★49話
話がまとまったところで、私たちは一旦協会内に戻った。一つの依頼を複数の冒険者が共同で受ける際は、チーム登録を行う必要がある。その手続きをするためだ。
「ってわけで、アタシとこいつで一時チームを組むから、よろしく」
「もっ、申し訳ありません! それには少し問題がありまして……」
「ああ? 何が問題なんだ?」
「その、アルター様は現在Fランクとなっておりまして、チーム登録制限があります。Aランク冒険者でいらっしゃいますスケアクロウ様とチームを組むことはできません」
「なんとかしろ」
「ええっ!? いえ、そう言われましても、規則ですのでぇ!」
「おいおい、Aランク冒険者様に逆らうわけ? 何もさあ、そこまで理不尽な要求をしてるわけじゃねえだろ。こいつの強さは見ての通り、むしろFランクにしておくのが馬鹿らしいくらいだ。規則に縛られすぎるのもどうかと思うぜ?」
「……わかり、ました。では、スケアクロウ様の推薦によりアルター様の実績を認め、Eランクへと昇格いたします。こちらの書類に必要事項の記入をお願いします……」
「めんどくせ。そっちで適当に処理しろ」
「おねがいしますぅ! どうかきにゅうをぉ!」
眼鏡の職員が机に頭をこすりつけながら頼みこむ。そこまで卑屈にならなくてもいいと思うが。
渡された用紙に目を通す。メンバーの名前と構成、各員の役割、使用武装、拠点など記入事項は多い。
「こんなもん名前だけ書いてりゃいーんだ。どうせすぐ解散する一時チームなんだし」
確かに必須記入事項は名前だけのようだ。それも免責事項に対する了承サインとしての意味合いが強い。スケアクロウが書類に署名し、用紙が私に渡される。
「……」
そう言えば、ゴーダさんは冒険者に強い憧れを抱いている様子だった。町に着いたらまず冒険者登録をしたいと話していた。そのときは一緒にパーティ登録しようね、と。
私はゴーダさんよりも先に冒険者登録してしまった上、初めてのチーム登録を見知らぬ女性と交わそうとしている。何ということだ。私の初めてを、こんな女に捧げてしまうというのか。
「な、なに見てんだよ……」
スケアクロウの鍛え抜かれた肉体美が私を惑わせる……いけない! 体は屈しようとも、心だけはゴーダさんのものでありたい。
よし、ここは操を立てる証を残しておこう。私は用紙に追加で書き込み、眼鏡の職員にそれを渡した。
「はい、確かに受け取りました。それではスケアクロウ様、カードをお預かりいたします」
「ん」
「はい、確かに。あ、アルター様のカードはこちらで新規発行いたしますので、そのままお待ちください」
「わかりました」
「では、手続きが終わるまでしばらくお待ちください」
眼鏡の職員が奥の部屋へと入って行った。時間がかかりそうなので、その間にスケアクロウは金庫からお金をおろしてくるという。
冒険者協会では有料で金庫を借りることができる。Cランク以上になると無料で口座を開設できるようだ。また、他の町の冒険者協会の共有金庫からでも、口座のお金をおろせる為替手形を発行してもらえる。
「ま、手数料がバカたけーけどな。ほれ、30万ゴールド」
スケアクロウはその為替制度を使って自分の口座からお金をおろした。Aランク冒険者の名声は伊達ではないようだ。これだけの大金を簡単に用意してくれた。依頼報酬の前金を受領する。
「ところで、なんで急にそんな金が必要になったんだ? お前の実力なら無理しなくてもこのくらい稼ぐのはわけないと思うけど」
「私の大切な方が借金奴隷になっています。その返済のためです」
「……なるほど、そういう事情か。まあ何にしても、金は払ったんだ。その分はしっかり働いてもらうぜ」
「もちろんです」
スケアクロウはそれ以上、こちらを詮索してくることはなかった。そうしているうちにチーム登録の手続きが終わったようだ。
「スケアクロウ様、アルター様、お待たせいたしました。チーム名『ゴーダさんファンクラブ』の結成承認が完了しました」
「は?」
職員からカードを受け取る。これが冒険者の身分証となるようだ。金属板を重ね合わせてできており、表面には薄く文字が刻まれている。冒険者ランクが一つ上がり、Eになっていた。
――――
名前:アルター
階級:E
所属:ゴーダさんファンクラブ(リーダー)
――――
――――
名前:スケアクロウ
階級:A
所属:ゴーダさんファンクラブ
――――
「こ、これ何? アタシがわけのわからん名前のチーム所属になってるんですけど」
「ゴーダさんファンクラブです」
「誰だよ!? てか、なんで勝手に名前つけてんだよ!? 一時チームだから名前なんかつけなくてよかったのに!」
「愛の証です」
「意味わかんねえよ!? おい、メガネ! 今すぐ取り消せ!」
「えーっ!? そ、それではもう一度、こちらの書類に必要事項を……」
「お役所仕事も大概にしろや! いいから今すぐ直せ!」
「そう言われましてもぉ!」
「その必要はありません。むしろ名誉です。受け入れてください」
「なにが名誉だぁ!? 見ろよこれ、ファンクラブ会員みたいになってるじゃねえか! どうしてくれんだ!」
「今は時間が惜しい。行きますよ、スケアクロウさん」
「待って! 頼むからこれ、どうにかして! アルター! アルタアアアアアア!!」




