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72話―『基礎級』

 

 「お前は今、俺を試す側でいる気分なんだろうな。だが、すぐに気づくことになるぞ。自分が試される側であるという事実に」

 

 「御宅はいいから打ってこい。手加減も不要だ」

 

 「……やってしまったな。ここで俺を怒らせるような態度を取るとは。まあ、ここでAランク冒険者を討ち取るという武勇伝を作るのも一興か。命だけは助けてやるから安心しろ」

 

 「怒りを通り越して気の毒になってくるほどの自尊心だな……」

 

 「苦しみ悶えろ! 『火燃貫通ファイア』!」

 

 ファイア、つまり炎攻撃か!

 しかし、別に火が噴き出すと言うことはなかった。マカセの手がほのかに輝いただけのように見える。その拳をクロウさんの腹にぶち込んだのだ。

 

 そう、腹に。構えていた手への攻撃ではなく、不意打ちの腹パンである。

 

 「な、に……!?」

 

 だが、クロウさんには全く効いていなかった。特に鎧などを着込んでいない腹部への一撃だというのに、何事もなかったかのように直立不動である。さすがAランクの腹筋だ。

 

 「き、貴様何をした!? どうやって闘気によるガードもせずに、俺の『火燃貫通ファイア』を無効化した!?」

 

 「これは『鎮気』による初歩的な防御だ。実戦ならここまで綺麗に防ぎきれないところだが、お前程度の素人の攻撃なら問題ない」

 

 「なんだその技は!? はっ、わかったぞ! どうせ高額な魔装具にものを言わせて発動した自動発動型オート血結技スキルだろ! 汚いマネを! お前も一角の冒険者なら己の実力で闘ってみせろ!」

 

 「つーか、お前なに腹殴ってきてんだよ? 誰がそんなことしていいつった?」

 

 喚き散らしていたマカセのどてっぱらにクロウさんの拳が突き刺さった。

 

 「ぼぶへぶああああっ!?」

 

 「闘気でガードくらいしろ。まともにくらってんじゃねえぞ」

 

 奇声をあげながらマカセが床をのたうちまわる。いいのが入ったみたいだ。さっきまでの余裕は木端微塵に砕け散っている。

 

 「これから話すことをよく聞いておけよ? 特にお前みたいな初心者には必要な知識だろう」

 

 クロウさんは特に怒った様子もなく、マカセを退室させるようなこともなかった。むしろ、マカセを諭すような優しささえ感じる対応である。

 

 「ごっ、おお……ご、このおれをぉ……ここまで、おこらせっ、た、はあっ、うっ、やつはぁ……!」

 

 「静かに聞け。金玉蹴り潰すぞ」

 

 「……」

 

 マカセが黙った。俺の下半身もキュッとなる。この体にはついてないけど、思わず股間を手で押さえてしまうくらいクロウさんの視線は冷えきっている。

 

 そんな俺の股間の上に、アルターさんがそっと手を重ねてきた。

 

 「大丈夫ですか?」

 

 「触らなくていいから」

 

 そんな心配そうな顔しても騙されないから。

 

 「けどよ、さっき確かに血結技が発動してたよな? どうやって棒立ちで防いだんだよ」

 

 「Aランクパネェ……」

 

 二人組の青年がヒソヒソ話をしている。確か、クロウさんは『鎮気』と言っていたが。

 

 「よし、まずは『基礎級ノーマルクラス』の話をしよう。これは一般に血結技を使えない者たちの未熟な技だと誤解されがちだが、全く違う。お前たちが自然に使っている『闘気』はこの『基礎級』に属するれっきとした魔技だ」

 

 血結技が何なのかわからない。そこから先に説明してよ。要するに『闘気』というのは誰にでも使える魔技で、血結技は使える人が限られる魔技ということか。その闘気のことを『基礎級』と分類するということ?

 

 「『基礎級』には全ての魔技の根幹をなす二つの技がある。それが『闘気』と『鎮気』だ。『闘気』とは体外へ向けて放つ力であり、『鎮気』とは体内へ向けて込める力だ」

 

 「『鎮気』なんて技、聞いたことがねえぞ?」

 

 「気が付いていないだけで、お前らも自然と使っている技だ。『闘気』は動、陽、攻の特性を持つ。そんな力を体から発するということは、自身の体もただでは済まない影響を受ける。その副作用を打ち消す力が静、陰、守の特性を持つ『鎮気』だ」

 

 ふむふむ、『基礎級』に分類される魔技は『闘気』だけではなく、『鎮気』というものもあると。さっきマカセの攻撃を防げたのは『鎮気』の守りの力だったのか。

 

 「でも俺、攻撃を受けるときに『鎮気』なんか使ったことねえよ。普通は『闘気』で弾き返して防御するんじゃないのか? そっちの方が強いだろ」

 

 「それも確かに一つの防御法だ。実際、私も『鎮気』の扱いは苦手な方だから実戦ではそちらを良く使う。一般的に知られた、というか当たり前の防ぎ方だな。だが、単純に防御することだけを考えるなら『鎮気』を使った方が遥かに効率的だ」

 

 『闘気』の発動中は同時に『鎮気』も発動して体が丈夫になっている。つまり、『闘気』+『鎮気』のダブルガードで防御力アップ! と、思えるのだが、そうでもないらしい。

 

 デメリット①

 単純に攻撃を弾き返すには技術がいる。『闘気』の使い手同士の闘いは、磁石の同極同士をぶつけあうようなものなのだ。力のかかり方を正確に読まないと自分も反動を受けてしまう。敵が優れた技量を持ち合わせていれば、なおさら不利な状況に立たされる。

 

 デメリット②

 闘気も万能ではない。あくまで攻撃が本質であり、防御のための技ではないのだ。闘気を集中できる場所にはムラがある。手や足の末端には集めやすいが、体幹は無防備になりやすいらしい(逆に『鎮気』は体の中心に集めやすい)。また、突きや斬撃による攻撃はたとえ闘気を集中していても、性質上、突破されやすいという。

 

 デメリット③

 魔力を『闘気』や『鎮気』へと一度に変換できる量、最大出力には限界がある。『闘気』を扱う際には必ずセットで『鎮気』を扱う必要がある。つまり、最大出力を10と仮定したとき、『闘気(攻撃)』に5、『鎮気(守備)』に5を割り振らなければならないのだ。だが、『鎮気』単体を扱う際には『闘気』も一緒に使う必要がない。だから、『鎮気(守備)』に10の力を振り込めるのである。

 

 この理論上、『鎮気』を10引き出した防御ができれば、相手はその2倍以上の魔力を使った攻撃を行わなければ突破できない。

 

 「よって、攻撃をするときは『闘気』を、防御をするときは『鎮気』を、と使い分けるのが理想だが、戦闘中にそれをコロコロと切り替えるのは至難の業だ。まあ、一部の達人ともなればそのありえない曲芸を平然とやってのけたりするが……」

 

 クロウさんが胡乱気にこちらを見やる。アルターさんの方を見てる?

 

 「それでもこの二つの魔技の性質を理解しているのとしていないのとでは雲泥の違いがある。これから冒険者として危険な強敵と戦うこともあるだろう。闘気だけではなく、鎮気の存在も念頭においておけ」

 

 なるほど、勉強になる。メモを取っておこう。

 はっ!? 筆記用具がない! メモ用紙もないじゃないか。準備しておけばよかった……

 


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