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71話

 

 おじさんには丁寧に謝っておいた。笑顔で許してくれた彼は良い人である。そんなこともありつつ、いよいよ初心者教室が始まった。

 

 「みなさん、おはようございます。これから早速授業の方に入っていきます。大まかな内容としましては、まず冒険者協会の利用規則と免責事項についての説明、初級依頼を受ける上での心得、魔物の生態と素材の剥ぎ取りについて、などと言った冒険者活動の基本事項を教えます。その後、座学・実技を含めた戦闘知識の授業に入る予定でした。しかし、この予定を急きょ変更し、先に戦闘知識の授業から始めたいと思います」

 

 教壇に立って概要を説明している人は、いかにも体育教師っぽい見た目をしている。角刈りで筋肉質、ジャージとホイッスルが似合いそうな体育会系だ。

 

 「と、言いますのも、今日は特別に外部から講師をお招きしています。それもなんと……Aランク冒険者! 並みいる冒険者たちのトップに立つ本物の実力者です。ここに集まられたみなさんは実に運がいい。ぜひ、多くの知識をここで学びとっていただきたい」

 

 会場がにわかにざわつく。Aランク冒険者、それは凡人では決してなりえない遥か高みに存在する領域。そんな雲の上の人が、このミルガトーレの町にいたのか。そして初心者教室で教鞭をふるってくれるとは。いったい誰なんだ……!?

 

 「それでは先生、お願いします!」

 

 体育教師が引き戸を開け、外に待機していたらしい特別講師を招きいれる。入ってきた人物の見た目は異様としか言いようがなかった。

 

 狩人の羽根付き帽子、ボロボロのロングコート、片脚の義足、一見して男と見間違えるような長身の女性である。その露悪的な格好に反して、意外と性格は良い人である。

 

 「よお青二才ども。アタシはスケアクロぶふぉおっ!?」

 

 うん、知ってた。挨拶の途中で俺たちと目が合ったクロウさんは盛大に吹き出す。そんな彼女に、俺とアルターさんは生温かい眼差しを送る。

 

 「なんでお前らが初心者教室にいるんだよ!」

 

 「初心者ですから」

 

 一流の戦闘技能を有するアルターさんがここにいるとは予想していなかったのだろう。でもなんでこの人、講師なんか引き受けているのだろうか。暇なのか。

 

 「おそらく、初心者をいびりに来たのでしょう。それか、後輩からチヤホヤされることで優越感を得たいのでしょう」

 

 「違うわっ! 協会の連中にどうしてもと頼まれたから仕方なくっ!」

 

 「あ、あの先生……?」

 

 体育教師が困惑した顔でクロウさんを見ている。それに気づいた彼女は、コホンと息を整えた。

 

 「……まあいい。さっさと始めるぞ。まずはここで魔技の基礎知識を教える。その後、練習場に行ってから簡単なアドバイスをしてやる」

 

 なんだかんだで面倒見が良い人である。そして、授業で扱われるという魔技について。これは俺も知りたかった情報だ。色々立て込んで後回しになっていたが、ここで教えてもらえるのなら願ったり叶ったりだ。

 

 「魔技とは、人間が主に用いる魔法体系だ。体内の魔力を『闘気』に変換することで強大な力を引き出すことができる。そこから派生する運用法をまとめて魔技という」

 

 「はい、質問です」

 

 「どうしたゴーダ」

 

 俺は手をあげてクロウさんに質問する。相手がクロウさんなので聞きやすい。

 

 「炎とか雷とかをシュウーッ!と手から出すエキサイティン!な魔法はないんですか?」

 

 「うーん、まあそういう血結技もある。貴族はそういうの好きだからな。でも、ぶっちゃけ魔力の消費が激しい割に威力は出ないし、普通に闘気で殴った方が強いぞ」

 

 闘気というのは要するに身体強化の魔法であり、人間が使える魔法はこれ一つだけらしい。なんという脳筋世界。炎を魔法で出したりするのは身体強化のおまけみたいなもので、そんなエフェクトにこだわるくらいなら余力を全部拳につぎ込め、と。

 

 「魔技には四つの分類がある。『基礎級ノーマルクラス』『普遍級コモンクラス』『非普遍級アンコモンクラス』『奥義級レアクラス』だ。さて、ではこの中でどれが強くてどれが弱いか……そこの無駄に態度がデカいヤツ、答えてみろ」

 

 クロウさんが指名したのはマカセだった。授業中にも関わらず、足を机の上に放り出して座っている。

 

 「くだらん質問をするな。血結技スキルの使い手こそが強者だ。基礎級ノーマルクラスしか使えない無能など、既にして冒険者失格。せいぜい、強者のお目こぼしのもとでドブネズミのように残飯を漁り暮らすことだな」

 

 「……そういう答えが返ってくるだろうと予想はしていたが、思った以上に血結技至上主義みたいたな。その様子だと、お前は血結技の発現を迎えているのか?」

 

 「当たり前だ。お前、この『魔炎鬼マカセ』を知らないのか?」

 

 「いや、普通に知らんが……そこまで自信があるのならちょうどいい。ここにその血結技をぶつけてみろ」

 

 そう言って、クロウさんは何の気負いもなく片手を突き出した。手のひらを前に向けて、そこに撃ち込んで来いという。察するに、今からマカセに魔法を使わせてそれを受け止めることで威力を計ろうとしているのだろうが、危なくないのか。

 

 その行動を挑発と感じたのか、マカセは威圧を振りまきながら立ちあがる。クロウさんの目前へと歩いて行く。

 


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