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★85話―悪者会議

 

 ここは町の中心地から外れた裏通り。その中でも特に治安の悪い場所と思われる。いかにもならず者と言った風体の人間が目につく。

 

 時折、ゴロツキと目が合うが、声をかけてくる者はいなかった。私が“スケアクロウ”だと知っているようだ。何かを探るような、じっとりとした視線を感じる。

 

 目的の場所に到着する。さびれた通りの一角を占める、それなりに大きな家屋だった。古びてやや荒んだ外観は周囲の町並みになじんでいるが、良く見れば整然と管理されていることがわかる。入り口には見張りの男がいたが、二三確認の言葉を交わしただけで素通りできた。

 

 さて、ここはとある裏組織の拠点である。私を雇い、ダークエルフの捕獲を命じた依頼主がここにいる。その報告のためにやって来た。

 

 正直、気のりはしない。事態は依頼主の意思に反して動いてしまった。私に出来る限りのことはしたつもりだが、それで納得してもらえるような人間には見えなかった。今まで報告をほっぽって、冒険者協会で講師を引き受けたのもその億劫な気持ちの表れだったのかもしれない。

 

 屋敷の奥の部屋へと通された。幾人かの気配がする。壁際に立っているのは、この組織の配下の者たちだろう。それよりも目を引くのは、中央のソファーに陣取った三人の人物だ。

 

 「遅いぞ、スケアクロウ。今まで何をしていた」

 

 ソファーに深く腰掛け、脚を組んだ男が最初に口を開く。イラついた態度を隠そうともしない。この男は組織の長、ビファン。依頼主である。鋭い目線と、オールバックにして固めた髪型が威圧的だ。顔にはいくつかの古傷があり、いかにも後ろ暗い金持ちといった服装をしている。どうみてもカタギには見えない。

 

 「まあそうカリカリすんな。依頼について色々と報告することもあるし、アタシの方も確認したいことがある。とりあえず、座るぜ?」

 

 私は空いている席に座った。ちょうど隣に一人、先客が座っていた。見た目は少女である。美しい容姿をしているが、いかんせんビファンの女と言うには少し幼すぎる。青色のミディアムヘアー、瞳も青色だった。服装はブレザーにスカート、魔法学園の制服っぽいが似ているだけかもしれない。

 

 「もぐもぐ」

 

 それだけでも場違いな見た目だが、加えてなぜか食事をしている。串焼きを食べている。手元の串焼きを完食したかと思いきや、脇に置いていた棺桶らしき箱から新たな串焼きを取り出してまた食べ始める。

 

 裏組織の会談場で平然と飲食を続ける少女。何者なんだ、こいつは。まあ、ビファンが何も言わないということは何らかの関係者なのだろう。余計な詮索はしないでおく。

 

 「さっさと報告をしろ」

 

 これ以上ビファンを放置しているとさすがにマジギレしそうなので、素直にこれまでの経緯を説明する。

 

 「……つまり、例のダークエルフ捕獲は失敗。騒動を起こしたダークエルフは領主軍によって鎮圧され、その後の消息は不明と」

 

 「ああ、処刑されたって発表されたし、もう死んだんじゃねえの?」

 

 ただし、馬鹿正直に全て真実を話すことはなかった。悪に加担する身なれど、できる限りあいつらに危害が及ばないようにしたい気持ちはある。

 

 しかし、私の報告を聞いたビファンはくつくつと笑い始めた。てっきり怒りだすのかと思ったが、怒りすぎて頭がおかしくなったか。

 

 「馬鹿め。俺が何の情報もつかんでいないと思ったのか? ダークエルフが死んでいないとうことくらい知っている。ゴーダという女の奴隷となったこともな」

 

 どうやら、領主の館にビファンの手下が潜入していたようだ。全て知った上で私に報告させたのか。意地の悪いことを。

 

 「依頼主である俺に嘘をつくとは、これはいったいどういう了見だ?」

 

 「死んだってことにすりゃあんたも諦めがつくだろうと思ったのさ。そもそもあの化け物を生かして捕まえてこいって話の方に無理があるだろ」

 

 「はっ、なんという体たらく。それが聞きしに名高い『七魔剣』の言うことか? どうやら俺はお前に期待しすぎていたらしい」

 

 随分と好き放題に言ってくれる。こいつは私に喧嘩でも売るつもりなのか。

 

 もとから怪しい依頼ではあった。ターゲットである奴隷がダークエルフであることも、あれほどの厄介な能力を持っていることも何ら事前説明されていない。わざわざ私を指名してくるということはそれなりに強い敵であることを想定してはいたが、実物はその予想の遥か上だった。先に不誠実を働いたのは向こうの方だ。

 

 そんなひっかかるところもあったが、報酬はそれに見合うものだった。それに簡単に足蹴にできない理由もあった。私は裏稼業の人間とつながりを持っている。奴らの情報網の有用性は侮れない。そういった恩恵にあやかる半面、どうしても引き受けざるを得ない依頼というものもある。今回の一件も、断りにくい伝手から届いた依頼だった。

 

 しかし、だ。だからと言って、私が下手に出る必要はない。どうもビファンは私をただの何でも屋のように見ている節がある。金を払えば何でも言うことを聞くとでも?

 

 「依頼を達成できなかった以上、これ以上お前に払う報酬はない。当然、前金も返してもらうぞ。まったく、少なくない出費だったというのに、使えん奴だ」

 

 どうやら本気で喧嘩を売る気らしい。私がここで暴れれば多少の伝手を失うことになるだろうが、許容できないほどの損失ではない。いやむしろ、ここでおとなしく退き下がるようでは沽券にかかわる。『七魔剣』の実力は期待はずれだったらしいが、それでも裏組織一つ潰す程度なら何の痛痒もなく処理できるだろう。

 

 じゃあ、殺すか――

 

 「まままま! おふたりさん、そう熱くならんと! 短気は損気、ここで喧嘩しても一文の得にもなりまへんで!」

 

 私が腰を浮かしかけたそのときを狙ったかのように声が割って入って来た。仲裁してきたのは怪しげな商人風の男である。この部屋に入ってきたときに見かけた三人の人物が、ビファン、青髪の少女、そしてこの商人だ。

 

 見るからにうさんくさい風体をしている。頭にターバンを巻き、中東系商人風の衣服を着ていた。街頭の露店でガラクタを売りつけてきそうな安っぽい身なりである。

 

 「お初にお目にかかります。ワシはしがない商人をやっとります、タバーンと言います。スケアクロウの姐さんのお噂はかねがね聞き及んでおりますでぇ」

 

 「ただの商人がなぜこんな場所にいる?」

 

 「実は! 今回のダークエルフ捕獲作戦に、ワシも一枚かませてもらおうと思うとりますのや」

 

 「こいつは使える男だぞ。依頼一つこなせないどこぞの冒険者よりは、よほどな」

 

 「ビファンはん! そないなトゲトゲしい言い方はあきまへんで! ワシらは同じ目標を目指す同志! 仲ようせなあきまへん。信頼関係が一番大事なんでっせ! ねっ! ねっ!」

 

 そのひょうきんな喋り方に気概がそがれてしまった。いったいビファンたちは何を企んでいるのか、一応確認しておこう。

 

 「まだ作戦は完全に失敗したわけじゃありまへん。ダークエルフは、ゴーダという女と一緒にこの町にとどまっとりますのやから」

 

 「まったく忌々しい女だ。奴が持ち込んだ秘薬のせいで病床に伏していたキーグロが復活したというではないか。ザコッカスとの間に築いてきたパイプが全ておじゃんだ。いったいどれだけの金をかけてきたと思っている……絶対に許せん!」

 

 「ワシもまさかあのトマトガンギマリお嬢ちゃんがこんなことをしでかすとは、思いもよりませんでしたわ……いやー、人の縁っちゅうのは恐ろしいもんですわ」

 

 「奴は何らかの手段を用いてダークエルフを手なづけていると思われる。そうでなければ、あの猛獣を町中でおとなしくさせていられるわけがない。なんとしてでもゴーダという女を捕え、その懐柔方法を聞き出すのだ」

 

 ゴーダは別にノワールを特別な方法で従わせているわけではない。強いていれば、人情のようなものでかろうじてつなぎとめているにすぎない。

 

 「……そんな不確定な計画で本当に大丈夫なのかよ? そのゴーダとか言う奴の懐柔法が再現できなかったらどうする気だ? 結局、ダークエルフと戦わずにどうにかするなんてできるとは思えないが」

 

 「心配はいりまへん! そんときのこともちゃーんと考えてまっせ。ワシが開発したこの魔装具『無力化首輪くん』を使えば、ダークエルフだろうと何だろうと動きを封じられまっせ!」

 

 タバーンは金属製の首輪を取り出して意気揚々と自慢している。そんな首輪一つであのノワールを封じられるとはとても思えない。

 

 はっきり言って、この捕獲作戦が成功する見込みはほぼゼロと言っていいだろう。こいつらが取れる最善手は、ノワールのことは諦めてとっとと逃げのびることだけだ。

 

 ノワールはおそらく、ビファンたちに相当な恨みを持っている。見つかれば殺されるのはビファンの方だ。それに今のノワールには、ゴーダとアルターという味方がいる。ゴーダの戦闘力は未知数だが、アルターが戦陣に加わればそれだけでビファンの負けは必至。私が今ここでビファンを殺すまでもなく、もはやこの組織に未来はない。

 

 いいことを思いついた。私もノワールたちに協力してやろう。その方が面白そうだ。結局、私がここでビファンを殺すか、ノワールが殺すかの違いでしかない。これでビファンはより絶望的な状況へと近づいたと言える。

 

 「要はこの首輪さえ取り付けることができればワシらの勝ちなんですわ。ダークエルフと正面からぶつかって打ち倒す必要はありまへん。少しの間、ほんの数秒、身動きを止めるだけでええんです。スケアクロウはんの実力なら、そのくらいのことはできまっしゃろ?」

 

 「お前に挽回のチャンスをやろう。ダークエルフをおびき出せ。そして取り押さえろ。その隙に俺の配下がこの首輪を取り付ける。この作戦が成功すれば予定通りの報酬を払うと約束しよう。いや、それ以上の色をつけてやってもいい。いいか、今度こそ必ず成功させろ」

 

 「オーケィ、ボス」

 

 表面上は協力しているフリを続けておこう。さて、じゃあノワールたちに作戦内容をバラしに行こうかな。

 


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