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38話―取引

 

 この後どうしようか。俺が何とか言い訳を考えて部屋から出ようと考えていると、ベッドに寝ていた老人が体を起した。執事は慌ててそれを止めようとする。

 

 「いけません! ご無理をなされては!」

 

 「今日は調子が良い……少しくらいなら外を歩けそうだ……ゴホッゴホッ」

 

 「そう言って、先ほども発作を起こされたばかりではないですか!」

 

 「今日は、調子が……ゴホゴフゲハッ! ケバブッ!」

 

 「キーグロ様!?」

 

 「ギブッ! ギブギブッ! ウッホッ、ウホッ! ウホッ! ウホホーッ!」

 

 「キーグロ様、お気を確かに!」

 

 崩れ落ちるキーグロなる老人を、執事の男が抱え支える。どうやら老人は病気にかかっているようだ。

 

 「放せ、セバスチャ……はぁはぁ……私は、息子の暴走を止めねばならん……」

 

 「そのお体では無理です! どうか、今は療養にご専念くださいませ。ザコッカス様を止めるのはそれからでも遅くは……」

 

 「気休めを申すな! この病がもう治らぬことは私自身が一番良くわかっている……今、立ち上がらねばならんのだ。少しでも体力が残っている、今、やらねば……」

 

 「そのようなことはありません! このセバスチャ、必ずやキーグロ様のご病気が完治すると信じております! あなた様は行き倒れていた私を助け、今の身分を手にするまで応援してくださった……その御恩をまだ返せておりません! あなた様が失われるなど、ありえないことです……どうか、どうか……」

 

 「セバスチャ……」

 

 「キーグロ様……」

 

 ┌(┌ ^o^)┐

 

 いやいや、のんびりと観劇している場合ではない。なんかお取り込み中みたいだし、この隙にこっそり逃げよう。

 

 それにしても話を聞く限り、このキーグロという人はザコッカスの父親らしい。つまり、前領主。病気で領主を引退したという噂は本当だったのか。いや、まだ引き継ぎはしてないんだっけ。勝手にザコッカスが領主を名乗ってるだけか。でもかわいそうだけど、キーグロさんの容体を見るに、ザコが正式な領主になるのも時間の問題なのかもしれない。

 

 なんとかしてあげたいと思う気持ちがないわけではないが、今の俺は他人の心配をしている余裕なんてない。ザコをぶちのめしてしまった以上、その父親とも余計な関わり合いは持つべきではないだろう。うん、逃げよう。

 

 「現在も方々に手配し、良質な薬を集めています。キーグロ様の病に効く薬もじきに見つかるはずです」

 

 「焼け石に水としか思えんが……魔法薬の調合には特殊な触媒が必要になると聞く。それもこれほどの大病を治すほどの触媒となれば、そう簡単に見つかるとは思えん」

 

 「目下、全力をあげて捜索中です……」

 

 ドアに手をかけ、部屋の外に出ようとしていた俺は二人の話を聞いて、ふと気になった。

 

 ファンタジー小説とかRPGに登場するドラゴンは、相応に強い敵として設定されていることが多い。当然、倒したときの経験値とか、ドロップアイテムもうまい。竜のウロコでできた鎧とか、竜の牙から作った剣とか、レアリティの高い武器の素材になったりもする。

 

 そこで気になったのが竜の『血』だ。たとえば、これは竜ではないが、人魚の血を飲むと不老不死になるという伝説がある。RPGでも『○○の涙』みたいな回復アイテムが出ることもあるし、ひょっとしたら竜の血も同じように使えはしないだろうか。

 

 「あのー、ちょっと聞きたいのですが……その魔法薬の触媒って、ドラゴンの血とか使えませんか?」

 

 駄目もとで聞いてみた。部屋の空気と化していた俺が、いきなりそんなことを言い始めたものだから不審な目を向けられる。

 

 「ドラゴンの血なんてものが本当にあれば、どんな不治の病だろうと一瞬で治療できることでしょう。そんなものはお伽噺の中でしか手に入りませんがね」

 

 セバスチャが馬鹿にするように言い捨てた。これは少し、希望が見えてきたかもしれない。

 

 俺は今まで逃げることばかり考えていたが、このままこの屋敷から脱出できたとしても問題は何も解決しない。指名手配され、犯罪者として一生追われ続けることになるかもしれない。そんな気の休まらない人生は嫌だ。

 

 だったらここで一発、賭けにでるべきではないか。俺の体には竜の力が宿っている。ならば、俺の血液にも竜の力が宿っているかもしれない。龍神パワーで幸福招来である。その力でキーグロの病気を治して恩を売る。これなら窮地を打開できるかもしれない。

 

 もし俺の血に何の治療効果がなかったとしても、いずれにせよどうせ極刑は免れないのだ。だったらリスクを気にする必要なんてない。やるだけやって、駄目そうならそのときに逃げればいいのだ。

 

 「ドラゴンの血、持ってます!」

 

 お前は何を言っているんだ、という目を二人から向けられた。そりゃそうだ。今の俺のうさん臭さときたら、あのターバン野郎と並ぶことだろう。

 

 「そうですか。では、そのドラゴンの血とやらを見せていただけませんか。今、ここで」

 

 セバスチャが良い笑顔を浮かべて切り返してくる。100%、こちらを信用していない目だ。こちらとしては勢いで先走ってしまったが、ここからどうすればいいのか全くのノープランである。

 

 「えーっと、それはー……今は持ってません!」

 

 俺の血がドラゴンですと言いかけたが、そんなことを言えば余計に不信感を引き上げるだけだ。仮にそれを信じてくれたとしても、「こいつの血すげえじゃん。よし捕まえて搾り取ろう」なんて話に発展したら嫌すぎる。

 

 「……では、それはどこにあるのですか?」

 

 セバスチャが肩をすくめながら呆れたように問いかけてくる。どうする。なんて言えばいいんだ。

 

 「それは……取られたんです! 奴隷になったときに奪われまして!」

 

 普通に考えて、ドラゴンの血なんてレアアイテムを何で奴隷が持ってるの? という話になるだろう。だから、自然な流れを考えるなら奴隷になる前から所持していたことにした方がいい。でも、奪われたから今はない、と……

 


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