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59話―褒賞授与

 

 それから俺たちは服屋でドレスを着せられた。昔のヨーロッパの貴族が着るような豪華なやつだ。ミニスカメイド服を着たときよりも、よっぽどコスプレっぽく感じるのはなぜだろう。

 

 当然、一人で着替えられる服ではない。何人ものスタッフの手を借りてプラモを組み立てるかのごとく装着させられていく。あまりにも豪華すぎて服に着られるんじゃないかと気後れしてしまう。

 

 だが、その心配は全くの杞憂だった。今の俺は美少女である。まるで持ち主の元に帰ったかのように貴族ドレスは俺に似合っていた。この言い方だと自分がナルシストみたいだが、個人的な感覚としては鏡の前に立っている自分がまだ自分自身と認められない気持ちが強い。そのうち、違和感がなくなっていくのだろうか。それも何だか寂しい気はする。

 

 「さすがはゴーダさんですね。最初はあまりに露出が少なすぎる服だと思いましたが、なるほど、これはこれで趣深い。天使……という表現ではまるで足りません。美の女神そのものです」

 

 そう言うアルターさんも俺に負けず劣らず、ドレス姿が似合っていると思う。俺と並んで二人で歩いたときの迫力は圧巻である。

 

 「ゴーダさん、襟元が曲がっていましてよ」

 

 「そこはおっぱいです」

 

 俺たちは屋敷の応接室へと案内されている。領主邸の廊下で人とすれ違うたびに、どよっとした雰囲気になるのが面白い。ちょっと恥ずかしいけど、少しドヤ顔したくなる自分がいる。

 

 「まったく、なんでアタシまでこんな格好を……」

 

 ところで、クロウさんも着替えたのだが、その見た目は俺たちとは全く違うベクトルで驚きである。なんと、男装をしている。ドレスではなくタキシードっぽい服だ。しかもそれが文句なしに似合っている。セバスチャからドレスを着ろと言われていたが、最後まで抵抗した結果なのだろう。

 

 「あっと……!」

 

 よそ見をしていたらドレスの裾を踏みつけて転びかけてしまった。慣れない服を着ると歩くだけで一苦労だ。

 

 「大丈夫か?」

 

 「あっ、ありがとうございます」

 

 あわや、転倒するというところでクロウさんが俺の体を支えてくれた。自然な形で腰に手を回され、クロウさんとの距離が接近する。その男装の麗人っぷりに思わず顔が火照る。

 

 パシャ! パシャ!

 

 さっきからアルターさんが俺とクロウさんの方を見て、しきりにまばたきをしている。そのときにカメラのシャッター音みたいなのが鳴っているのだが……

 

 ちなみに、この衣装はさっきの服屋で借りたものだ。セバスチャは購入する気があるなら代金は持つと言っていたが、これから旅を続けるというのにこんな服をもらっても荷物になるだけだ。買ってもらって早々売り払うのはさすがに失礼だと思ったので、素直に借りるだけにした。

 

 応接室に着いた。領主が来るまで待機を命じられる。何か作法とかあるのだろうか。まあ取り合えず、お白州に呼ばれた町人みたいな感じでへへーっとしておく。

 

 「……そこまでかしこまらずともいいですよ」

 

 あ、そう。

 しばらくすると、部屋の奥から一人の巨漢が現れた。誰だ、あいつ。領主の護衛か何かだろうか。

 

 「今日はよく集まってくれたな。私がこの町の領主、キーグロ・モブーンである」

 

 ええええええ!? こいつがキーグロ!? 昨日とは見た目がまるで違う。あの今にも死にそうだったガリガリの老人が、今では筋骨隆々のゴリラ男である。ドラゴンの血、すごすぎる。

 

 というか、本当にキーグロなのか。別人じゃないのか。試してみよう。俺はドラゴンドラムを鳴らす。

 

 デュンデュンデュン!

 

 「ウホッ!? ウホホーッ!」

 

 ボココココ!!

 

 こ、このドラミングはまさしくキーグロ。本当に本人だったのか。

 

 「たわむれはよせウホ」

 

 語尾が治ってねーぞ。

 

 「ゴーダよ、そなたのおかげで私の病は癒え、元の姿を取り戻すことができたウホ。感謝するウホ」

 

 てっきりドラゴンの血が効きすぎて筋肉ゴリラになったのかと思ったら、元の姿がゴリラだったのか。ゴリラになった責任を取れとか言われたらどうしようかと心配になったぞ。

 

 でもなんか……病気だったときの方が、まだ貴族としての威厳があった気がする。主に語尾のせいで、ただのイロモノと化してないか。

 

 「そして冒険者チーム『ゴーダさんファンクラブ』の者たちよ」

 

 「おい、その一緒くたにして呼ぶのやめろ」

 

 「そなたらの働きによって、凶悪な魔族の襲撃を終息させることができたウホ。あのまま魔族が暴れ続けていれば、どれだけ被害が広がったかわからないウホ。怪我人は多く出たが、幸いにして死者はゼロ。これも早期解決ができたおかげウホ。ありがとうウホ」

 

 「つきましてはこの場にいらっしゃる皆さまに報奨金を……」

 

 「待て。その前に確認したいことがある」

 

 セバスチャがお礼の話をし始めたとき、クロウさんがそれを遮った。どうでもいいけど、敬語使わなくていいの? 相手、貴族だよ?

 

 「あの魔族はどうなった? 殺したのか?」

 

 そこで俺は初めてその可能性に気づかされた。あれだけの事件を起こした犯人なのだ。殺されていてもおかしくない。いや、むしろ殺さずにいる方がおかしい。俺は気絶させることしかしていない。もし意識を取りもどしたら再び大惨事が起こってしまう。

 

 彼女は確かに悪いことをした。だが、何かしら理由があって行動していたように思う。それに、まだ子どもだった。だから許せとは言わないが、それでも殺されてしまうのは少しかわいそうだと思った。俺が魔族を気絶させたせいで、結果的に彼女を殺すことに加担してしまったのではないか。

 

 あのあと魔族がどうなったのか俺も気になる。クロウさんは、嘘は許さないと言わんばかりの視線をキーグロへと向ける。キーグロは難しい表情をして口をつぐんだ。やはり、あの子は……

 

 

 「クククク……このノワールが人間ごときに殺されたか、だと? 片腹痛いわ!」

 

 

 応接室のドアが軋んだ音を立てて弾け飛んだ。

 


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