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65話

 

 防具はそろった。次はお待ちかねの武器である。この店主のセールストークはなかなかの腕前だ。簡単に財布のヒモを緩めないよう、気を引き締める。

 

 俺たちは武器が置かれているコーナーへと移動した。さすが冒険者用総合店というだけあり、武器も充実の品ぞろえである。他の武器屋がどうなってるのかは見たことないけど。

 

 「?」

 

 「どうかしましたか、ゴーダさん」

 

 そこで少し悪寒のようなものが走る。なんだか、武器の陳列コーナーの方から嫌な気配を感じる。近づけば近づくほど気分が悪くなっていく。

 

 「こ、この店って呪いの武器とか扱ってませんよね?」

 

 「まさかそんな。いわくつきの武器なんて一つもございませんよ」

 

 この感じ、スケアクロウさんの魔剣を抜こうとしたときにも同じような寒気を感じた。やはり何かあるような気がしてならない。俺はごまかすように話を変える。

 

 「アルターさんは何か買いたいものがありますか?」

 

 「私は矢を補充したいです。だいぶ使い潰しましたので」

 

 そう言えば矢は消耗品だ。アルターさんの射撃は超威力を得る代わりに矢も原形崩壊してしまうので、再利用が難しい。これは買っておく必要がある。

 

 「ノワールは? 何かほしいものある?」

 

 「ナイフがほしい」

 

 ノワールの場合は武器っていらなそうだが、防具もほとんど買ってあげていないので一応要望を聞く。ナイフか。武器としてではなくともナイフは持っていた方が便利だろうな。魔物を倒したときの剥ぎ取りなんかにも使うだろうし。

 

 アルターさんとノワールがそれぞれ武器を物色しに向かう。ノワールはすぐ帰ってきた。並べられていたナイフ類の中から目についたものを適当に一本選び出しただけのようだ。

 

 「う……っ!」

 

 抜き身のナイフを持って戻ってくるノワールを見て、俺はなぜか一歩後ずさっていた。悪寒が強まる。忘れかけていた記憶がフラッシュバックする。

 

 それは前の世界で俺が最後に見た光景。空き巣の男から包丁でめった刺しにされた記憶だった。

 

 武器の陳列コーナーを見て感じていた悪寒の正体を悟る。これは呪いなんかじゃない。ただのトラウマだ。思えばクロウさんの魔剣を見せてもらったときもこの感覚はあった。ろくに刀身を見ずに剣を返してしまったのは、謎の声を聞いてしまったからではない。むしろ、以前の俺なら『喋る剣』なんてファンタジーな代物には逆に興味を示していたことだろう。

 

 刃物が怖い。まさかここまで俺の精神に深刻な被害が出ていたとは思わなかった。冷や汗を流しつつも、ノワールには平静を装ってみせる。こいつに弱みを見せたら「なるほどこれがお前の弱点か!」とか言いながら襲いかかってきそうで怖い。

 

 「大丈夫ですか? 顔色がすぐれないようですが」

 

 「い、いえ、お構いなく」

 

 しかし、まずいことになった。こんな調子では敵が刃物をもって襲いかかってきたとき逃げることしかできない。武器よりも先に盾を買うべきだな。店主に、盾コーナーへと案内してもらう。

 

 「そうですねえ、盾で売れ筋の商品は……こちらのラウンドシールドなどいかがでしょう。黄塵幼虫の皮膜を用いて三重構造の頑強な造りとなっております。扱いやすさと防御力をかねそろえた一品でございます」

 

 うーん、見た目はただの皮製盾に見える。持ってみると軽い。確かに扱いやすくはあるのだろうが、その軽さが何とも心もとない。金属製のもあるみたいだし、そっちはどうだろうか。

 

 「そちらは総鉄鋼造りのヘビーラウンドシールドになりますね。頑丈さなら他に引けを取りませんが、重いですよ」

 

 この店で一番堅いやつを選んだ。店主は重すぎるから初心者には向かないと言われたが、竜人パワーがあれば問題ない。

 

 手に持ったり、腕に装着したりできるようだ。専用の別売りホルダーをつければ鎧に装着する形で持てるみたいだが、それだととっさの攻撃に対応しづらそうだ。普通に手で持って構えればいいだろう。

 

 「重く、ないですか? 元は重装歩兵用の装備なんですが」

 

 「ええ! このくらいなら大丈夫です!」

 

 「片手で持ってる……」

 

 しかし、重くはないがデカくて邪魔ではある。さっき言った専用ホルダーがあれば背中に回す形で背負えるようなので、持ち運び用にそちらも買っておくことにする。

 

 さて、次はいよいよ武器選びだ。盾だけ買ってそれで終わりとはいくまい。いっそ二枚盾にしようか、なんて馬鹿な考えが浮かぶ。

 

 この店に来るまでは一番楽しみにしていた点だというのに、今では気分が沈んでいる。剣に対する憧れみたいなものは変わらず持っているのだが、どうしてもトラウマの方が先行してしまう。

 

 「……刃がついてない武器ってありますか?」

 

 「はい、もちろんございますよ。鈍器類になりますね。こちらのメイスなどいかがでしょうか」

 

 メイス……それ要するに「こんぼう」でしょ。想像してほしい。異世界から召喚された勇者、魔王討伐の任を受け、世界を救うために数多の危険を切り抜ける。そしてたどり着いた魔王との最終決戦。

 

 『いくぞ、魔王!』

 

 『来るがいい愚かな勇者よ!』

 

 人類の命運を背負った勇者の手に握られた武器。それが……こんぼう!

 

 最高にカッコ悪いじゃないか。やっぱり剣がいいよお。そりゃRPGでも最初の町で売られてる武器はこんぼうだけどさ。俺は形から入るタイプなんだって。

 

 「材質はどういたしますか? こちらの木製柄、球形柄頭のものは人気ですよ。お嬢様は身体能力に優れていらっしゃいますので、威力を重視するのならば、こちらですね。軽量化処理はされておりませんので少々重いですが」

 

 先入観からメイスをカッコ悪いものだと思い込んでいたが、品ぞろえを見ると意外と多種多様で見ているだけでも面白い。厳密に言うと、メイスは金属の柄頭をつけることで攻撃力を増した棍棒の一種であるらしい。

 

 そのため従来の単一素材で作られた棍棒と区別して合成棍棒と言うらしいが、柄から柄頭まで全て鉄で作られたメイスもあった。柄が木製だと力いっぱい振りまわしたら折れそうな感じがして心配なので、この全金属製メイスの方がいいな。

 

 柄頭の形状も様々で面白い。鉄球が取り付けられたものとか、DQのメタルスライムみたいな形のものもある。先がとんがって槍っぽくなっているものもあった。モーニングスターという種類になると、鉄球にスパイク(大きな針)がウニのように取り付けられていて、見るからに攻撃力が高そう。危なっかしいのでこれは遠慮する。

 

 結局、俺はフランジメイスというタイプを選んだ。三角形の突起が柄頭の四方に取り付けられていて、横から見ると菱形に見える。モーニングスターのようなトゲトゲというほどではないが、この突起で思いっきり殴られたら痛いでは済まないだろう。別に先がとがっているわけではないので、これなら俺も怖くない。

 

 全金属製フランジメイス。長さは70センチくらいだろうか。最初は抵抗感があったが、実際手に持ってみるとこれも結構カッコイイかもしれない。喧嘩もろくにしたことのない素人が剣を扱うよりも無難な選択だろう。メイスなら振り回して当てるだけで大ダメージだ。しかも頑丈でお手入れ不要。剣へのこだわりも捨てきれないが、これはこれでいいものだ。

 

 試しに左手にヘビーラウンドシールド、右手にフランジメイスを持ち、広い場所で振ってみる。

 

 「す、素晴らしい力ですね、お嬢様……」

 

 若干、店主が引きつったような笑顔をしていた。華奢な美少女が両手に鉄の塊を持って平然と振り回しているのだから、ちょっと異常な光景だったかもしれない。まあ、異端視されるほどの反応はなかったので魔法的パワーでどうにかなっていると解釈してくれたのだろう。

 

 当初の予想とはかなり異なり、重武装スタイルになってしまったが、良い買い物をしたと思う。

 

 「盾とメイスを合わせまして、えー……37万ゴールドになります」

 

 「ブフォッ!?」

 

 値段の方もイイ買い物だった。高すぎる。なんでそんなにするの。これオリハルコンとか使ってるんじゃないのと思うくらい高い。

 

 「まさか。そのような幻想金属が本当に使われていたなら国家予算級の価値になってしまいますよ。こちらの商品はどちらも上質な鋼鉄を惜しみなく使用しておりますので、この値段もいたしかたないかと……」

 

 ここまでその気にさせておいて、やっぱりいいですと断ることはできず、結局どちらも購入してしまった。最終的に、この店で買った諸々の商品合計額は100万ゴールドにもとどきそうな勢いであった。冒険者ってお金がかかるんだね。

 


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