78話―ノワールデート
初心者講座も終わり、時刻は昼過ぎとなる。授業を受けていた最中に作られていた冒険者カードが完成していた。メガネの職員から渡される。
「おお! これが冒険者カード……!」
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名前:ゴーダ
階級:E
所属:ゴーダさんファンクラブ
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実にシンプルな情報が書かれている。それだけだ。これ偽造とかされないのかなと、思ったがそのあたりの対策は万全らしい。
カードは金属板を複数枚張り合わせたような作りになっている。この中層の金属板に、協会が厳重に管理する専用の魔装具を使って個人情報を記録しているのだという。書き込みも読み取りもその魔装具を使わないとできないそうだ。上辺だけ書き変えても一発でバレて終わる。
ただ、協会を仲介せずに直接依頼主に売り込む冒険者はハリボテのカードを作って実力を詐称することがあるらしい。それについては騙された方が悪いということで、協会側は責任を持たない。詐称行為が発覚した冒険者は資格が剥奪されるらしいが。
カード情報を記録する魔装具は、協会が発行するその他証明書類にも使われているようで、信用度は高いらしい。それはそれで、協会上層部が悪用しないか不安になってくる。
銀行のように口座も作られるようだが、どうにも使いにくそうだ。貸金庫代がかかるし、引き下ろしにも馬鹿にならない手数料がかかる。こういうのは本格的に冒険者稼業が回り出してから活用できるシステムなのだろう。現状、それなりの大金を持ち合わせていて不安にもなるが、今回は預けないでおくことにした。
各種手続きを済ませ、俺たちは協会の外へと出た。長時間座っていて固まった体をほぐすように伸びをする。なんとなく、学校の授業が終わって一息ついたような気分だ。さて、これから何をするかな。
「私は母上についての情報がないか調べに行こうかと思います」
アルターさんに言われて気づく。旅の目的を忘れるところだった。行方不明になった母上さんの消息を調べないと。
「俺も手伝います」
「いえ、私一人で大丈夫です。そもそもこの町で得られる情報にあまり期待はしていません。ここに母上が転移していたなら、自力で森の家まで帰ってきているはずですから」
「でも……」
そう言ってアルターさんは一人で探しに行こうとする。俺は足手まといになると思われているのだろうか。これまでの俺の行動を振り返れば、そのような評価が下されているとしても反論できない。ごめんよ。
俺がちょっと落ち込んでいると、アルターさんが近づいて耳打ちしてきた。そんな密やかに何を言おうと言うのか、少し身構えてしまう。
「ゴーダさんはノワールさんと二人きりでデートを楽しんできてください」
「へ?」
よくわからない気の使われ方に困惑してしまう。
「ノワールさんはまだ人間に対して強い警戒感を抱いています。このままでは旅をする上で問題が生じる可能性があります。彼女の話し相手となるような打ち解けた関係を、ゴーダさんに築いてほしいのです」
なるほど、確かにノワールと仲良くなっておくことに越したことはない。このままいつ爆発するかわからないような危険物を野放しにしておけば、俺のストレスもマッハである。
それに、ノワールの心労を少しでも取り除いてやりたいという気持ちもある。根っからの悪い子ではないと思うのだ。せめて彼女の生い立ちとか、話してくれる範囲で知っておきたくはある。いずれにしてもお互いに理解し合わないことには歩み寄れないだろう。
「でも、それなら俺と二人きりじゃなくてもよくないですか?」
アルターさんには情報集めという用事があるにしても、なんだか殊更俺とノワールをくっつけようとしているようなニュアンスを感じる。三人一緒に仲良くなればいいんじゃない?
「私はノワールさんからかなり警戒されています。現時点で、もっとも彼女の信頼を勝ち得ているのはゴーダさんです」
「俺が? そんなことないと思うけど」
「私はその人物の所作から女子間限定で好感度を観測する機能を持っています。そのデータを参照する限り、間違いなく彼女はゴーダさんを最も信頼しています」
アルターさんによればその好感度は次のような指標から導き出されているという。
好感度0:そこらへんに落ちているゴミ。
好感度1:存在が感知できる。
好感度2:顔に見覚えがある。
好感度3:挨拶はしない。
好感度4:知り合い。
好感度5:友だち。
好感度6:親友。
好感度7:恋人。
好感度8:婚約者。
好感度9:生涯の伴侶。
好感度10:繁殖相手。
「ノワールさんがゴーダさんに持つ好感度は3.5です。私への好感度は2です。今日のところは私抜きでゴーダさんが集中攻略した方が効果的でしょう」
「一個、明らかにおかしいというか、ベクトルが違うのが混ざってませんか」
「そして私がゴーダさんに抱く好感度は13です」
「天元突破!?」
「それはともかく、私の見立てではノワールさんを攻略することは決して不可能ではありません。一度ふところに潜り込めば一気に陥落するタイプです。警戒心が緩んだところにつけ込んで掌握してください。今日中に好感度10まで上げられると思います」
「俺にそんなエロゲの主人公みたいな特殊能力はない」
「いけます。ベッドシーンまで持ち込めます。警戒心により硬く閉じきった幼いつぼみの花弁を、一枚一枚ゆっくりと優しくもぎ取っていき、そのめしべを完全に露出させてあげてください。そしてそのめしべに、ゴーダさんのめしべを…」
「めしべめしべ言うな! クール系美少女顔でスケベオヤジみたいなことを言うな!」
「幼いつぼみがほぐれきって屈服したところで、私にもおこぼれをください」
「それが、本音だね……?」




