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★34話―冒険者協会

 

 ゴーダさんの置かれている現状は理解した。ならば、可及的速やかに金策を講じなければならない。ゴーダさんが情欲にまみれた男どもの性のはけ口にされるなど、考えただけで集積回路の使用率が跳ね上がりそうだ。

 

 今すぐ娼館に乗り込みたい気持ちを抑え、資金の調達を優先する。今日中にも目標金額を集めたい。集めなければならない。できれば夜になる前に。

 

 しかし、情報収集の結果、30万ゴールドとは一般的な平民家庭の年収に匹敵する金額であるらしい。これを合法的に獲得する手段は限られてくる。金銭は労働によって得られる。まずは働き口を探すことにした。

 

 だが、私のように公的な身分の保障がない人間の働き口は非常に限定されていることがわかった。その一つが娼婦である。

 

 なぜ私が薄汚い男どもと褥を共にしなければならないのか。常識的に考えて、性交渉は女性同士で行うものだろう。この町には変態があふれ返っているらしい。母上が言うとおり、人間の男は頭の狂った異常性癖者ばかりだ。

 

 私の心理的抵抗を除外したとしても、娼婦の仕事で1日30万ゴールドを稼ぎあげるのは現実的ではない。となると、残る仕事は一つしかなかった。

 

 冒険者だ。その仕事内容を一言で表すなら、何でも屋。冒険者協会という場所に寄せられた依頼をこなして報酬を得ている。薬草などの素材の採取や、魔物の討伐、護衛任務など依頼の種類は幅広く、中には一件で高額の報酬を得られる依頼もあるらしい。しかも、身分を問わず、誰でもなれるという。

 

 詳しい話は冒険者協会に行けば説明してもらえるだろう。さっそく向かうことにする。

 

 * * *

 

 「冒険者登録をお願いします」

 

 協会にて、登録申請を行う。受付にいた職員は、神経質そうな顔をした眼鏡の男だった。私の姿を見て、含みのあるような視線を向けてきたが、特に何か言われることもなく手続きは終わった。

 

 「こちらが仮冒険者証明証になります。紛失しないように」

 

 渡されたのは質の悪い紙で作られたカードだ。私の名前が記載されている。その横に『F』と表記されていた。

 

 「仮冒険者?」

 

 「Fランクは仮冒険者試用期間です。実績を持たず、初めて登録された方はFランクからのスタートとなります。受けられる依頼にも制限があります。詳しくは冒険者協会の利用規約及び、個別の依頼書をご覧ください」

 

 それだけ告げると、職員は忙しそうに手元の書類を整理する作業に戻った。指示された通り、壁に掲示されている利用規約文書を一読にて熟読。依頼書に目を通していく。

 

 はっきり言って、Fランク冒険者が受けられる依頼はほとんど雑用と言っていいレベルのものしかなかった。賃金は少なく、それでいて時間的にも拘束されるものばかりだ。

 

 その傾向を見るに、Fランクだけ特別にホワイトリスト方式で依頼が選別されているようだ。初心者が、魔物討伐などの危険な依頼を受けないようにするための措置だろう。Eランク以上になると比較的自由に依頼を受けられるようになっている。

 

 ただし、中でも高額の報酬がつくような依頼は、依頼主の方から冒険者に対してランクの指定を求めて来るものが多い。危険な戦闘が予想されるものや、専門性の高い知識を求められるような依頼がそれに当たる。

 

 いずれにしても、Fランクのままでは目標金額を今日中に捻出することなど夢のまた夢だ。早急にランクアップする必要がある。規約によれば、FランクからEランクへの昇格は、その冒険者の依頼達成評価状況から職員が判断するとなっている。私は眼鏡の職員に質問してみた、

 

 「具体的に何件の依頼を達成すればEランクへ昇格できるのですか?」

 

 「はい?」

 

 眼鏡の職員は、手元の書類から目を離さずに応答する。

 

 「それは当協会の職員が、その冒険者の依頼達成状況や普段の素行などから総合的に能力を評価し、基準に達したと判定された場合に昇格が認められます。依頼達成数だけが評価基準ではありません」

 

 「では、その具体的な評価基準について教えてください」

 

 「お答えできません。試験問題のように答えが決まったものではありませんし、具体的な基準を公開したところで、それをクリアするためだけに場当たり的な努力をするような冒険者ではその能力を正当に評価できません」

 

 「では、現在掲示中のFランク依頼を全て達成したとしても、Eランクに昇格できないこともあると?」

 

 「……そんな質問をしている時点で、あなたに昇格の資格はありません。まずは何か適当な依頼を受けてみてはいかがでしょうか。仕事の邪魔です」

 

 眼鏡の職員はこちらの言葉をシャットアウトするように書類に向き合っている。

 

 「適当な依頼を受けると言っても、それで昇格する保障が得られない以上、無駄な時間を費やしてしまう可能性があります。効率的ではありません」

 

 「……」

 

 「私は戦闘力について、魔物討伐依頼を受けるに十分な能力を持っています。そこで代案なのですが、掲示されていたCランク指定依頼に『夜噛蟲の森』の魔物から採れる素材収集というものがありました。この依頼を受けることはできませんが、私が個人的にこの素材を集め、協会に持ち帰ったとしても事後承諾的に依頼を達成したことにはならないのでしょうか。あるいは、その素材の買い取りなどはしていただけませんか」

 

 「はぁー……」

 

 職員が机上の書類から顔を離し、かけていた眼鏡をはずした。

 

 「物分かりの悪い新人だ」

 

 職員の体から気の波が発せられた。視線を向けられる。闘気による威圧が、私に向けられている。

 


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