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25話―レッツ強制労働

 

 異世界転移系の小説だと、最初にたどり着いた町で起きるイベントと言えば、まず冒険者ギルドに行ってからの冒険者登録。そこでガラの悪い先輩冒険者に絡まれたり、薬草集めなんかの簡単な依頼を受けたり、その依頼をこなしに行った先で偶然にも魔物に襲撃される馬車に遭遇したり、そういう展開になるはずなんだ。

 

 どうして俺は町に入って早々、多額の借金を負わされて、見るからにカタギではなさそうな男たちに連行されているのだろうか。

 

 逃げることも考えた。しかし、そんな俺の考えを見透かすように食堂のマスターは釘を刺してきた。

 

 『くれぐれも妙なマネはしないことだ。俺たちはちゃーんと領主様の許可を取ってキチンとした商売をしてるわけだ。兵士に泣きついたって無駄さ』

 

 本当にこの町の上層部は腐りきっている。これまで見てきた兵士たちの態度からして信憑性は高かった。これだけ用意周到な犯行計画を立てた連中なのだから、権力者への根回しも既に終えているのだろう。

 

 それでも竜人パワーでぶっちぎろうと思えばできなくはないのかもしれない。しかし、それをやれば完全に犯罪者だ。この国の法制度がどうなっているのか知らないが見るからに中世レベルの治世だし、犯罪者の身柄の保障なんてまともにしてくれるわけがない。

 

 何より、それをやるとアルターさんに迷惑がかかってしまうかもしれない。俺と彼女が関係者であることは兵士にも知られている。もしアルターさんにもあらぬ疑いがかけられれば、人探しどころではなくなってしまう恐れがある。

 

 今頃、アルターさんはどうしているだろうか。もう町中には入れただろうか。俺のことを探しているかもしれない。

 

 アルターさんからしてみれば、財産の半分を渡した相手が少し目を離した隙にいなくなったようにしか見えないだろう。泥棒も同然である。今度こそ愛想を尽かされたとしても文句は言えない。

 

 「うう……アルターさん、ごめんなさい……」

 

 迷惑をかけてばかりで何も恩を返せていないじゃないか。申し訳なくて涙が出てくる。そんな俺の様子を見て、俺を引きつれて歩く男たちはニヤニヤと下衆な笑みを浮かべている。

 

 「よし、着いたぞ。今日からお前にはここで働いてもらう」

 

 どこに連れて行かれようとしているのか気になっていたところだった。あの食堂で下働きをさせられるわけではないらしい。スラムみたいなうらびれた薄暗い路地の先、一件の大きな建物の前へと到着する。

 

 周囲の建物に比べればちょっと豪華な感じがする。宿泊施設のようにも見える。いったいここは何なんだ。

 

 「娼館だ」

 

 「ブーッ!?」

 

 町に入って小一時間もせず、風呂に沈められようとしていた。

 

 「トマトスープ一杯で風俗堕ちとかあくどいにも程がある!」

 

 「何言ってんだ。こっちは仕事まで用意してやったんだ。せいぜい気張って働くんだな。まあ、近々俺たちも遊びに行ってやるよ。サービスをはずんでくれればお前の借金返済にも協力してやるぜ。はははは!」

 

 くそ、誰が男の相手なんかするか。これ以上、男どもの顔も見たくないと思った俺は自分から娼館の扉を開けて中に入った。

 

 中は静かだった。まだ昼間だし、営業時間ではないようだ。ただ、人はいる。粗末な身なりをした少女が黙々と掃除をしていた。さすがに娼婦ではなさそうだ。俺の方をちらりと見たが、何も言わず掃除を続けている。

 

 「新入りだね?」

 

 手持無沙汰にしていると声がかかった。一人の老婆がエントランスの先に立っている。なかなか高齢であるように見えるが、その立ち居振る舞いには気品を感じさせる女性だった。若い頃はさぞかし美人だったことだろう。歩く姿も折り目正しい。マダムと呼ばせてもらおう。

 

 「話は聞いている。来な」

 

 颯爽と背を向けて廊下を進んでいく。有無を言わせぬその風格に従うよりほかにない。その背中を追って、一室へと入った。マダムが椅子に座る。その対面に俺も座る。

 

 「誰が座っていいと言った?」

 

 立ちあがる。座っちゃだめだったようだ。なんか高校の入学試験を受けたときの面接を思い出す雰囲気だ。

 

 「で、名前は?」

 

 そして唐突に始まる質問。心の準備も何もできていないというのに、いよいよ面接っぽくなってきた。

 

 「ご、ゴーダです」

 

 「……なんだいそのしみったれた船乗りみたいな名前は。まあ、後で適当に源氏名を見つくろってやるさね。年は?」

 

 「じゅう、なな、くらいですかね?」

 

 「自分の年もわからないのかい」

 

 そう言われても、俺が憑依してしまったこの少女が何年生きていたのかなんて知るわけがない。

 

 「何をして働いていた?」

 

 「えーっと、森で迷子を少々……」

 

 「もうちょっとマシな冗談は言えないのかい?」

 

 呆れたようにため息をつくマダム。だが、それ以上こちらの素性を詮索してくることはなかった。

 

 「男との経験は?」

 

 「ないないないない……いや、ない?」

 

 どうなんだろう。この少女には交際相手がいたのだろうか。経験ということはアレをしたかどうかということだよな……答えられるわけがない。とりあえず、ないことにしておく。

 

 マダムはもう一つため息をつくと、かけていた眼鏡をはずしてテーブルの上に置いた。

 

 「じゃあ、下を脱ぎな」

 

 「は、え、脱ぐ?」

 

 何が「じゃあ」なんだ。もう少し主語とか目的語を詳しく述べてくれないと、突然脱げと言われたって話が理解できない。

 

 「処女かどうか確かめないと商品としての価値がつけられないよ」

 

 オーノー。

 


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