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19話

 

 いかに長い行列と言っても、時間ととも消化されていくわけで。いつまでも列が終わらないように感じるのは、後から次々と新しい人が並んできているからだ。俺たちが歩いてきた森に続く道には人通りがなかったが、その他の道からは続々と人が集まってきている。

 

 初めは最後尾にいた俺たちも今は行列の中ほど。当然、俺たちの後ろにも並んでいる人はいる。そして、運の悪いことにその人はお世辞にも性格がよさそうには見えない類の人相をしていた。

 

 「どうせ男に媚を売ってよお、騙くらかしてかすめ取った汚ねえ金なんだろ? だったら、少しくらい俺たちに還元してくれてもいいよなあ? なんならその体で払ってくれてもいいんだぜ? ふひゃひゃ!」

 

 ものすごい小物臭だ。前歯が一本欠けた口内を見せつけるように大笑いしている。口臭がきつくて思わず顔を背ける。

 

 そんな俺の反応を見て、アルターさんがすぐに対処してくれた。チンピラの胸ぐらをつかんでひねり上げる。

 

 「ぐおっ!? なにしゃがるてめぇ! 女のくせにいおわああああっ!?」

 

 そのまま腕一本で男の体を地面から浮かせ、放り投げてしまった。すごい、スケさんカクさんに守られているご隠居の気分です。アルターさん、イケ女ンすぎます。

 

 「ちくしょう! 馬鹿にしやがってえ!」

 

 無様に尻もちをついて転がったチンピラが起き上がり、再び食ってかかってくる。しかしそのとき、俺たちの後ろに並んでいる人が前に詰めてきた。列の外に放り出されたチンピラは、行列からはじき出された形になる。

 

 「あぁ!? なに勝手に詰めてやがる! そこは俺が並んでた場所だ! どけ!」

 

 怒りの矛先が変わったようだ。今度は後ろの人に食ってかかる。だが、その人はさして気にした風もなく平然としていた。

 

 「何か問題があるか? 馬鹿が一人、列からはずれた。誰だって当然、前に詰めるよな?」

 

 後ろの人もガラが悪かった。しかし、口臭チンピラとは格が違う。こちらはいかにも裏稼業の人間というか、修羅場くぐってきました感をありありと匂わせる男だった。チンピラとしてのグレードが違いすぎる。

 

 何よりしっかりと武装している。腰に剣を下げており、口臭チンピラもうかつに手を出そうとはしない。それでも歯がみして食い下がろうとする口臭チンピラに、本格派チンピラが睨みを利かせた。

 

 「まだ何か?」

 

 「……ぐぞぉぉ! おぼえてろよ!」

 

 顔をくしゃくしゃに歪ませた口臭チンピラが退散していく。また最後尾に並び直すのだろうか。少しだけ気の毒に思えてくる。

 

 「あ、ありがとうございます」

 

 「何も礼を言われるようなことはしてねえ」

 

 本格派チンピラは腕を組んでクールにたたずんでいる。口臭の人よりはマシだが、やはりこういうヤクザ風の人には近づきがたい雰囲気があって気後れしてしまう。悪い人ではなさそうだけど。

 

 「いやあ、驚きました。そちらのお嬢さんは大層な魔法の腕前ですなあ。大の男を腕一本で投げ飛ばすとは。いやはや」

 

 商人のおじさんがアルターさんを褒める。この世界の人たちの標準的な強さから見ても、アルターさんの力はなかなかのもののようだ。

 

 「アルターさんはホントすごいんですよ。いつも助けられてばかりです」

 

 「いやいや、そう言うあなたも十分以上にすごい。その大樽をずっと背負い続けているじゃありませんか。よく魔力がもちますね?」

 

 なんか身体強化みたいな魔法を使っていると思われていたらしい。いたって素の体力です。まあ、樽の中身は空なんですけどね。あまり怪しまれて目立ちたくはないので、樽は背中からおろしておくことにする。

 

 「私も若い頃は村の大岩投げ大会でチャンピオンになったものですが、今ではすっかり魔法の腕も衰えてしまいましたよ。ははは」

 

 うーん、なんだかまだこの世界基準の強さがはっきりしない。魔法の存在は広く認知されているようだが、魔法使いみたいな職業があるのだろうか。一般人でもある程度、魔法は使えるのだろうか。

 

 その辺りのことを聞いてみたいが、あまり常識的すぎることを根掘り葉掘り聞いて不審がられるのも嫌だ。まあ、いつか調査しておこう。

 

 俺と商人さんが適当に話をしつつ、後ろのアルターさんと本格派チンピラさんは黙したまま、少しずつ列が消化されていく。するとあるとき、列の前方から一人の女の子が歩いてくるのが見えた。

 

 小さな女の子だ。小学生くらいだろう。悲しそうにうつむき、今にも泣きそうになっているように見える。

 

 「幼女ですね」

 

 その通りだが、アルターさんが言うと全部ヘンタイっぽいニュアンスが付加されてしまうので、やめて。

 

 明らかに何かあった雰囲気のする女の子だが、周囲の人たちは誰も声をかけようとしない。俺は周りに合わせてこの女の子を無視するようなことはできなかった。

 

 「どうしたの? 何かあった?」

 

 女の子の目線に合わせるように、体を前に傾かせる。あ、この体勢はちょっと、おっぱいが前面に強調されるような形になってヤバいな。

 

 俺に気づいた女の子はこちらに近寄ってきた。それまでこらえていた涙があふれるように泣きだしてしまう。話ができるようになるまでしばらく待った。

 

 落ちついたところで話を聞いてみると、列の前方でいじわるされて横入りされたらしい。そのときに押し出されて列から追い出されてしまったそうだ。さっきみたいなガラの悪い連中がいるくらいだし、それでなくてもこの入場制度に納得がいかずピリピリしている人は多い。こういったトラブルがあっても不思議ではない。

 

 しかし、こんな小さな女の子相手に大人げない。

 


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