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61話―出会いと別れ

 

 俺とアルターさんはヒットウの町での旅行プランについて協議しながら領主の館を後にした。

 

 「はっ! あのゴリラに文句言うの忘れた!」

 

 気がつけば敷地の外である。当然、魔族もついてきている。今さら返品を主張したところで聞き入れてもらえるわけがない。この世界にクーリングオフなどない。

 

 「クククク……」

 

 もうこうなってしまったものは仕方がない。ここで無責任に放り出しても問題が大きくなるだけだろうし、俺が面倒を見るしかなさそうだ。俺ならこの子が暴れても何とか抑えられる。

 

 「とりあえず、自己紹介しようか。俺はゴーダ。それでこっちの人がアルターさん。で、この人はスケアクロウさん。君の名前を教えてくれる?」

 

 「ふん、ニンゲンに名乗る名などない」

 

 「ノワールちゃんだね。これからよろしく」

 

 好感度マイナスからのスタートである。果たして彼女がデレてくれる日はやってくるのだろうか。というか、これを奴隷と呼んでいいのだろうか。

 

 しかし、これから行動を共にすることになると、旅にも連れていかなければならなくなる。なんだかんだで性根は悪くなさそうな子ではあるが、町襲撃の前科がある以上、油断ならない相手だ。そんな危険な存在をアルターさんは受け入れてくれるだろうか。

 

 「女の子なら構いません」

 

 そうですか。女の子というか、見た目完全に魔物ですが。ホラー映画に出てきてもおかしくない真っ黒影怪人である。

 

 ちなみに今のノワールは、体全体をすっぽりと覆い隠すフード付きローブを着ている。フードを目深にかぶっていてものぞきこまれると顔が見えてしまう。FFの黒魔道師みたいになってるぞ。昨日の今日で、このわかりやすい襲撃犯の姿が人目についたら騒ぎになってしまうので、早いところ対策が必要だ。

 

 「あー、ちょっとそいつのことについて話があるんだが……よければ、アタシに引き取らせてくれないか?」

 

 そこでクロウさんから声がかかった。ノワールを奴隷として売ってほしいと言ってきた。そう言えば、クロウさんはこのダークエルフを捕まえてくるように依頼を受けているという話をアルターさんから聞いた。依頼を達成するには、依頼主のもとへ連れていく必要があるのか。

 

 でも正直に言って、その依頼主にこの子を引き渡していいものか。そもそもこの子を捕まえて何をさせる気なのだろうか。危険だから排除するというのであれば、わざわざ捕獲依頼を出すとは考えにくい。

 

 「すみませんが……売れません」

 

 「そうか。まあ、その魔族を倒したのはお前だからな。お前がノーと言えばそれまでだ。無理に売ってくれとは言わないさ」

 

 クロウさんはあっさりと引き下がった。彼女もノワールの身を案じてくれているのかもしれない。やれやれと肩をすくめつつも、ノワールに向ける視線は柔らかいように感じた。

 

 無理やり押し付けられた奴隷だろうと、持ち主になってしまった以上は責任を持ちたい。強力な魔族と言ってもまだ子どもだからな。俺はノワールの頭を撫でる。

 

 ばしっ

 

 俺の手は払い落された。

 

 「気安く触るな、ニンゲン。ノワールは誰の指図も受けない。奴隷として売られようが何だろうが関係ない。どこまでもお前の後をつけてやる。疫病神のようにな! クックックック……」

 

 「スケアクロウさん、すみませんけどこの子、やっぱり引き取ってもらってもいいですか?」

 

 「いや、無理。どうせアタシの言うこと聞かないだろ。悪いけど連れてけねーわ」

 

 前途多難である。

 

 「さて……アタシはそろそろ行くぜ。短い付き合いだったが、まあ楽しかったよ。それじゃあな」

 

 唐突に、クロウさんは別れを告げた。え、もしかしてこのまま解散する流れ?

 

 「えー! クロウさん、『ゴーダさんファンクラブ』抜けちゃうんですか!?」

 

 「あたりまえだろが! んなクソだせえチームに居られるか!」

 

 「アルターさん強いですよ! 俺もまあ、たぶん強い? それに今なら破壊力抜群のダークエルフまでついてきますよ!」

 

 「私も、あなたでしたら喜んで歓迎いたします」

 

 「一応、こっちはAランク冒険者なんだが……まあ、実力的にはアタシと組んで問題ないレベルだと思うけど、もともとその気がないんだ。アタシは一匹狼が性に合ってるんだよ。悪いが、抜けさせてもらうぜ」

 

 てっきりこのまま仲間になる流れかと思ってたのに。しかし、彼女にも彼女の事情がある。冒険者ならではのドライな関係というものがあるのだろう。寂しいが無理に引きとめることはできない。

 

 「運が良ければ……いや、悪ければまた違う町で会うことがあるかもな。そのときは、ま、酒でも飲もーぜ」

 

 そう言ってクロウさんは、剣を杖のようにつきながら去って行った。あの剣さっきまで持ってなかったけど、どこに置いていたのだろうか。

 

 RPGならパーティメンバーが離脱したときの物悲しげなSEが流れているところだろう。でも、またどこかで会えることを信じよう。離脱したメンバーがシナリオの後半で強化されて帰ってくることはよくあることだよな。

 


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