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79話

 

 ひとまず俺とアルターさんの協議が終わる。アルターさんの勧め通り、俺とノワールで町を散策することに決まった。ついでに旅に必要な品の買い物も俺たちでやっておくことになった。

 

 「それではノワールさん、ゴーダさんを頼みます」

 

 「そんなことを頼まれる筋合いはないぞ、ニンゲン」

 

 あれ? ちょっと、アルターさん間違えてますよ。そこは俺にノワールのお世話を任せるところでは。

 

 「ゴーダさんが食べ物の誘惑に釣られそうになったときは引き留めてあげてください」

 

 くっ……反論できない。頼りなくてごめんね!

 

 「私としてはノワールさんよりゴーダさんの方が心配です。怪しい中年男性がお菓子をちらつかせながら近づいてきて『ハアハア……お嬢ちゃん、これあげるからおじさんと気持ちいいことしようねっ! おじさんのチョコスティックをたくさん食べさせてあげるからねっ!』と言われても、ついて行ってはいけませんよ」

 

 「ノワールの教育に悪いのでもうちょっと言葉を選んでくれませんかね……」

 

 再三、ノワールに俺の扱いを言い含めて、アルターさんは去って行った。俺たち二人は通りの前に残される。会話がなくてちょっと気まずい。

 

 ギュロボーッ!

 

 「……なんだ、今の音は?」

 

 いけない、俺のドラ腹時計が鳴ってしまった。だが、これも仕方がない。なにせ今は正午を過ぎたあたりだ。お昼時である。せっかくだからアルターさんと別れる前に、一緒にご飯でも食べておけばよかった。

 

 「なんか食べに行こうか」

 

 アルターさんにもお金を渡しているので好きに食べてくれるだろう。あ、そう言えばアルターさんは飲食しなくてもいいんだっけ。これも血結技なのだろうか。

 

 俺たちは食べ物屋さんを探して歩く。飲食店を押さえることはデートの基本と言えるだろう。女子とデートしたことなんかないけど。と言うか、ノワールはまだ子どもだし、女子というか妹みたいな感覚だ。俺、弟しかいなかったけど。

 

 そもそもノワールの性別は女の子、で合っているのだろうか。アルターさんが女子扱いしているからたぶん女子なんだと思うが。ローブ脱いだら真っ黒影人間なんだから、俄然女子とデートという感じはしない。この子を性の対象として見ているアルターさんに戦慄する。俺が守ってやらねば。

 

 まあ、深く考える必要もないか。昼飯を食べる店を探すことに集中しよう。ノワールはおとなしく俺の後をついてきてくれる。

 

 ちょっと歩けば店屋自体は目につくのだが、どうにも垢ぬけない雰囲気の店ばかりだ。お金には余裕があるし、高級店とまでは言わないまでも、せめてあと一ランクくらい上の店が見つからないものだろうか。

 

 「……お前は私をどうするつもりなんだ?」

 

 唐突に、ノワールが尋ねてきた。どうするも何も質問の意味がわからない。

 

 「あっ、そう言えば説明してなかったっけ。今から俺と買い物とかして町を見て回るから。とりあえず、何か適当な飯屋を探してそこに行って、それから……」

 

 「そうではない! ノワールという奴隷をこれからどうする気だと聞いている!」

 

 それこそ何度も説明したことだと思うが。冒険者チームとして一緒に旅をするのである。もっと細かい待遇などについて話し合いたいということだろうか。

 

 「嘘をつくな。知っているぞ、ニンゲンは奴隷を使って金を稼ぐのだろう。偽善者面をしてノワールを懐柔しようとしているようだが、その手には乗らん。望みは何だ? ノワールの力か? それとも……身を売らせる気か?」

 

 「身を売るって……意味わかって言ってる? 君みたいな子どもを性的な目で見る奴がいるわけ……あっ」

 

 俺の脳裏に一人のヘンタイが思い浮かぶ。いたわ。すぐ近くにいたわ。

 

 「……やはりそうか。ノワールを奴隷にしたニンゲンも言っていた。こいつは上玉だ、性奴隷として売り飛ばすか、とな」

 

 「マジで!?」

 

 異世界人の性癖アブノーマルすぎるだろ。いや、肌の色で差別するのは良くないと思うけど、それ以前に少女として判断できる要素が声と体の輪郭しかないんですが……

 

 「いやいやいや、そうじゃなくて! ホントに奴隷扱いする気なんてないから!」

 

 「嘘をつけ! ニンゲンの言うことなど信じん!」

 

 そもそも俺は奴隷になれだなんて一言も言っていない。勝手にそっちから奴隷になっておいて逆ギレするなんて何を考えているのかさっぱりわからない。そんなに俺に奴隷扱いされたいのか。実はこいつドMなのか。

 

 ……待て、俺は大変なことに気づいてしまった。俺が今まで出会ってきた異世界人たちの人格から考慮するに、この『ノワールドM説』、完全に否定することができない……! ちょっとありえるかも、と考えてしまう自分がいるぞ!

 

 でもまあ、その可能性は無きにしも非ずだが、単に疑心暗鬼になっているだけだと思う。アルターさんは俺ならノワール攻略もできると期待しているようだが、この警戒心を解くのはかなり難しいだろう。少なくとも今日明日でどうにかできる心の壁ではあるまい。

 

 「じゃあ、ご主人様として命令します」

 

 「っ!」

 

 ノワールがビクリと身構えた。頼むから逆ギレして殴りかかってくるとか止めてよ。

 

 「手を出してください」

 

 ノワールは少しためらったものの、素直に片手を前に出した。俺はその手を握る。握手である。拒絶はされなかった。長手袋をしているので、ローブの袖から素肌が見えることもない。

 

 「歩いてください」

 

 手をつないだまま二人で並んで歩いていく。俺はノワールの歩幅に合わせて進む。

 

 「ふっ……ノワールをどこに連れて行くつもりだ? 奴隷の競売所にでも出品する気か……とうとう本性を現したな」

 

 さっき飯屋に行こうって二回くらい話したんだけどなあ。この扱いにくさはアルターさんクラスである。正直に説明してもどうせ信じてくれないので、黙って手をつないだまま歩いて行こう。

 


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