★45話
視線が交錯する。冷笑を浮かべた少女の表情は変わらない。接近を許してなお、そこに焦りは全くなかった。私の手を止めた上で反撃に転じてくる。空いた方の手から突きが繰り出される。
私はそれを弾いた。だが、片足立ちの不安定な体勢からの防御によりバランスを崩す。しかし、その崩れ落ちる上体の勢いを利用し、敵を引きこむように倒れ込んだ。そのまま投げへと転じる。後方の地面へと敵を叩きつける。
だが、敵も無防備ではない。こちらの投げに合わせて脇の拘束を解き、自ら飛んで着地する。流れに逆らわない流麗な受け身により、敵は接地の衝撃を殺しきる。それを予測していた私は間髪入れずに脚を薙いだ。地を這う蹴りが敵を捉える。
その蹴りもまたかわされた。敵は受け身の体勢から転がり、腕の力だけで跳躍。地面すれすれを振り抜かれる蹴りを飛び越えた。畳んだ体を空中でひねり、脚から着地。隙なく距離と構えを取る。
「『確率算出』」
そしてもう何度目かわからない驚愕に襲われた。濃密な闘気が怒涛のように押し寄せる。
少女は弓を持っていない。何の武器も持っていないのだ。なぜ、その血結技が使える。それは弓を用いた魔技ではないのか。
前提からして認識を誤っていた。私が魔剣使いでありながら剣士でないように、この少女も弓を使いながら、生粋の弓使いではない……!
「させん……!」
少女にあの奥義を使わせてはならない。妨害するべく追いすがる。
「ガッ!?」
だが、その途端に体が言うことを聞かなくなった。急激な疲労感がのしかかってくる。『着火瞬炎』の効果が切れたのだ。強化の代償である身体能力の低下。その事実は、私にもう一つの絶望を突きつけた。
これまでの攻防は筋力を強化した状態で行われたものだったのだと気づく。この七魔剣の一人である私が、さらに身体能力を向上させた状態で挑み、そして敵はそれを難なくさばいたというのか。
負ける、この私が……?
脚が狙われている。義足を折られ、さらに生き残ったもう片方の脚まで奪おうというのか。その奥義の気配は死刑宣告にも似ていた。どこを狙うか明瞭に提示し、そして確実に標的を破壊する。
少女の片脚に闘気が集中していた。早い。弓で狙われたときよりも圧倒的に早く、奥義が完成していく。発動までに時間を要するという私の予想は裏切られた。もはや間に合わない。死の気配が収束していく。
「『確率確定』」
そして死神の鎌は振り下ろされた。
少女が軽く助走をつけた飛び蹴りを放つ。隙だらけの大ぶりの一撃。だが、かわせない。防げない。逃げられない。少女の体そのものが一本の矢と化し、私を貫いた。
「ガアアアアアァッ!?」
脚を蹴り砕かれる。骨が折れ、あらぬ方向へと曲がっていく。焼けるような激痛が走った。もう立てない。動けない……
倒れ伏す私を、少女は淡々とした表情で見下している。
「では、試合は私の勝ちということ……っ!?」
その痛みを噛み殺し、寝転がりながら腰をひねった。ブチブチと筋が千切れ、骨が飛び出した脚を鞭のように振るう。
「『火燃貫通』アアアァァッ!」
神経も焼けついた物言わぬ片脚を、さらに血結技を使って強化し、少女の体に叩きこむ。これはさすがに予測できなかったのか、少女はとっさに防御するも衝撃を捌ききれずに後方へ飛ばされる。
痛いなんてものじゃなかった。ボロ布のようにねじ切れた自分の脚を見る。ただでさえ大きな傷を負っていた場所に闘気を使って思い切り振りまわしたのだから当然の結果だった。血が吹き出る。あっという間に赤い水たまりができていく。歯を食いしばった。砕き割れるほどの力で苦痛を噛みしめ、耐え忍んだ。
「なんでそこまでって顔してるな? 勝ったと思っただろ、ええ? ここまでやれば、勝ったと思うよなぁ……?」
この怪我は当然の結果である。少女の力を甘く見て、自分の力を過信した結果である。ならば甘んじて受けとめよう。そして、敬意をもって讃えよう。この少女は達人だ。私が“全力で闘うに値する”。
「カカッ! カカカ! クァーカカカカカカカカ!!」
七魔剣の強さを教えよう。数多の死線を潜り抜け、幾多の強者との死闘の果てに、なぜ私がここに立つのか、その理由を教えよう。
「心して聞け。我が魔剣に宿りし秘儀の名を……」
少女が動く。私の闘気に気づいたのだろう。とどめを刺そうと迫りくる。
私は剣士ではない。だが、魔剣を使う。偉大なる魔道師が生み出した七つの魔剣が一つ。その名は『ミスリル』。
「『永劫回帰』」
奥義が発動する。一瞬の間さえない。私の体は“元に戻った”。
「……!?」
「クヒャッ!」
私は少女の攻撃を軽々と受け止めた。今の私にはそれができる。千切れた脚も、失った血も、疲労も、体力も、消費した魔力も、へし折れた義足に至るまで、全てが元に戻った私には可能なことだ。
至近距離から互いに睨み合う。いや、私は狂笑し、少女は無表情で応えた。この奥義を目にして、一瞬の動揺で済ますか。これは手強い。双方、弾けるように後退し、構えを取る。
「さあ、第2ラウンドを始めるぞ。いくらでも受けて立とう。お前はいつまで付き合ってくれるのかな?」




