くらいの歳の男子高校生なら唐揚げは基本的に好きだ。
故に今日の晩飯は当たりだ。
まあ作ってもらっていて何を偉そうな言われそうだがそう思ってしまうのは仕方がないだろう。
「ごちそうさま!」
夕飯を食べ終えた俺は真っ先に自分の部屋へ直行する。
別に自分の部屋で何かをするわけではない。
だが自分だけの空間で何をするでもなく自由気ままに過ごすのが俺は好きだ。
基本的にはスマホで動画サイトを見たりしているが。
今日はスマホを弄るわけでもなくただベッドの上でボーッと考え事をしていた。
「今日俺、天乃とデート……したんだよな」
あれをデートと呼んでいいものなのかは疑問がつくが周りの連中から見ればデートと呼べるだろう。
ほんの数日前までは考えもしなかった出来事が立て続けに起きて自分自身どこか夢のような感覚である。
しかし今流れている時間は紛れもなく現実である。
そんなどうでもいいような事を考えたりもしながら、今日一日を振り返り夜は更けていくのだった。
今回は家族との仲をテーマに書きました。
天乃との絡みが少ないのはすいません…。