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★50話

 

 私たちは協会を後にした。大人げなく駄々をこねていたスケアクロウもしぶしぶといった様子でついてくる。

 

 「全く、お前と付き合うとロクなことにならねえな……」

 

 カツリ、カツリ

 

 スケアクロウの剣が石畳を叩く。

 

 ……いつの間にか、彼女は杖代わりの魔剣を手にしていた。奪われたはずではなかったのか。いつ奪還したのかわからなかった。まるで元からそこにあったかのように思えるほど自然に杖をついていた。

 

 「で? 一刻も早く借金返済に行きたいみたいだな?」

 

 「はい」

 

 「じゃあ、お前の用事を優先しようか。と、言いたいが、その前に確認しておくぜ。お前にはアタシの受けた依頼を手伝ってもらう。金を受け取った以上、嫌とは言わせない」

 

 「はい」

 

 今さら確認するまでもないことだ。スケアクロウはやたらと契約の履行を念押ししてくる。

 

 「アタシが心配してるのは、お前が金だけ受け取ってトンズラするんじゃねえかってことだ。報酬を先に払うってことは、当然こっちはそういうリスクも考えなくちゃいけない」

 

 スケアクロウが威圧を発する。まるで地の底から這い上がってくるかのように、じわじわと足元に寒気が走る。逃がさないと主張するような闘気。

 

 「これは単純な契約だ。もう一度言うぜ。お前は依頼を手伝う。その報酬は30万ゴールド。そしてアタシは既に報酬を支払った。後はお前が債務を果たす番だ。実にわかりやすい“ルール”だな? そうこれはルールだ。お前も好きだろ、ルール」

 

 彼女はルールという言葉を強調する。なるほど、あのとき立ち聞きした内容だけで私の行動理念を読み取ったのか。

 

 私は真剣に、スケアクロウと向き合う。その目をしっかりと見据える。

 

 「ルールは守ります。契約書を書けというのであれば、言うとおりにします。そしてそれ以前に、私はあなたに恩義を感じている。このお金で私は大切な人を助けることができます。感謝しているのです。だから、私はあなたを裏切るようなことはしません」

 

 「お、おう……」

 

 スケアクロウの威圧が消えた。ポリポリと頭をかいている。

 

 「ま、まあなんだ……それならいいんだ、うん」

 

 カツリ、カツリ

 

 彼女は照れ隠しするように羽根付き帽子をずり下げた。しかし、私は見逃さない。彼女の頬がわずかに赤くなっていることを。既にデータの保存は完了した。抜かりはない。

 

 一悶着あったが、まずは私の用事から済ますことに決まった。例の飲食店へと向かう。その道すがら、依頼の内容について話あった。

 

 「あまり聞かれたくない話なんで、ちょっと人払いするぞ」

 

 そう言ってスケアクロウが威圧を発する。だが、先ほどに比べれば微々たるものだ。感じ取れるかどうかの量、しかしながら他者に不快感を与える絶妙な加減である。

 

 自然と人の流れが変わった。私たちを避けるように人が通り過ぎていく。私たちの特殊な出で立ちと不快感を催す威圧が相まって、近寄りにくい空気ができているせいだろう。これも魔技の一種だろうか。やはり、彼女の技からは学ぶべきことが多い。

 

 「簡単に依頼内容を説明すると、逃亡奴隷の捕縛だ」

 

 逃亡奴隷、その名の通り、主人のもとから脱走した奴隷である。脱走すること自体に罪はない。ただ、脱走奴隷に対して主人はいかなる罰を与えることも許される。

 

 また、脱走したからと言って解放奴隷になれるわけではない。きちんと登録された正規の奴隷であれば、行方不明になっても一定期間は持ち主の所有権が継続する。その期間を終えても所有者不在のまま奴隷身分は残り続ける。(違法奴隷の場合は脱走が成功すれば自由になれる)

 

 今回のケースは、違法奴隷ではなく認可された正規の奴隷である。

 

 「んで、なんで逃亡奴隷を捕まえるなんて下っ端の依頼が、Aランクのアタシに回って来たのかと言うと」

 

 「それだけ捕縛が困難な相手というわけですか」

 

 奴隷だから弱いということはない。戦うことを主目的とした戦奴もいる。そういった使い手になれば、脱走を成功させる者がいてもおかしくはない。

 

 「今回のターゲットはかなり特殊でな。まず、人間じゃない。魔族だ。種族はダークエルフ」

 

 「聞いたことのない種族です」

 

 「まあ、アタシも噂にしか聞いたことはなかった。密林に潜む闇の狩人。その黒い肌は夜闇にまぎれ、音もなく獲物を暗殺する。そして恐るべき毒使いだ。奴らが使う毒は千にも及ぶという」

 

 「暗殺者ですか。それは見つけ出すのが大変そうですね」

 

 「そう思うじゃん? 実際、見つけるのはそんなに難しくないんだ、これが」

 

 「使い手としては未熟、ということですか?」

 

 「そうだな、確かに未熟だ。というか、あれは典型的な魔術師メイジだな」

 

 「魔術師メイジ? 魔道師マギのことですか?」

 

 「そんな大層なもんじゃねえよ。最近は都会で流行ってるぜ、魔術師メイジスタイル」

 

 スケアクロウが言うには、武の鍛錬を積まずに血結技を習得した者をそう呼ぶらしい。血結技は個人の才能によって発現のしやすさに大きな差異がある。鍛錬によって発現を促す方法が一般的だが、突出した才の持ち主であれば少ない鍛錬で発現まで至る場合も確かにある。

 

 近年、この発現を効率よく導くための研究が進められ、“魔法学園”という教育機関まで出来ているという。そこで幼い頃より指導を施された人間は、一般人よりも格段に早く血結技を発現できるそうだ。

 

 「まあ、アタシに言わせれば、ただのモヤシ栽培所だけどな。魔道の極致は、心技体全ての向上と調和によって成されるものだ。ただ血結技が使えるだけの人間なんて、真っ当な武人の敵ではない」

 

 そのダークエルフが魔術師メイジだとすると、話を聞く限り、スケアクロウが手をこまねる理由が見当たらない。それとも、よほど強力な血結技を持っているというのか。

 

 「そうだ。敵がただの魔術師メイジだったら、わざわざお前の手を借りたりなんかしない。奴の血結技スキルはヤバすぎる。これでもし奴が真っ当な武人であったなら、アタシが勝てる見込みは万に一つもなかっただろう」

 

 スケアクロウにそこまで言わせる相手とは。そんな存在をどうやって奴隷として制御していたのだろうか。

 

 「なんでアレが奴隷として扱われていたのかは、アタシにもわからん。というか、依頼主から事前に知らされた情報に不備が多すぎる。あそこまで規格外の奴だとわかっていたら、こんな依頼誰が受けるもんかよ。だから隠してたんだろうが」

 

 スケアクロウは依頼の放棄も考えたようだが、放り出すにはあまりに危険な存在だった。そのダークエルフは人間に対して強い恨みを抱いているらしく、何をしでかすかわからない。何度か交戦したらしいが、捕縛には及ばず。まるで相手にならないほどの強さだという。

 

 なんとか足取りを追ってこの町までやって来たようだ。この町の近辺に潜伏している可能性は高い。いつどこで襲撃が起きても不思議ではない。思った以上に厄介な相手になりそうである。

 


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