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56話

 

 「何をしたニンゲン! どうして耐えられる!?」

 

 「これが、守るべきものを得た者の力だ!」

 

 「なんだと、くっ、認めない……! 『拒絶ハヲ』! 『拒絶ハヲ』! 『拒絶ハヲ』オオォ!」

 

 連続で衝撃波が飛んでくる。まずい、体の方はなんともないが、メイド服がビリビリと破れかけている。このままでは丸裸にされてしまう。

 

 「なぜだあ! なぜ効かないいい!」

 

 「憎しみで闘うからだ! 俺たちはわかりあえるはずだ! 拳を交える以外の道があるんじゃないか!? 俺は信じている! お前になら俺たちの希望プリンの尊さが理解できる! 争う必要はないんだ!」

 

 「うるさい! お前たちはいつもそうやってノワールを惑わせる! そして裏切り、全てを奪っていく! もう騙されないぞ、今度はノワールがお前たちから奪う番だ!」

 

 「お前が抱く感情は人間の一面しかとらえていない! 全てを愛せよとは言わない、だが、全てを憎む必要もないんだ! 奪い奪われる関係である必要はない! ともに希望プリンを分かち合う……そんな未来があってもいいんじゃないか!?」

 

 「それはお前たちの一方的な言い分だ! ニンゲンを許せと言うのか!? ならばノワールのこの憎しみはどうなる! 我ら一族の無念は誰が雪ぐ! わかり合う未来などない! そんなものは認めない!」

 

 「……どうやらお互いに一歩も退けないみたいだな。来い、ノワール! その憎しみを全て受け止めてやる! 人間の(スイーツ)愛を教えてやる! お前の憎しみは俺の愛を越えられるか!? ぶつけてみせろ、ノワールウウウ!」

 

 「おおおおお! お前を倒す! ニンゲンごときに負けるものかあああ! 『拒絶ハヲ』『拒絶ハヲ』『拒絶ハヲ』『拒絶ハヲ』『拒絶ハヲ』『拒絶ハヲ』『拒絶ハヲ』『拒絶ハヲ』『拒絶ハヲ』オオオオオ!!」

 

 怒涛の連続攻撃。さすがに目を開けていられない。身動きも取れない。無理に動こうとすれば後ろの店に被害が出てしまう。ただ受け止め続けることしかできない。メイド服の原形が失われていく。

 

 敵の猛攻には全く衰える気配がない。魔力切れとかないのだろうか。いかに俺に向けて攻撃が集中しているとはいえ、俺の体一つで衝撃波の全てを防ぎきれるわけではない。後ろの建物にもジワジワと被害が広がっている。このままでは押し切られるのも時間の問題だ。

 

 そこで俺は気づく。さっきまで近くにいた棺桶子の姿がない。さすがに逃げたのだろうか。周囲をチラリと確認する。棺桶子は俺の後ろ、店の中へと避難しようとしていた。

 

 「棺桶子! 早く逃げるんだ! 俺たちの希望プリンを持って逃げてくれ!」

 

 よし、これでプリンを安全な場所へと移すことができる。彼女もまたスイーツ愛を持つ同士である。必ずや、プリンを守り通してくれることだろう。

 

 「まかせて」

 

 棺桶子が店内に入っていく。しかし、俺はそこで一抹の不安を覚えた。なんだこの胸騒ぎは。俺の判断に間違いはないはずだ。俺は今一度、確認する。

 

 「頼むぞ! 俺たちの希望プリンを!」

 

 「まかせて」

 

 棺桶子はサムズアップして答える。そして店内へと姿を消した。俺は直感する。スイーツを愛する同士としての直感が告げている。

 

 食われる。俺たちの希望が食い荒らされてしまうッ……!

 

 棺桶子の理性を信じたかった。しかし、それ以上に俺は疑いの心を抱いてしまった。やはりノワールの言うとおり、人間の本質は裏切りであるということか。スイーツ愛など所詮、醜い甘味欲キャンディを隠す包み紙でしかないというのか!

 

 「せめて、俺の分だけでも……俺の分は残しておいてねええええええ!?」

 

 「ノワールを無視するなああああ!!」

 

 棺桶子に気を取られている隙に、魔族が近くまで来ていた。直殴りでゼロ距離から衝撃波を撃ち込まれる。さすがにこれは効く。衝撃が拡散する前の一点集中した威力がある。バレーボールで敵からのアタックを受け止めたくらいの衝撃が走る。

 

 「ちょ、いったん落ちつこオフッ!?」

 

 みぞおちにクリティカルが決まった。胃が圧迫されて中身が揺さぶられる。

 

 「っ! ここが弱点か! 『拒絶ハヲ』『拒絶ハヲ』『拒絶ハヲ』!」

 

 「ボディーはやめな! 顔にしな顔に!」

 

 執拗な腹パン攻撃が始める。腹筋でダメージは防げるが、内部を揺さぶってくる衝撃波が妙に気持ち悪い。やばい、吐き気がしてきた。このままでは奴を召喚してしまう。SAN値チェックが入りそうな邪神の眷属が封印から解き放たれてしまう。

 

 「らめえええ! しゅごいのでちゃうのおおおお!」

 

 「逝け! 逝ってしまえ! 『拒絶ハヲ』『拒絶ハヲ』『拒絶ハヲ』『拒絶ハヲ』『拒絶ハヲ』『拒絶ハヲ』!!」

 

 「オエー↑」

 

 「『…」

 

 出 た 。

 

 もはや痛みの域に達したケミカル臭が食道を駆け上がり、鼻粘膜を突きぬけて脳天を串刺しにする勢いでこみあげてくる。もう絶対に解放すまいと心に決めていたイカスミパスタ君が「やあ」してしまった。

 

 しかも運の悪いことに、俺の目の前には魔族がいた。しつこく俺の腹を殴りつけていた魔族は、まさかゲロを吐かれるとは思っていなかったのだろう。頭上からノーガードでイカスミパスタ君の洗礼を受けるはめになる。

 

 「……」

 

 魔族が静かになった。さっきまでやかましくハオハオと、インディアンの挨拶を繰り返した彼女?は完全に動きを停止している。

 

 ばたん…

 

 そしてひっくり返った。魔族討伐完了! 俺はコロンビアポーズをきめた。

 


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