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★48話―共闘

  

 スケアクロウとの闘いは泥仕合の様相を呈していた。

 

 彼女が使った血結技には驚かされた。どんな負傷だろうとノータイムで回復されてしまう。しかも、全く魔力を消耗した様子がない。回数制限など底が見えず、外部から何らかの触媒を必要としているようにも見えない。

 

 「『確率消去キャスリング』」

 

 「お前それ反則……ぐぼふあああっ!?」

 

 このように内臓に致命的な損傷を与えたとしても回復する。反則というならそれこそ反則だろう。さすがに頭部への攻撃については警戒しているようだが、そこには手が出しにくい。少々のダメージを与えたくらいでは回復してしまうし、逆に加減を間違えて破壊してしまえば再生できるか不明である。殺してしまっては30万ゴールドの話もなくなる。

 

 咽頭を潰して詠唱を封じてみたが、それでも血結技は発動した。おそらく自動発動型オート血結技スキルである。この型は、外部の魔装具に特殊な方法を用いて血結技の術式を刻みつけることによって使用可能となる。その魔装具さえ破壊してしまえば発動を阻止できるはずだ。

 

 そう思って、スケアクロウの体を防具を含めて隅から隅までしらみつぶしに破壊しているのだが、いまだに魔装具を発見できていない。

 

 「お、おに……お前、鬼すぎる……」

 

 また、彼女の体術にしても厄介であった。さすがは達人と言われるだけある。片脚が義足であるという不利を一切感じさせなかった。その闘い方は二足で地を踏み立つにとどまらない。

 

 どれだけバランスを崩そうとも、地面の上を転げ回ろうとも、隙を見せずに反撃に転じて来る。むしろスケアクロウは、あえて体勢を崩した状態からの奇襲を得意としていた。無様に地面を転がるように見せかけて、その動きは何らかの流派の理を感じさせる。

 

 「低姿勢から執拗にこちらの足元を狙うような攻撃を仕掛けてくるかと思えば、突然立ちあがりこちらの呼吸を乱す奇襲……守りというより、攻めというより、粘り。ひたすらに粘り、敵が隙を見せる瞬間を待ち続ける。さすがはAランク冒険者ですね。感服いたします」

 

 「それを全部見切りやがるお前に言われたくねえ……!」

 

 いや、全部見切ることはできなかった。最初のうちは翻弄され、少なからずダメージを受けた。

 

 しかし、既に彼女の行動に関するおおよそのデータ集積は完了している。それらのデータから次の行動を予測している。戦闘における予測蓋然性は実用化レベルにまで達していると判断してよいだろう。私に、一度見た敵の技は通用しない。

 

 「しかもお前、なんでそんなに奥義級レア血結技スキル使って魔力切れ起こさねえんだよ!?」

 

 それについてはお互い様ではないだろうか。つくづく、七魔剣とは規格外の存在である。

 

 

 時空加速式魔力ジェネレータ起動中……

 

 

 私の残存魔力については特に問題ない。今のところ消費量よりも回復量の方が上回っている。物理的な損傷に関しても、既に自己修復を終えた。継戦能力に支障はない。

 

 だが、負けはしないが勝てもしない。向こうは無限の回復手段を持っている。いくらダメージを与えようと倒れない。試合時間は無制限に設定していたのでタイムアップもない。まさに泥仕合であった。

 

 「おい……なんだよこの闘いは……」

 

 「異次元すぎてついていけねぇ」

 

 「あの弓使い……弓使い? とにかくあいつヤバすぎだろ。あのスケアクロウさんがサンドバッグ状態じゃねえか!」

 

 「しかし、スケアクロウさんもすごいぞ。ありゃ一体どういう奥義なんだ……!?」

 

 最初はうるさかった見物衆も、今では神妙な面持ちで立ち尽くしている。賭けどころの騒ぎではなくなった様子だ。

 

 さて、こうなった以上、敵を戦闘不能にする以外の方法で負けを認めさせる必要があるだろう。どうやら傷は回復しても精神的なストレスは残ったままのようだし、事後的に回復させる奥義であるため、傷を負ったときに感じる痛みは消せないようだ。それを利用してどうにかして敵の心を折れないだろうか。

 

 「まず、敵を拘束。その上で最大限痛みを与えるような拷問を。たとえば、爪の先から指をみじん切りにしていくとか……」

 

 「わーかった! わかった! もういい! もうやめだ!」

 

 「それは降参するということですか?」

 

 「違う! アタシは負けてねえ! このまま続けたってどうせ決着なんかつかないんだ。つまりノーカン! 引き分けだ!」

 

 えー、と観客から不満の声があがる。それをスケアクロウは威圧を飛ばして黙らせた。だが、不満を募らせているのは私も同じだ。ここまでしておいて、はいそうですかと簡単には認められない。

 

 「30万ゴールドの話をなかったことにする気ですか?」

 

 「それな……まあ、アタシも自分から決闘を持ちかけておいて、こんな結果で終わらせるのは気が引けるところもある。そこでだ。折衷案でいこう」

 

 「と言いますと」

 

 「最初に言ったよな? アタシが勝ったらお前に何でも言うことを聞いてもらうってさ」

 

 「何をさせる気ですか」

 

 「……だから、なんでお前ちょっと嬉しそうなの?」

 

 彼女が私に要求したかった内容とは、自分が現在受けている依頼の手伝いをしてほしいというものだった。

 

 「Aランク指定依頼の手伝いをしろと?」

 

 「そういうこった。んで、その見返りとして、アタシがお前に30万ゴールドを払ってやる。これでどうだ?」

 

 「現金前払いでお願いします」

 

 「……おーけぃ。交渉成立だ」

 

 私たちは練習場の真ん中で手を取り合った。自然に、観客たちから拍手があがる。なんとか今日中に30万ゴールドを工面することができそうだ。一安心である。

 


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