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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

桃太郎、最後の戦い

 「……思えば長い道のりだった」


 揺れる波間に見えるのは切り立った岩で囲まれた島、鬼の啼く島カサンドラ。



 目的の島を目の前に、俺は首にかかったドッグタグを握りしめる。


 握りしめたドッグタグの数は4つ。


 死線をくぐった三人の友はもういない……


 「……旦那、もうすぐ着きやすよ」



 船頭が櫂を繰りながら、短かった船旅の終わりを伝える。


 俺は咥えていた煙草を摘むと、海に投げ捨てた。


 ジュッ


 音を立て水面に消える赤い灯火。


 それを確認すると、背負った鞘から、得物を抜き出す。


 野太刀。


 俺の愛刀だ。


 刀身の長さだけで4尺ほどのある。


 銘はない。


 どうせ斬り続けたら脂に塗れて使い物にならなくなる。


 ……俺と一緒だな。


 苦笑いをした瞬間、足が震えだす。


 おさまれ!


 俺は足を殴る。


 おさまれ!


 カチカチカチカチ


 今度は奥歯が鳴り出した。


 なぜだ!


 さっきまでは大丈夫だったじゃないか!


 くそっ


 くそっ


 「旦那……」


 船頭が俺を心配する声が聞こえる。


 おさまれ!


 おさまれ!


 俺の体だろうが、言うことを聞けよ!


 別に怖がることはないんだ。


 そう。怖くない。


 怖くない。怖くない。怖くない。怖くない。


 俺は必死に自分に言い聞かせる。


 ……必死に嘘を。






 ◇ ◇ ◇


 「はあーい。始まりました。第4回ちきちきツイスターゲーム」


 ムチムチボディの鬼娘がトラ模様のビキニを身に着け、派手に登場した。

 くりくりした大きな瞳のミディアムヘア。とっても美人だ。


 ムチムチが宣言すると、会場からは黄色い声が飛び交う。


 「イヌ君もサル君もキジ君もあっという間に負けてしまいました」


 Boo! Boo!


 「だけーど、こ・ん・どはそうは逝かないぞぉ!」


 hurray! hurray!


 「今度の挑戦者は鬼退治のエキスパート……桃太郎!」


 Boo! Boo!


 「勝ったら一億円と仲間の解放。負けたら、ウィグル獄長の男になってもらいまーす」


 一際大きな歓声があがる。


 「ひいっ」


 思わず、引きつった声を発してしまう。


 いかん。だめだ。会場の雰囲気に飲まれている。



 俺が始まる前から負けそうになっていたとき、


 主賓席の奥から、


 やつが現れた。



 金色の髪をたなびかせ、豪華絢爛な衣装を纏い、筋肉ムキムキの体で、堀の深い顔をした悪魔が!


 不細工だ。誰がどう見ても不細工だ。というか、性別は本当に女か? なんで世紀末覇者のような顔をしている。



 「なおー。イヌ君もサル君もキジ君も今では獄長のお・と・こ・でーす」


 群衆の叫び声がこだまする。

 もはや黄色と例えてよいのかも定かでない。


 あまりの騒音に俺は耳を塞ぐ。


 うるさい。


 音に耐えていると、ふと、やつの右手に握られたものが視界に入る。


 鎖だ。


 握られた鎖の先は、やつが出てきた方へと続いている。


 視線をその先に向ける。



 「犬千代! 猿田彦! 神戸雉男!」


 鎖の先は三人の友人の首輪につながっていた。


 三人は全裸で死んだ魚のような目をしている。


 なんてことだ。


 よほど辛い目にあったのだろう。


 できれば俺が代わって……いや。その考えは建設的ではない。俺が無事であることが彼らを助けられる一途の望みであると考えよう。


 俺は平常心を取り戻す。


 三人は俺と目が合うと、その双眸から涙を溢れさせた。





 ◇ ◇ ◇


 「難易度セレクトー」


 再び会場から歓声が響き渡る。


 「難易度はEasy、Normal、Hardの3種類だよー。な・ん・と、どの難易度でも賞金は同じでーす」


 「まずはEasy」


 ドスドスドス……


 オークだ。オークのオスが現れた。


 何故か、やつの一物は天を仰ぎ見ていた。


 「まずは男なのに男が大好きなキャシーちゃんでーす。勝負中に男の子をある意味食べちゃうので負けちゃう確率がとっても高いのー」


 紹介の後、観客から罵声を浴びせられるオーク。


 豚は俺を見て嬉しそうに涎を垂らした。


 だめだ。やつはダメだ。


 

 「そしてNormal」


 ドスドスドス……


 ミノタウロスだ。ミノタウロスのオスが現れた。


 やつの一物はオークより二回りは大きく、天高くそびえていた。


 「同じく男なのに男が大好きなナンシーちゃんでーす。勝負中に男の子に発情しちゃうことがたまにありまーす」


 同じかよ! 


 天丼かよ!


 EasyとNormalの違いは反則負けの確率だけかよ!


 てか、門の被害はこっちのほうがEasyより大きくなるだろ!



 「最後にHard」


 ムチムチがそう言うと、会場は静かになった。


 カツカツカツ……


 入り口から軽快な足音が聞こえる。


 やがて、その姿を捉えることができた。


 長身美麗……その美しさに俺は目を奪われる。


 「皆さんご存知、無敗の女王レベッカちゃんでーす」 


 ノイズは俺の耳には入らない。


 客もムチムチも目に入らない。


 ただ、真っ白な世界に彼女だけが俺の瞳の中にいた。


 俺と目が合うと、彼女はニッコリと微笑む。


 「……美しい」


 「さてさて、チャレンジャーはどの難易度を選ぶかなー」


 ムチムチは嬉しそうに、俺を指差した。


 冷静に。


 冷静になるんだ。


 俺は己に言い聞かす。




 ◇ ◇ ◇


 「桃太郎君の右手は……赤!」


 俺は赤を探す。


 彼女の胸の近くと彼女から離れた位置の二箇所を発見した。


 俺は迷わず正解を選択する。


 ぷにゅん


 「あん」


 甘い声がする。


 俺は一層厳しい姿勢を維持することとなる。


 だが、悔いはない。


 そう。俺が選んだのはHardだった。


 厳しい戦いが予想された。


 勝てば良い。


 勝てば良いんだ。


 「レベッカちゃんの……左手は……黄色!」


 彼女は俺から遠ざかってしまう。


 ああ。


 なぜ、運命は俺たちを引き離すのか……


 「桃太郎君の右足は……黄色だね!」


 俺は即、彼女の左手を追う。


 彼女は俺の足の甲を優しく撫でてくれた。


 おおう。


 とれびあん(意味不明)


 ……くっ


 足が攣りそうだ。


 物事は万事、トレードオフ。


 俺はより厳しい姿勢になる。


 しかし、後悔はしていない。


 「次は、レベッカちゃんの右足が……」


 ……彼女の吐息が俺の肩にかかる。


 おうふ


 ……彼女の張りのある大腿部に触れる。


 おうふ


 ……彼女は甘く、柔らかく、温かく、とても最高の一時だった。

 

 ああ。俺は今満ち足りている……



 ◇ ◇ ◇


 「んーんーんー」


 薄暗く桃色の明かりの調整された部屋。無機質な天井はそこから突き出た鉄骨と相まって冷たく動じない印象を与える。


 俺は手足を縛られ、猿ぐつわをされ、金属でできた椅子に固定されている。


 右腕の前腕部には注射器の針の痕が多数ついてた。そして、その数は俺が理性を失い尊厳を踏みにじられた数でもある。


 いやだ。


 いやだ。


 もう嫌なんだ。


 なんで、俺はあのときにEasyを選ばなかったんだ。


 なんで。


 なんで。


 表情の見えない天井とは異なり、桃色一色で塗りつぶされた壁。


 グラップラーの父のような悪魔は大きめの回転ベッドでいびきをかいていた。


 友人だったものたちは部屋の隅にかたまり、心を閉じこめ、光の灯らない瞳で天井を仰ぎ見ている。


 俺もああなるのだろうか。


 人形のようになった彼らの姿を初めて見たときは、悲しみ、憐れみ、そして、憤りを感じた。


 今は、彼らのようになりたいと思っている。


 もう嫌なんだ……


 もう嫌なんだ……



 BAD END



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― 新着の感想 ―
[良い点] 久しぶりにツイスターゲームの名前を聞きました。 うん、アナログなゲームって良いですよね。そろそろ忘年会シーズンですし!(関係ない) [一言] 何ということでしょう、桃太郎がこんなにR指定な…
[良い点] やってくださった件。 ありがとうございます! [気になる点] 文字数を! 是非に! (*゜∀゜)=3 [一言] 突っ込みどころしかない(笑) ブクマ、ポイントを神棚に捧げました。 つ…
[良い点] 絶対に子供に見せたくない童話だと思いました(誉め言葉) [気になる点] な、何をされたんでしょうね、桃太郎一行は 童話祭に提出出来てないようですよ? [一言] 絶対に子供に見せたくない童…
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