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★40話―死鳥払い

 

 「ああのののっ!? お、お怒りはごもっともです! あなた様のような実力者が、わたくしめごときの引退冒険者からとやかく説教されるなど、まさに釈迦に説法! 御気分を悪くされるのもわかります! 大変申し訳ありませんでした!」

 

 「では、森で狩りをしていいのですね」

 

 「いや、それは……げ、現在、原因不明の魔力異常に伴う非常事態勧告が出されておりまして、調査員などの特例を除いて一般冒険者の森への立ち入りは禁止されておりまして……」

 

 「Fランク冒険者では入れないと」

 

 「ひいぃっ!? 入れるとか入れないとか、そういった判断はわたくしの職務権限を逸脱しておりましてぇ! もしかしたら入れるかもしれませんけどぉ! それはわたくしの口からは何ともぉ…」

 

 「はっきりしてください」

 

 「すみませんっ(ゴンッ)! すみませんっ(ゴンッ)! すみませんっ(ゴンッ)! すみませんっ(ゴンッ)!」

 

 森で生活していたときは闘気による威圧を使って魔物の行動をコントロールしていたが、そのシステムは人間社会においても適用されるらしい。つまり、だいたい闘気を放っておけば何とかなるようだ。

 

 しかし、目の前の職員は高速で頭を机に叩きつけながら謝罪するという謎の行動を繰り返すことしかしなくなった。まだ威圧が足りなかったのだろうか。

 

 「な、なんだあの女……化物だ……!」

 

 「ひっ!? こっち見てる! 殺される……!」

 

 周りで騒いでいた冒険者に視線を移す。対象を特定せずに無差別に闘気を放ったので、萎縮させてしまったようだ。目が合っただけで逃げ出そうとしている。

 

 我先にと出口に向かって駆けだした冒険者だったが、その玄関口からちょうど人が入ってくるところだった。

 

 「よぉ、何をそんなに慌ててるんだ?」

 

 「どけ! 今、中にとんでもねえ奴が……」

 

 しかし、逃げ出そうとしていた男は急に口をつぐんだ。玄関口をふさぐ人間の異様さに気づいたのだ。

 

 まず目につくのはボロボロのコート。ところどころ破けたり大きな傷が入っている。頭には、軽装の大きな羽帽子。そして、義足。その人は片脚のふとももから下が無かった。一目見て義足とわかる金属製の一本杖が脚の代わりとなっている。

 

 コツ、コツリ。コツ、コツリ。

 

 手には鞘に入れた剣を持っていた。それを杖代わりにして、義足の脚を引きずるように歩く。仕込杖というのならまだわかるが、杖代わりにしている剣はただの長剣だ。剣の使い手にしては武器への扱いがぞんざいである。

 

 その特徴的な風貌に、逃げようとしていた冒険者はあっけにとられて固まっていた。周囲から集まる視線をものともせず、義足の男は協会の中へと入ってくる。

 

 「だいたい話は聞かせてもらった。随分、威勢のいい新人がいるみたいじゃねえか、ええ?」

 

 私は気づく。この人は女性だ。その風貌と、平均的な男性以上の長身から見誤っていたが、顔つきと体形は女性のものだった。まだ若い。その目つきの鋭い顔立ちは、燃えるような癖のある赤毛と相まって獣のごとき野生味を感じさせる。

 

 体格はかなりガッシリしている。鍛え上げられた筋肉の鎧は、歴戦の戦士の貫録を見せつける。美しい女性だった。ゴーダさんのようなたおやかさ、可憐さは全く持ち合わせていないが、健康的で情熱的な肉体美である。実に美しい……いい……

 

 「へえ、なかなか挑発的な闘気をしてやがる。顔に似合わず苛烈だな」

 

 「お、おい! 誰か知らんが、あいつに関わるのは止めとけ! あの殺気がわからないのか!? 殺されるぞ!」

 

 「い、いや、待て……その義足、赤髪の大女……まさか、あの、す、スケアクロウなんじゃ……」

 

 私の闘気を前にしても、その長身女性はひるむ様子を欠片も見せなかった。むしろ、不敵な笑みを浮かべてこちらを睨み据えている。その勇ましい表情もまた素晴らしい。何枚か画像をプライベートフォルダに保存しておきましょう。

 

 私たちは互いに笑みを絶やさず、双方を見つめ合う。

 

 「スケアクロウ!? あの七魔剣の一人という!? なんでそんなビッグネームが、こんな片田舎の町に!?」

 

 「七魔剣……偉大なる魔道師マギが作り上げし、外法を宿した殺戮兵器。その剣に認められた七人の達人は、世界最強クラスの実力を持つ。その出自は数多の謎に包まれているが、その中でもスケアクロウは比較的表舞台に姿を現すことで知られている。なにせ、彼女は数少ない冒険者最高ランク『A』の保持者。最も有名な彼女の武名は、かの『ケナグル決戦』にて轟いた。二千の先発兵を前に単騎で敵陣に突撃、そのことごとくをたった一人で斬り伏せ、壊滅にまで追い詰めたという伝説を持つ。その禍々しい戦いぶりに、腐肉食らいの死兆鳥さえ戦場跡には一匹たりとも近づかなかったことから、付いた異名は『死鳥払い』。まさしくあの人は、『死鳥払いのスケアクロウ』だ!」

 

 「お前詳しいな!?」

 

 「この程度は冒険者としての常識だ。もっと詳しく知りたければ、協会発行の『月刊アドベンジャーナル』を定期購読して、君もライバルに差をつけるんだな」

 

 なにやら解説口調の冒険者が話している。その情報によると、このスケアクロウという女性は『達人』であるらしい。私も達人と手合わせした経験はない。心してかかる必要があるだろう。

 


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