63話
「では、失礼します」
「変なところ触らないでくださいよ」
ドレスを脱ぎ去り、コルセット?みたいな矯正下着姿になる。これ、腰が曲げにくくてきつい。竜人パワーのおかげかギチギチに締められても息苦しくはないのだが、普段着の感覚で動こうとしてうっかり破壊してしまったらどうしようかと気疲れしてしまう。
「私の服もお願いします」
「あ、はい……」
俺もアルターさんのドレスを脱がせる。彼女の白い肌があらわになっていく。変に緊張してしまう。目を閉じるわけにもいかず、急いで脱がせようとするものの、これがなかなか難しい。着せてもらうときによく見ていればよかった。
「焦らないで。ゆっくりでいいですから」
くっ、アルターさんの言葉が全部性的に聞こえてしまう。落ちつけ、これは女の子同士で着替えをしているだけ。何もおかしなことはないんだ。おかしなことは……
そのとき、気が急いていたせいか、うっかりアルターさんの胸に手が当たってしまった。もちろん偶然である。ふわりと柔らかな感触が指先に走り、不覚にも顔が熱くなる。
「ご、ごめんなさ……ひいっ!?」
そして俺は見た。まるで肉食獣のような眼光を放つアルターさんの表情を。
「今、触りましたね」
「いえ、これは悪気があったわけでは……」
「なるほど、悪気ではなく好意からの行動だと」
「好意的な解釈をしないように」
「ゴーダさんはうっかり私の体に触れてしまった。ということはすなわち、私はゴーダさんの体にうっかり触る権利を得たということですね?」
「何の権利!?」
「お体に触りますよ」
「やめろォ!」
アルターさんの手が伸びる。しかもその場所が、俺の局部! 自らの欲望を1ミリたりとも隠そうとしない魔の手が迫る。少しはうっかり要素を見せろ! 俺は慌ててその侵攻を阻止する。
「誰か助けてえええええ!!」
俺の助けを求める声を聞きつけ、誰かが試着室に駆けつけてくれた。
「何かありましたかっ!?」
試着室のカーテンを開けてきたのは店番をしていた女性店員だった。まさに肉食獣に捕食されようとしている俺と、女性店員との目が合った。
「あっ……失礼しました」
そう言って、女性店員は静かにカーテンを閉めた。店員は顔を赤らめ、何かを察した表情をしていた。いや、助けてください。無情にも俺のSOSは黙殺された。
* * *
長きに渡る闘いを終え、ようやく俺たちは試着室から出てきた。着替えるだけでこんなに疲れるとは。
「大変お似合いでございます、お客様!」
店主がお世辞で褒めそやしてくる。いや、お世辞ではないかもしれないと自惚れる程度には、我ながら似合っていると思う。もちろん、アルターさんもばっちり決まっている。
まず、一番下に着ているのは特製インナースーツだ。全身を覆う黒い生地が、ぴっちりと体にフィットしている。
何の材質でできているのかわからないが、通気性はそこそこいい。それでいてゴムみたいな弾力性があって丈夫である。ただ、このギュッと全身を締めつけられる感覚は慣れないと違和感があるな。
これだけでは全身ぴっちりタイツマンである。裸よりエロい不思議。俺はその上からジャケットを着た。これは店主が勧めてくれた中の一品で、手が届く位置にさまざまな道具をセットしておけるポケットやホルダーがついているのだ。その見た目のカッコよさに惹かれて選んだ。ちなみに、何の道具をセットすればいいのかは知らない。
下はキュロットパンツをはいた。このコーディネイトが果たして功を奏しているのか、これまでの人生の大半を男として生きてきた俺には判断がつかないところだ。しかし、この体の美少女さをもってすれば問題ない。あまりに常軌を逸した服装でなければ、美少女は何を着ても似合うのである。真理である。
一方、アルターさんはと言うと、俺と同じインナースーツの上にシャツを着て、その上から防具としても使える厚手のケープを羽織っている。下はスカートだ。しかも、挑戦的な丈の短さである。確かにとても似合っているが、容易くパンチラしそうな短さだ。
実はパンチラ以前の問題として現在、俺たちは下着を着用していない。アルターさんは踊り子風衣装を持っていたので、それを下着代わりに使えばよかっただろうに、素っ裸の上からインナースーツの上を着ていたな。俺も同じだけど。
俺はキュロットなので大丈夫だが、アルターさんはパンチラした場合、大変なことになってしまう。インナースーツの生地は透けない仕様なので丸見えにはならないが、非常にぴっちりフィットしている。これはまずい。
さすがにこの店に下着は売っていなかった。そういった物資も買いそろえておく必要がある。できれば部屋着なんかも一着ほしいところだ。洗濯とかどうすればいいんだろう。悩みは尽きない。
また、もっと切実な悩みとして金銭の問題もある。これらの服を買っただけで金貨10枚以上使ってしまった。確かにこの店で取り扱われている服は防具としての機能も持ち合わせた立派な装備品ではあるのだが、まさかここまで高いとは思っていなかった。物が物だけにケチるわけにもいかない。湯水のように金を消費していく……




