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76話

 

 「『火燃貫通ファイア』!」

 

 「気合入れて声出せよー。素質ある奴はこれだけでポンと発動できたりするぞ」

 

 「『火燃貫通ファイア』ああああああああ!」

 

 「『火燃貫通ファイア』あああああ!」

 

 「ファああああああああァイアアアアあああああああ!!」

 

 青年二人組が顔を真っ赤にしながら、競うように剣を振っている。俺もやらないといけないのだが、大声で技名を叫びながら武器を振りまわすのは結構恥ずかしい。

 

 いや、今さら恥ずかしがってどうする。これまで散々、恥をさらしてきただろう。叫ぶくらいがなんだ。やるぞ!

 

 「『水流黙示ウォーター』あああ!」

 

 その途端、俺の心から恥ずかしさがスウッと消えた。赤くなっていたであろう顔や耳あたりから熱が引いていき、安らかな心地に包まれる。

 

 「ふぅ……」

 

 賢者タイムが訪れる。これはもしや、精神鎮静効果が出たのではないか。血結技を発動できたのかもしれない。もう一回やってみよう。

 

 「『水流黙示ウォーター』!」

 

 ……やはり和む。リフレッシュした感じがする。

 

 「クロウさん! これ使えてますか?」

 

 「いや、わからん。『水流黙示ウォーター』は鎮気系の技で、外から見てわかる特徴もない。自分自身、できてると思ったのなら成功してるんじゃないか?」

 

 これは使えたと判断していいだろう。しかし、いかんせん効果がしょぼすぎる気がしてならない。クロウさんは使える技だと評価していたが、俺からすればお手軽賢者タイムスキルである。この調子で、さらに難易度が高いという水の非普遍級魔技も使えたりしないだろうか。クロウさんに聞いてみる。

 

 「そんな上手くいくか。『普遍級』は才能があればすぐ使えるみたいなことを言ったが、実際そんな奴は百人に一人もいない。普通は訓練を積んで覚えるんだ」

 

 これが『非普遍級』ともなれば厳しい修行の末にようやく体得できるものらしい。自分がその魔技を使えると知らなくても、修行によって悟りをひらくように発現するのだとか。

 

 親が使えない『非普遍級』は子も使えないと説明されたが、正確には発現することが難しいだけで潜在的には多くの術式が遺伝しているという。だから、それまでその家系では見られなかった魔技に突然目覚めることもある。

 

 RPGだってレベルを上げないと新しいスキルは覚えられない。そんな簡単にポンポン使えるようになるものではないようだ。また期待しすぎて物欲センサーさんが出てきてもガッカリするだけなので、今日のところはこれで我慢しておこう。

 

 一発で『普遍級』が使えたんだからね。なんたって百人に一人の才能を持ってたんだからね!(ドヤァ)

 

 「そう言えば、アルターさんは何か血結技を使えるんですか?」

 

 テンションが上がって尋ねてしまった。確か、こういうことを軽々しく聞くのはタブーなんだっけ。

 

 「構いませんよ。ゴーダさんになら、私の全てを、隅から隅まで、余すことなく、じっくりねっとり教えて差し上げます」

 

 「あっ……そうですか」

 

 「知りたいですか」

 

 「やっぱりいいです」

 

 お互いに知らない方がいいこともあるかもしれない。聞くのはまた今度の機会にしておこう。余計なことまで教えてもらえそうだ。

 

 俺が若干、アルターさんとの間に距離を取っていると、クロウさんが話しかけてきた。

 

 「ゴーダ、一つ聞きたいことがあるんだが、お前『威圧』は使えるのか?」

 

 「え? あー、たぶん使えると思いますが……」

 

 ぶちギレたときに何度が使った覚えがある。おそらくあの感覚が威圧だと思うのだが。クロウさんは試しにこの場で使ってみてくれと言ってきた。

 

 「はいっ!」

 

 「……」

 

 「……どうです? 威圧感じます?」

 

 「いや」

 

 だめだったか。これは俺も本気を出すときが来たようだ。コキコキと肩を鳴らし、ゆっくりと息を吸い込む。そして、かめは○波のポーズをとり、突き出した手のひらをクロウさんに向けながら、気合の声を発した。

 

 「ハイイイイイイイ!!」

 

 「……」

 

 「……どうです?」

 

 「いや」

 

 だめだった。おかしいぞ。もしかして怒ったとき限定で発動できる技なの? 使ってる人は、みんないつもキレてんの? カルシウム足りてないの?

 

 クロウさんによると、『威圧』は『基礎級』の中でもかなり優しめの技であるらしい。人間は生命活動をする上で、ごくわずかな闘気を体から自然と発しているそうだ。それがその人の持つ存在感とか、オーラみたいなものである。『威圧』の原理はその生理反応を増幅しただけに過ぎず、技術的な訓練をしなくてもいつの間にか使えているものなのだという。

 

 「そもそも、『闘気』はちゃんと使えるのか?」

 

 「ええもちろんです! それで、『闘気』ってどうすればできるんです?」

 

 「わかったもういい」

 

 『闘気』は『威圧』以前の難易度で、使えない人間を探す方が困難なくらいだそうだ。生まれながらに使えることが当たり前だという。

 

 「でも『水流黙示ウォーター』は使えましたよ!? こんなことあるんですか!?」

 

 「実は『走気診断』で属性を調べたときから違和感があったんだ。アタシの闘気が一切通らなかっただろ。わざとでなければ無意識レベルで防御していることになる。加えて、闘気が使えないにも関わらず『水流黙示ウォーター』が使えたとなると……お前は『鎮み込み』という体質である可能性がある」

 

 『鎮み込み』とは、水属性を持つ者の中に極めて稀に現れる体質で、『鎮気』との相性が良すぎて『闘気』を使えなくなってしまう者を指す。

 

 武を志す者は通常、気質は『闘気』へと偏っていく。それは悪いことではない。自然な作用だ。むしろ、この当然の衝動を強引に抑え込み、動の気を律することで技を磨く『鎮気』の使い手の方が異質なのだ。

 

 『闘気』は必ず『鎮気』との併用の上に成り立っている。この調和を崩し、『鎮気』のみに注力する闘い方を続けていると、静の気質に飲みこまれ、『闘気』の出力が落ちてしまうことがある。

 

 『鎮み込み』はその症状がさらに悪化した形で、静の気質へと異常に偏った特殊体質。つまり防御全振り、攻撃無振り状態である。『鎮気』によって強化された肉体は頑強さを高め、筋力を増すらしいが、闘気系統の技は使えなくなる。思えば、これまで俺が発揮していた体の頑丈さはこの体質のせいだったのか。ちなみに『水流黙示ウォーター』は鎮気系の技である。

 

 「その体質って治せないんですか?」

 

 「そこまではさすがに知らない。何分、ものすごく珍しい体質だから、アタシも聞きかじったことくらいしか知らん」

 

 なるほど、これはもうタンク役を宿命づけられたかのようなステータスだ。器用貧乏になるよりは一点特化型で良かったと思うことにしよう!

 

 しかし、ブチギレモードのときは確かに威圧が使えた気がしたのだが、気のせいだったのだろうか。うーん……

 


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