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53話―プリンを食べよう

 

 ドラゴンの血でキーグロの病気は治ったようだ。やる気スイッチを北斗百裂拳で突かれたみたいに元気になった。元気になりすぎてゴリラ化した。良かったね。ちなみに副作用に関する苦情は受け付けません。

 

 セバスチャからはお礼を言われた。今日はちょっとキーグロがまともに話をできる状態にないので、お礼は明日すると言われた。ザコッカスをボコった件の後始末や、解放奴隷の手続きなどは全部セバスチャが進めてくれるという。サンクス。

 

 さらに加えて、セバスチャがこの町の高級ホテルのスイートルームを俺のために予約してくれたらしい。もちろん、料金は向こう持ちである。おまけに無一文では困るだろうと、お小遣いまでくれた。セバスチャほんと良い奴だよ。キーグロよりもセバスチャに感謝したかもしれない。

 

 ただ、セバスチャもドラゴンの血を少量飲んでしまった影響か、少しずつテンションが上昇していった。クールな執事の仮面が完全にはがれてしまう前に、俺はそっとその場から立ち去った。

 

 領主の館から出ると、外はもう夕方だった。長い一日だった。だが、俺はようやく人並みの身分と服を手に入れたのである。あ、ちなみに今着ている服はミニスカメイド服である。

 

 自由の空気を満喫したところで、俺は気合を入れ直した。まだやり残したことはたくさんある。このまま高級ホテルのスウィーーートルゥーーームに直行して高級なディナーを高級なナイフとフォークで高級に召しあがりたいところだが、それよりも先にすべきことがある。

 

 アルターさんと合流しなければ。俺のことをまだ探してくれているかもしれない。俺自身が早くアルターさんに会って安心したいという気持ちもある。なんだかんだで、俺にとって一番信頼のおける人だ。

 

 どこから探せばいいだろうか。とりあえず大通りを進んでいく。町の正門あたりにはもういないかもしれないが、まだそこで待っていてくれている可能性もある。まずは正門へ向かおう。

 

 ところで、正門ってどっちだっけ?

 

 通行人に道を聞きつつ歩いていると、ある店の前に長蛇の列ができているのに気づいた。行列に良い思い出がない俺は足早に通り過ぎようとする。

 

 しかし、そこで鼻孔をくすぐる甘い香りがただよってきた。これはお菓子のにおいだ。この世界にもお菓子はあるのか! 中世だと砂糖とか貴重そうだから庶民の間には広まっていないのかと思っていた。

 

 ちょうど目の前に列の最後尾があったので、そこにいる人に聞いてみる。

 

 「あの、ここは何のお店ですか?」

 

 「ん、知らないのかい? パティシエ・ディグンプの菓子店さ。この町随一の腕を誇る職人でね。まだ開店時間前なんだけど、この列だよ。人気商品は売れ切れ必至だからね」

 

 正直、ものすごく興味がある。ドラゴンドラムが鳴りかけている。だが、今はこんなところで時間を潰している暇はない。早くアルターさんを探さないといけないからな……その後で、全速力で戻ってくればいいんだ。そうしよう。

 

 「うわー、もうこんなに並んでるよ。出遅れたー!」

 

 「くそ、この列の長さだと、一日50個限定生産の幻プリンにありつけないかもな……」

 

 いつの間にか俺の後ろに人が並んでいた。俺は並んでいるつもりはなかったのだが、列に組み込まれてしまう。抜け出せばいいだけの話なのだが、どうしても足が動かない。

 

 「いつも開店とほぼ同時に売れ切れるんだよなーあのプリン。一度でいいから食べてみたいが……今日もダメかなこりゃ」

 

 「いや諦めるのは早いって! なんたって超限定なんだよ。リミテッドだよ。諦めきれるわけがないよ!」

 

 それは確かに諦めきれない。限定品という言葉に弱いのは、どこの世界の消費者も同じか。今、この列から抜け出せば、確実にリミテッドへの道は遠のく。そこまで人々を熱狂させる幻プリンとはいったい、どんな味なんだ……!

 

 俺はここでプリンに屈してしまうというのか。俺にとって、アルターさんはプリン以下の存在だというのか。俺をここまで誘惑するプリンが憎い。くそぉ、くそおおお!

 

 「いや、ここは発想を転換するんだ……これは、そう、アルターさんへのお土産! 迷惑をかけたアルターさんへの詫びの菓子折り代わりなんだ。だから買っていいんだ」

 

 完璧な理論!

 

 「はっ、でもそれだと俺が食べられないじゃん! どうすればいいんだ……二つ買えればいいけどその保障はない……そうだ、二人で食べよう! 同じ釜の飯を食う仲とも言うし、同じカップのプリンを食う仲作戦だ! そっちの方がレズターさんも喜びそうだ。うん、そうしよう」

 

 「あのメイド、何を一人でぶつぶつ言ってるんだ……?」

 

 葛藤に決着をつけた俺は、店の開店を待つ。夕方から開店するとか変わった店だな。でも、そういうところに職人のこだわりみたいなものを感じる。何よりこの人の列がおいしさを証明していると言っていいだろう。はやる気持ちを抑えて待ち続ける。

 

 そうしていると、何やらガンガンと鐘を打ち鳴らす音がけたたましく響き始めた。それを聞いた人々が騒ぎ始める。しばらくして通りの向こうから悲鳴が押し寄せてきた。大勢の人が何かから逃げるように走っている。

 

 「魔族の襲撃だああ! 逃げろおお! 殺されるぞおおお!」

 

 そういうイベントは俺がプリンを買った後にしてくれ。もうすぐ開店するのに……

 


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