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46話―竜の秘薬

ついに始動する竜の力。刮目せよ、これが竜人の戦い――

ゴーダ「格の違いを教えてやろう」



 

 「御用改めである!」

 

 数人の兵士たちが一軒の大衆食堂へと押し入った。既に店じまいしているようだが、兵士たちはお構いなしにドアを蹴り破り、ぞろぞろと店内に踏み込む。

 

 「な、なんなんだあんたら!?」

 

 「ここの店主だな……御用改めであるぅ! おとなしく調べを受けよ!」

 

 店主の中年男性は突然のことに驚くばかりだ。とっさに武器を持ち出して腰を浮かせたようだが、相手がこの町の兵士とあっては、まさか武力で抵抗するわけにもいかない。

 

 「いったい何の取り調べです?」

 

 「この店には、人身売買による違法奴隷の取引をした疑いがかかっている」

 

 「っ!? 何を根拠にそんなことを……」

 

 

 「くくく……何を根拠に? しらじらしいなあ、マスター」

 

 そしてそこに満を持して俺、登場。余の顔、見忘れたか。こちらを見て愕然とするマスター。

 

 「この者から被害届が出されている。聞けば、トマトスープの代金が払えなかっただけで奴隷契約を強引に結ばせたらしいな。しかも、そのスープ一杯の価格が30万。ははは、そんなトマトスープがあるというのなら、是非食べてみたいものだ。どれ店主、一つこの場で作ってみせよ。んん~?」

 

 「そ、それは……」

 

 「この少女は御領主キーグロ様のご病状を憂い、良薬を献上すべくはせ参じたモブーン家の客人である。わかるか、お前には恐れ多くもモブーン家の客人に対して詐術を用い、奴隷に落した嫌疑がかけられている。キーグロ様直々の署名による捜査令状がここにあるのだぞ?」

 

 「だっ、断じて! そのような事実はありません! そうだ! ぜひとも、ウランギル小隊長へご確認ください! かの御仁ならば、この店の潔白を証明してくださるはずです!」

 

 「なぜ、ウランギルの名が出てくるのかなぁ? この取り調べの権限は全てこの私、アサイク捜査兵長に一任されている。奴には関係のないことだ。それともぉ? 私には、まるで奴とお前が蜜月の関係であるかのように聞こえるのだが? 賄賂でも渡していたのかね?」

 

 「くっ……!」

 

 滝のような汗を流すマスターの様子を見て、俺は胸がすく思いだった。いいね、権力サイコー!

 

 キーグロから許しを得た俺は、ドラゴンの血奪還のチャンスをもらった。そう、奪還である。俺が血を奪われた設定で話を進めてしまったため、そういう流れになってしまった。

 

 どうやって話を収拾しようかと悩んだ俺だったが、そのとき圧倒的ひらめきが走る。奴隷に落されたときに奪われたことになっているのだから、あのトマトスープ店に奪われたことにしてしまえばいいのである。これならばうまく口実を作れると同時に、俺の純情な食欲をもてあそんだ店主に仕返しができる。一石二鳥である。

 

 すぐに事情を説明、ドラゴンの血は例の店にまだあるかもしれないと報告する。すぐに捜査隊が手配され、こうして俺たちはこの店にお邪魔しにきたわけである。

 

 「埒があきませんね。どうせこの店には私が持っていた最上級魔法薬、『ドラゴンの血』がまだ残されているはずです! アサイク様、さっさとガサ入れを始めましょうぜ!」

 

 「うむ、そうだな」

 

 ちなみにこの捜査隊のリーダーであるアサイクは、あの検問所で俺が捕まったときの兵士であった。あの金目の物を根こそぎ徴収していった最悪兵士である。こういった任務は得意そうだ。あのときはただの腹立たしいヤツとしか思わなかったが、今となっては頼もしい味方である。

 

 「『ドラゴンの血』……? いいですよ、ああ、いいですとも! うちは奴隷取引なんかしていませんし、当然取引の証拠なんてものもありません。調べたければ好きなだけお調べください」

 

 店主は開き直ったように両手をあげて無抵抗の意を示す。さすがあれだけ阿漕な商売をしているだけあり、すぐに見つかるような証拠をこの場に残してはいないようだ。だが、それはこちらも想定済み。舐めるなよ!

 

 「あー、なんかこっちの方から怪しい魔力を感じるー!」

 

 「ちょ、勝手に奥に入るな!」

 

 俺はカウンターを乗り越えて厨房の奥へとダッシュする。そして懐に忍ばせておいた小瓶を取り出した。

 

 この小瓶はザコッカスに買ってもらった香水の瓶だ。その中身を俺の血と入れ替えておいたのさ。高級そうなデザインの瓶だったので、貴重なポーションっぽい雰囲気がにじみ出ている。

 

 血の入れ替え作業はトイレで行った。監視の兵士に見張られていたので、トイレの中くらいしか人目につかず行動できる時間がなかったのだ。詰め替え作業はなかなか大変だった。小さな瓶だが、普通に献血するくらいの量を絞り出さなければならない。

 

 しかも、俺の体の頑丈さがあだとなる。肌に傷がつかないのだ。思いっきり歯で噛みつくことでようやく傷をつけることができた。これが痛いのなんのって。しかも超再生力ですぐに傷がふさがってしまう。小瓶一本の量を採取するだけで何度も噛み傷を作らなければならなかった。

 

 そんな俺の苦労の結晶、特製ポーション瓶をこっそりと取りだした俺は、誰にも気づかれないように厨房の棚の上に乗せる。くらえっ!

 

 「おい! 今何をした! 何をそこでコソコソしている!?」

 

 「あー! 見てくださいアサイク様! なんかここらへんが怪しいですよ!」

 

 ミッションを完璧に成功させた俺は、さも今気づいた風を装い、アサイクを呼び出す。砂糖や塩、コショウなどの調味料の瓶たちに混ざって、その中で明らかな存在感を放つ特製ポーション瓶。

 

 「なんだこれは!? 怪しい……私の三年五カ月に渡る捜査兵としての直感が告げている、これは……あやしい!」

 

 さすがアサイク捜査兵長、誰がどう見ても怪しいと思える小瓶に目をつける。手にとって、ためつすがめつ回し眺める。

 

 「はっ、これはもしや……もしやこれは!?」

 

 何かに気づいた様子のアサイクは、おもむろに瓶のふたを開けた。手で煽って内容物の臭いを嗅ぐ。

 

 「すんすん……この臭いはやはり、間違いない。ぺろっ!」

 

 そして少量を手に取り、ためらいなく舐めた。素人目から見ても大丈夫なのかと心配になる熟練の捜査手順。さすがは捜査兵長アサイク。

 

 「これは……これは……! おっ、おお……おおおおおおおおおおお!!」

 

 突如として奇声をあげ始めるアサイク捜査兵長。そしてなぜか鎧を脱ぎ始めた。中に着ていた服まで脱ぎ捨て、上半身裸になる。

 

 「おっおっおっおっおっ!」

 

 そしてその場で高速スクワットをし始めたではないか。さすがにちょっと不安になってくる。もしかして俺の血を飲んだせいで頭がパーになってしまったのではないか。たった数滴程度の量しか飲んでいなかったが、それでも原液投与はまずかったのでは。

 


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