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27話

 

 それから1時間後、俺とインケ様は再びマダムの部屋へとやってきた。

 

 「どうしたんだい……何かあったのかい?」

 

 インケ様は疲れ切った表情をしている。八の字眉がその角度を極めていた。その情けない表情を見たマダムは顔をしかめる。

 

 「無理です……」

 

 「は?」

 

 「この女を躾けるのは無理です……」

 

 少しさかのぼって、インケ様による教育がどのようなものだったか振り返ってみよう。

 

 * * *

 

 『さて、処女のお前にはまず男の体に慣れさせるところから始めるか。こいつの相手をしてもらおう(ボロンッ)』

 

 『無理です』

 

 『何だと!? 口答えしてんじゃねえぞ!』

 

 ビシィーッ!(鞭で叩かれる)

 

 『いたいいたい』

 

 『思い知ったか! 俺に逆らうな! お前は言うとおりに命令をきけばいいんだ! わかったならさっさとやれ』

 

 『無理です』

 

 『何だと!?』

 

 ビシィーッ!(鞭で叩かれる)

 

 『いたいいたい』

 

 『思い知ったか! わかったならさっさとやれ』

 

 『無理です』

 

 『何だと!?』

 

 ビシィーッ!(鞭で叩かれる)

 

 以下、エンドレス。

 

 * * *

 

 「殺すつもりで闘気を込めた一撃をかましてもビクともしません……相当な手練れです……」

 

 「そんなバカな話があるかい」

 

 「本当なんです! 岩でも殴っているかのような手ごたえでして! もしやこの娘、噂に聞く硬質の秘義を極めたという『土蜘蛛』一族では……」

 

 鞭で叩かれるというバイオレンスな光景から反射的に「痛い」と口に出してはいたが、実際は毛ほども痛くなかった。

 

 今まで状況に流されるままにされてきたが、いい加減我慢の限界だ。これが社会の厳しさなんだとか、騙される方が悪いだとか、そんな大人の都合を押しつけられたところで納得なんかできるわけがない。

 

 嫌なものは嫌だ。娼婦の仕事をする気は毛頭ない。体は女でも、精神は男なのだ。仮に身も心も女だったとしても、こんな阿漕な方法で勝手に働かされるなんてお断りだっただろう。

 

 マダムから責めるような視線を向けられる。くぅっ、眼力ではあちらが上か。しかし、こちらも退く気はない。精一杯、抵抗の意思を込めて見つめ返す。

 

 「……わかった。何か他の手を考えよう」

 

 とりあえず、今回は俺の粘り勝ちで意見を通すことができたようだ。

 

 * * *

 

 ひとまず、娼婦が共同生活を送っているという棟にやってきた。今日からここで暮らすことになるらしい。嫌だと言おうとしたが、ギンッ! と、マダムから強烈な視線を向けられてしまったために言葉が引っ込んだ。

 

 部屋の中には二段ベッドがこれでもかと詰め込まれていた。そのベッドの人数分、この部屋で寝泊まりしているのだろうか。すし詰め状態である。

 

 「新入りだ。今日からここで暮らすから、世話してやんな」

 

 それだけ言って、マダムは立ち去る。部屋の中には何人か、女性の姿があった。興味深そうにこっちを見て来る人もいれば、何か手元の作業に没頭している人もいる。

 

 「ほら、そんなところに立ってないでこっちに来なよ」

 

 「あ、どうも……」

 

 一人の女性が声をかけてくれた。俺より年上っぽい。この娼館に来てからというもの気が休まらなかったので、人のよさそうな笑顔を見せてくれた女性の様子に、ちょっとだけほっとする。

 

 その人はベロニカと言う名前だそうだ。ごく普通の女性というか、まともに話が通じる相手であり、今の俺にとっては大変ありがたい存在である。娼館のあれこれについて教えてくれた。

 

 この部屋にはベッドがいっぱいあるが、実際に暮らしている人はそれほど多くないらしい。住んでいるメンバーの入れ替わりは激しく、つい先日も娼婦が一人、性病にかかって引退したと聞かされた。いきなりヘビーな話を聞かされてギョッとする。その引退した人がその後、どうなったのかについてはとてもじゃないが聞けなかった。

 

 基本的に、身の回りの生活全般は班ごとに役割分担をローテーションして娼婦たちが自ら行っている。許可なく館の外に出ることはできない。班の誰かが規律違反を起こせば連帯責任が課される。軍隊かよ。話を聞かされるうちに気が重くなってくる。

 

 「最初は慣れないことばかりだと思うけど、えーっと……名前はなんて言うの?」

 

 「ゴーダです」

 

 「変わった、名前だね……わからないことがあったら教えてあげるから頑張って。ゴーダはすごく美人だからすぐお客さんがつくと思うよ」

 

 嬉しくないフォローに苦笑いを返す。正直言って、ベロニカさんと話をしている間も、頭の中ではこの館からいつ逃げ出そうかということばかり考えていた。

 

 想像以上に娼婦の暮らしぶりというものは過酷だ。そのほとんどが借金のカタに体を売った女性であるようだ。ベロニカによると、それでも娼館で働ける環境は恵まれたものだという。何の後ろ盾もない野良娼婦は客の男から金を払ってもらえないどころか、殺されることすらあるという。聞いているだけで気が滅入る。

 

 「あ、もうすぐお昼ご飯だ。食堂に行こっか」

 

 「ごはん!?」

 

 だだ下がりだった俺のテンションが一気に急上昇する。まあ、そうだな。腹が減っては戦はできぬと言うし、ゆっくりご飯でも食べて落ちついてからから考えるとしよう。

 


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